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業界の知見ゼロからのスタートでPMFを果たした、technersの「ものづくり」の裏側

techners株式会社は、2018年6月に創業。美容サロン向けの店舗管理SaaS「KaruteKun」を提供しています。実は、美容業界については全くの知見がない状態でスタートしたtechnersの第一歩。現在、プロダクトはPMFを果たし、technersは自社でも美容室を運営するまでに至っていますが、それまでにはどんな歩みがあったのでしょうか。

代表のじゃっきーさんと、創業期からエンジニアとして活躍している溝口さんに、プロダクト開発の経緯や事業展開に対する思い、組織運営で大切にしていることなども含めてお伺いしました。


※こちらの内容はポテンシャライト社にインタビューを実施頂き作成いたしました。ポテンシャライトの皆様、制作ありがとうございます…!!!

今回のインタビューは2本目となります。1本目はこちらからどうぞ…!!!↓

1.プロダクト開発の起点となった美容業界への思い

―美容サロン向け店舗管理SaaSである「KaruteKun」は、どのような構想でスタートしたのでしょうか?
じゃっきー:実はプロダクトの構想を最初からはっきり描いていたわけではありません。美容室でイチ消費者として良いサービスを受けたことに感銘を受けたのと同時に、業界に存在する多くの負を耳にして疑問を感じました。何か自分たちが解決の一助になることはできないか?との思いでスタートしました。

店舗の目線に立った時に「美容室経営の合理化を推し進めるためのサービス」が不足していると考え、長期的に目指していくテーマとしました。

その上で、いきなり「店舗経営の合理化しませんか?」とスタートさせることは難しいため、明らかに顕在化している課題の紙カルテの業務効率化に焦点を絞っていきました。そのためスタートは電子カルテからとなったのです。

電子カルテを作り込み顕在化している課題を解決しながら、その過程で美容室や業界について深く学び、徐々に経営の合理化に資するサービスにアップデートしていこうと考えました。

―当時、目指すべき会社規模やプロダクト展開などの展望はあったのでしょうか?

じゃっきー:正直に告白すると、特に深いものはありませんでした。今思うと浅はかですが、少数のエンジニアが集中して開発をすれば、テクノロジー領域では十分に果たせる役割があるはずだと考えていました。

美容業界についてそこまで知見があったわけではなかったので、マーケットの可能性や、どんなプロダクトを出すのが正しいのかも、見当がついていませんでした。

何もわからないからこそ、まずはとにかく動いてみて、作ったものをお客様に見せてフィードバックをもらいながら、その上で学習しながら進めていこうと考えていました。

2.「人を知りたい」――創業の根底にあった強いこだわり

―溝口さんは組織の立ち上げ期にジョインされていますが、どんな経緯だったのでしょうか?

溝口:「とにかくうちなら楽しいことができると、友達になって欲しい」と言われたのが最初のきっかけですね。大前提として、じゃっきーはそもそも「人を知るために起業をしたい」と言っていたんですよね。なかなかない誘い方だなと思いました(笑)

話を聞くうちに、人やチームを重視する考え方に共感して、ジョインを決めました。私自身は携わる業界に強いこだわりはありませんでした。ですが、じゃっきーと働けば今の環境をガラッと変えられそうだと感じたのも、決め手の一つです。

じゃっきー:溝口とは仕事の話よりも、雑談ばかりしていましたね。結果的に最初は業務委託でスタートして、3ヶ月ほどで正社員としてジョインしてもらいました。

「人を知りたい」と言っていたのは、前職の経験があってのことです。私はもともと大手企業に勤めていて仕事は評価されていましたが、どこか満たされない思いがありました。転職をきっかけに、新しい会社では「人」と関わる楽しさを改めて実感できました。

ずっとここで働こうとまで思っていたのですが、その頃にプライベートで大失恋をしたんですよね。人と人との信頼って、一体何なんだろう……。そんな大きな疑問を抱くようになったのをきっかけに、「人間を知るために会社経営をしよう」と思い立ちました。

3.素早くリリースを実現するも、直後に大きな壁に直面

―KaruteKunは開発から3ヶ月でリリースされたそうですが、どのようなプロセスを踏んだのでしょうか?

