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大学中退して独立したら独立なんて必要なかった話㉓

15分ほどバイクを走らせると、僕が通っていた福岡大学についた。二人ヘルメットを外し、バイクのメットホルダーにヘルメットをつけると、ネットと調べておいた教務課の場所に二人歩いて行った。教務課なんて行ったことがなかった。大きな大学の中、用事がなければ立ち入らないこところがたくさんあった。普通に何もなければ教務課なんて一度も行かずに卒業することがほとんどだろう。

そんなことを思いながら二人歩いていると、教務課の文字を発見した。

「ここやね。」

「そうやね。俺は外で待ってるね。」

と鳥部が言う。僕は一人教務課の扉を開けた。スチール製の机に、スチール製の受付台。誰も興味がなさそうなポスターが張られていて、市役所のようだった。教務課は職員の人が2、3人いたが、閑散としていた。窓口の職員に声をかけた。事前印刷し、記入しておいた退学届を出しながら

「すみません。これお願いします。」

「はい。少々お待ちください。」

と書類を受け取り、小慣れた様子でくるっと椅子を回転させ、処理に向かった。声質といい、対応といい、まるで市役所で印鑑証明をもらうように、スムーズかつ淡白に対応している。

「はい。これで受付終わりです。お疲れ様でした。」

と控えをもらい、感傷に浸る隙を与える間も無く、あっけないく僕の大学生活が終わった。

晴々しいのか。寂しいのか。本当に市役所と似ている。役所に行かなければならないというめんどくささ。行ってみると意外にあっけなく終わる。しかし、爽快感は感じない。

教務課の扉を開け

「終わったよ。」と僕は鳥部に言った。

「意外に速かったね。行こうか。」

そう鳥部が言うと二人でバイクを止めた場所へ歩き出した。バイクを止めた場所に着くと、ヘルメットを被りエンジンをかける。

「ラーメンでも食って帰ろうか。」

「いいね。行こう!」

と会話をしながら、二人バイクに跨り、バイクを走らせた。


バイクを走らせていると、なんとも言えない気持ちがこみあげてくる。じわじわと実感をしてきた。

この年齢で、肩書きを失った気持ちを。肩書きの大きさを知ったのだ。大学生という肩書きがあれば、ある程度は何をしていても許されていた。バイクに乗ってふらふらとツーリングしたり、向上心もなくアルバイトしたりしていても、大学生という肩書きがあれば、世間は優しく許してくれていたのだ。若気の至りとして。これからは単なるフリーター。同じ言葉でも、同じ行動でも、同じ評価を受けることはないのだ。RPGゲームの武器・防具を一切つけていない心情と同じだろうか。同じレベルでも、武器・防具なしでは戦えないかもしれない。マルチビジネスの人間が良いスーツを着て、タワーマンションに住む理由が少しわかった気がした。大学生という肩書きを失うことで、僕は自身の実力の無さを突きつけられた気がした。

しかし。やらなければならない。ここからなのだ。そう自分を鼓舞する。尾崎家唯一大学に行った人間でもあり、尾崎家唯一のフリーター。期待されたが、裏切った人間。このままでは終われない。

鼓舞する自分とは裏腹に、肩書きを失った僕はバイクで感じる風が少し寒く感じた。



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