- 運営しているクリエイター
#ショートショート
【140字小説】鈴虫の声
昼間、庭で片付けしてる僕を、薮蘭の影から1匹の鈴虫がじっと見ていた。
そして今、アイツがないてる。外から声が聞こえる。秋の夜に、寂しげに響く澄んだ声。
「なんで私を殺したの?なんで」
昼間庭に埋めた筈のアイツが泣いてる声だ。
鈴虫の声はしない。奴も僕が潰して片付けておいたから。
【140字小説】都合のいいストーリーならよかったのに
私は人嫌いだから園芸が趣味だった。植物は煩く喋らないし、それでいてちゃんと生きてて四季折々の姿を見せてくれるから素晴らしい。
そんな私の美しい庭を見に近所の人が集まって、いつしか私の人嫌いは治って…いるはずもなく、庭の写真を勝手に撮ってSNSに上げる輩がいて益々人嫌いになった。
【140字小説】凄いんだか凄くないんだか
「お前さん死相が出ておるぞ」
休日の雑踏でふいに声を掛けられた。振り返ると、胡散臭い老婆がニタニタと俺を見上げている。
「死にたくなければこれを3千円で買え_」
俺は札を差し出す老婆から逃げる様に立ち去ったが、内心かなりビビっていた。
なんであの婆さん死んでる俺が見えるんだ…⁉︎
【140字小説】炎上
「お子さん、何年生ですか?」
「いいえ、可燃性ですよ」
「え?」
「え?いやだから、人間は可燃性なんで。燃えちゃうんで。危ないからそのライター仕舞ってくれます?」
「あ、失礼しました。煙草を吸おうとしてつい。で、何年生なんですか?」
「可燃性だっつってんだろ」
「え?」
「は?」
【140字小説】日曜日の朝
「住み慣れた町を離れるってのは本来なら辛いものかい?僕はあまり。近所付き合いがなかったから愛着が全くないんだもの。実際こうやって引っ越す僕を見送る人は誰もいないだろ。…次の町では離れる時に辛いと思えたらいいな。」
男は野良猫にそう言うと立ち去った。
静かな静かな日曜日の朝だ。
【140字小説】分かってる
「もしも好きな年齢に戻れるなら何歳に戻る?」
長い夏休みがある小学生かな?
毎日がお休みの赤ちゃんかな?
お金と自由がある大学生かな?
…そんな楽しい想像を巡らせながら、私は長い間病院のベッドに横たわっている。
戻れない事は分かってる。
そして進めない事も、勿論分かっているよ。
【140字小説】M氏の受難
「生きてるだけで偉い」
「辛いなら逃げていいんだよ」
笑顔で優しい言葉をかけてくれる人達。
…馬鹿か!ただ生きてるだけで偉い訳ないだろ!辛いからって逃げてていい訳ないだろ!
俺は哀哭した。この国は変わっちまったんだ。
…誰か厳しい言葉をくれ!叱咤激励してくれ!どうか冷たい目で罵ってくれよ!