じゃっきー:開発を進めながらも、まずは業界のことを知ろうと書籍やSNSなどを通じて片っ端から美容の情報を収集しました。とにかくリリースまでは開発に全速力で。開発の合間をぬって業界のことをキャッチアップしたり美容師の方10名へヒアリングしたりしていました。私はアプリ開発自体も初めてだったので、本当に手探りでした。

溝口:とにかく早くマーケットにプロダクトを出さないと、何もわからない状態でしたからね。不要な機能はどんどん削りながら開発を進めました。ただ、3ヶ月という短期間で一気に駆け抜けたがゆえに、リリースまでに苦労した記憶はあまりありません。

じゃっきー:その後待っている苦労も知らずにガッと進めていました(笑)。

―実際にリリースしてからはPDCAを回していかれたと思いますが、どんな状況だったのでしょうか。

じゃっきー:リリースまではハイスピードでしたが、その後は試行錯誤の連続でした。構想段階では、美容師の方にプロダクトの内容を説明するとどなたも「いいね、良さそう」と言ってくれていたのですが、実際にリリースしたプロダクトを持っていったら、10人中9人に「いらない」と言われるような有様だったからです。

溝口:今でも思い出しますが、あの頃はものづくりに対して悪戦苦闘してましたよね。

―なぜ、プロダクトに対する反応が180度変わってしまったのでしょうか?

じゃっきー:ヒアリングの際、美容師の方の本音と建前を全く理解できていなかったからだと思います。当時、お話を伺えた美容師の方は知り合いのツテを頼ってなんとかアポを取れたような状況。

いざお会いしても「営業後にちょっとならいいですよ」と言われるほどで――要するに、全くウェルカムな環境ではなかったんです

そんな中で説明をして、「便利そうですね」と言われた言葉を好意的に拡大解釈してしまっただけで、イコールで「プロダクトができたら契約する」なんて話ではありませんでした。

4.業界に深く入り込み、答えを探す。徹底した現場主義を生んだ原体験

―プロダクトの提供と平行して、今は自社で美容室経営もされています。どういったプロセスがあったのでしょうか?

じゃっきー:リリースから2年ほどは、とにかく美容師の方々にお会いして、業務の現場を観察し続ける日々が続きました。

北は青森から南は岡山まで、とにかく接点ができたら夜行バスも利用して何時間かけてでも現場に赴いて、自分たちはお店のゴミ掃除を手伝いながら、働く姿を観察させてもらったんです

現場で使っているカルテも撮影させてもらい、気付いたことは全てSlackに記載していきました。

溝口:その上で、プロダクトのボタン位置やカメラの設定、カルテの操作方法、項目の順番に至るまで、本当に細かい内容を調整していました

じゃっきー:こうした行動の根底にあったのは、「ユーザーがヒントを持っているはずだ」という思いです。

答えではなくヒントを探すために現場に足を運び、観察した内容から自分達の頭で考えて解決策を作り出すことを愚直に繰り返していました。

営業経験などは全くなかったためやり方は下手くそでしたが、ひたすら現場に飛び込んで、答えの糸口を探そうとしていたんです。

その活動を深めた末に、実際に自社で美容室を運営するに至りました自分たちが本当に正しく進んでいるかどうかを知る羅針盤として、一番最初に投資したかったのが美容室の運営だったんです。

―なぜ、そこまで深く業界に入り込まないと正解を見つけられないと考えたのでしょうか?

じゃっきー:2つの原体験が関係しています。

1つ目は、私が前職でソーシャルゲームを作っていたときのことです。私自身ほとんどゲームで遊ばないのですが、ユーザーは莫大なお金と時間をゲームに注ぎ込みます。

ここに葛藤を抱き、そして真正面から向き合いたいとの思いから、ユーザーの気持ちを理解するためにとあるゲームをやり込んでみたんです。30万人のユーザーがいる中で、ランキング6位になるほどで、1ユーザーとしてゲームの面白さを観察し続けました。やりこんでこそ見えてくる心象風景や、当初表層だけをなぞっていた時とは異なるわくわく感を実際に感じ取れたのは非常に良い経験でした。

もう1つは、いわゆる「壊れたチーム」にプロジェクトマネージャーの立場でジョインした経験です。

チームの外側にいるうちは、多くの課題の根本的な原因がわかりませんでした。机を横に並べ、すべてのMTGに同席し、できるだけ一緒に時間を過ごしながら、深く中に入ってみて初めて、現場で本当に起きていることが理解できたのです

これは、美容業界も同じだと考えました。これまでの歴史的な経緯や、成り立ちを深く理解しない限り、本当の課題解決はできないと考えています。

美容の文化をリスペクトしながら、なぜこの業界ではITが活用されないのか、どうするのが根本的な解決になるのか……こういった疑問の答えを、一方的に決めつけるのではなく美容師の目線に立って一緒に見つけたいです。そういうスタンスはずっと大事にしていますね。ITに詳しい僕らが「世直し」しようといった感覚は一切ありません。

5.プロダクトマネージャーは不在。プロダクトの方向性は全員で決める

―technersの組織にはプロダクトマネージャーがいないのも一つの特徴ですが、どんな理由があるのでしょうか?

じゃっきー:基本的に「みんなで決めよう」というスタンスがあるからです。technersでは、「この人が言うことは聞こう」ではなく、「自分が納得したら行動する、違うと思ったら違うと言う」のが当たり前になっています

実際に当社では、何か一つ機能をリリースしたらメンバー全員が集まって、次にすべきことをディスカッションして決めていきます。僕は事業の土台となる課題を整理したり、解決のためにどんな手段があるのか候補を挙げたりする立場であって、あくまで決めるのは「みんな」です。

きちんと根本的な情報を共有すれば、デザイナーもエンジニアも問わず、そもそも課題設定は正しいのか、取るべき解決策が間違っていないかどうかまで議論できます

みんなで話し合った結果、当初のテーマとは異なった形の解決策を取ることに決めて、大きな反響を呼んだ例もあります。

美容室がお客様とコンタクトを取るための手法として当時は自社アプリの開発が主流だったのですが、議論の結果、「お客様と接点を作る」という目的だけに絞って、LINE連携機能を開発しました。当時そういう発想をしたのは、業界の中で当社だけでしたね。

溝口:あれはプロダクト開発の良い思い出ですね。最初からスタートアップやプロダクト創りは「こうあるべき」というものは全くなかったですし、むしろ僕らの場合は知らなかったが故に今のような在り方になった気もします

じゃっきー:それはあると思いますね。あと僕らってやっぱりわがままだったと思います(笑)。言われたことをやるというタイプの人が良い意味でいなかったというか。

僕の大好きな溝口エピソードの1つなんですが、実際に、美容師の方から「ある機能の並び替えが欲しい」と要望を受けたことがあります。確かに美容師の方の話も理解でき、不便であるのは間違いないので開発に進めようと提案した時に溝口は全然納得しなくて(笑)

実際に利用する美容師の方は「なぜ並び替えをしたいのか、何が本当の課題で困っていることなのか」という問題の事象から試行錯誤。うんうんと1時間ほど唸っていたと思いきや、結果的には全く異なる方法で見事に解決しました

溝口:あくまでユーザーである美容師の方々は「答え」ではなく「ヒント」をくれているのだと考えるようにしています

PMが意思決定をしてエンジニアが開発をし実装してデザイナーが見た目を整えてみたいな、上流から関わるとかっていうワーディングはやっぱすごい違和感があります

当たり前にみんなで全部関わってるので、その問題と認識するにあたった事象の共有からスタートして、なぜこれを解決したいのかとか含めて対話しつつプロダクトを創っていきたいなと思っています

じゃっきー:プロダクト創りや美容師の経験もない僕らだからこそ「みんなで学習し続ける」スタイルで進めていますね。

―今後、KaruteKunを成長させていくために取り組みたいことなど、展望はありますか?

溝口:私やじゃっきーがある程度業界の知見はすでに持っていますから、リードする立場を取りつつ、「みんなで学習する」というスタンスは今後も継続させていきたいと考えています。

昔と今とではやっぱりフェーズが変わってきていて、KaruteKunもある程度形になりました。今後は完成度を高めながら運用するフェーズに突入しています。

現在は次何しようみたいな会話を定期的に行いみんなで1つのテーマ設定。1つテーマが決まると、まずその開発を頑張りましょうという期間に入り、また一、二ヶ月でリリースするというサイクルなので、人員を増やしながらもプロダクトを前に進められるような開発体制の構築が必要になるかもしれません。

じゃっきー:とはいえ、業界について「わかったつもり」にはなりたくありません。自分たちの体験をプロダクトやサービスに反映させるのは当然ですが、その上でまだまだ探求すべきことはたくさんあります。

それは、今後新たにジョインするメンバーも同じです。私や溝口がこれまでに収集した記録を読んで終わりにするのではなく、自分の目で見て感じ、考えたことこそ大事にしてほしいです

一般的にはロードマップ通りにプロダクトを創りましょう、となりがちなのですが、一見無駄と見られるものこそに価値があるというか。互いに自分なりの意見を出し合いながら、みんなでプロダクトを創っていけるといいなと思っています。


インタビュー記事の2本目をお読みいただきありがとうございました!この内容も未来の仲間になるかもしれないあなたに、どこか響くところがあればとても嬉しいです…!

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インタビュー記事最後の3本目は近日公開です!続きをお待ちください…!

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