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「インナーブランディング」プロジェクトレポート|(前編)自社の事例

TDSでは、2021年に「企業理念の整理」に着手し、継続的に「社内への浸透施策」を実施しています。この一連のインナーブランディングをリードしてきたデザインコンサルティング部の下山、能藤の2名へ実施の概要やポイントをヒアリングした内容を2回に分けて紹介します。

今回の記事(前編)では、「自社のインナーブランディングの実施概要」をお伝えします。

この記事は、こんなお悩みを持つ方のヒントになることを目指しています
・自社の理念体系に「時代や社員とのズレや過不足」を感じている
・社内外の「スローガンが乱立」して整理ができていない
・合併、統合、代替わり、新会社の設立等で「理念体系の整備」が必要
・経営が掲げる「理念や方針が社員に浸透していない」
・対外的な発信に「社内の理解が追いついていない」
・経営者と社員間の「マインドのギャップ」が存在する
・採用で「ミスマッチが起きている」  など

次回の記事(後編)では、クライアントワークでもブランディング支援を得意とする二人への「インナーブランディング深堀インタビュー」をお届けします。


インナーブランディングの背景

まずはTDSがインナーブランディングに着手した背景についてです。

2017年の10月、現社長である加藤が3代目社長に就任する際、デザインの可能性を広げることを念頭に「デザインに戦略性を、ロジックに創造性を」というスローガンが掲げられました。合わせて、デザイン制作会社からデザインファームへと事業領域の拡張を目指すことが宣言されました。

それから約3年ほどたった、2021年1月。外部環境の変化や社内におけるスローガンの浸透状況などを鑑みて、インナーブランディングの必要性がマネージャー層から提起され、翌月の2月にプロジェクトが開始されました。

施策の全体像

インナーブランディングは現状把握 → 設計 → 文書化(=ここまでが企業理念の整理) と 浸透(=社内への浸透施策)の4つのフェーズに分けて進めました。そして、これらはさらに細分化すると、図のような9つのステップで構成されています。

[現状把握]

1-IBチーム発足

まず最初に、推進チームを作りました。経営企画部の役員である緒方、発起人でもあるマネージャーの下山、ブランディングコンサルタントの肩書をもつ能藤の3名によるIB(インナーブランディング)チームです。「誰(何)に対して、どういう状態を作れると良いのか?」について議論を重ね、TDSの場合は「好きになる」というキーワードを軸に根本的な目的や現状の整理をすることとしました。

これは、デザイン制作会社からデザインファームへと事業を拡張すること自体やその変わり方、変わる姿(受け継ぐDNAと新しく取り入れる要素)などについて、手触り感のある共通言語や解釈の助けとなるコミュニケーションを増やし、社員のエンゲージメントを高める必要があるという仮説を前提としたものです。

そして、現時点で考えられる施策やアウトカムについても、この段階でカジュアルに議論しました。例えば、会社を好きになってもらうためには「しっかりと一人一人の社員との対話が必要」「経営者のパーソナリティがもっと見えるといい」というような切り口で、会社、経営者、人、仕事、風土など、それぞれに対して「好きになってもらう」ための幅広いアイデア出しを行いました。これによって、チームメンバーの初期認識を形成しました。

2-基本方針の設定

IBチームの中でインナーブランディングの目的整理がある程度進んだ段階で、ステップ2の基本方針の設定に進みました。ここでは、経営層へのヒアリングを重ね、以下2点の必要性が見えてきます。

・社内にある幾つかのスローガンの位置付けの明確化
・理念整理や施策決定のための材料(情報)の収集

TDSには「デザインに戦略性を、ロジックに創造性を」以外にも、「自由・自主・自立」や「デザインで価値を創出する」といった馴染みある言葉が幾つかあり、これらの位置づけや時代との整合性を社員が明確に持てているかといえば、それを断言できる人はいない状態でした。

そこで、これらのスローガンの位置付けを明確にする。つまり「企業理念の整理」を実施し、その整理した内容を社内に浸透にしていく、というのが基本方針になりました。

しかし、理念を整理したり、浸透施策を検討するには、「社員のリアルな情報」が不足していました。これまでも経営層と社員との風通しの良い細かなコミュニケーションが望まれてはいましたが、100名を超える社員数もあり実現していませんでした。しかし、ここは腰を据えた意見交換が必要と考え「役員と社員による座談会」の検討を始めました。

3-座談会の設計

座談会は、主に以下の点に留意して計画しました。

・設定した目的を達成できること
・自由な対話を誘発すること
・関係者の負荷が少ないよう運用すること
・感染等への配慮(COVID‑19初期)

また、社員が忌憚なく話をできるような環境づくりにも努めました。

・話が弾みやすいグループ構成にすること
 ※年齢・経歴・役職・経験が近い社員4-5名×役員2名
・センシティブな内容も話しやすいよう録画・録音をしないこと
・ここでの会話の内容は評価に一切反映しないこと
・オンラインで実施すること

実際のヒアリング内容は、次の設問を軸にしました。会社の良いと思っているところ、悪いと思っているところ、現在不安に思っていることなど、1.5時間×計31回の座談会をスケジューリングしました。

4-座談会

座談会は、多くの社員にとって日頃の疑問を役員に直接投げかけ、直接回答を得る体験自体が新鮮ということで好評でした。

一方で、役員は「思っていた以上に、新たな方針や戦略、構想やスローガンの社内への理解や浸透が薄い」ことを認知する機会になりました。これはネガティブに捉えるよりは、むしろ現実のギャップを知る重要な機会でした。

苦労したこととしては、録画・録音をしない取り決めで実施したため、31回議事内容の発言録、要約作業が非常にハードだった点が挙げられます。

[設計]

5-基本設計

座談会の結果を踏まえた詳細設計に入る前に、まずは「前提の認識合わせ」を行いました。

主に実施したのは、ブランディングコンサルタントである能藤から経営層に対する「企業理念とはそもそもどういうものなのか」のインプットです。基本的な考え方や認識の足並みを揃えることで、今後の話を進めやすくしました。

さらに、「役割分担の明確化」も行いました。

座談会の情報集約が必要な「ミッション(パーパス)」と「バリュー」については引き続きIBチームで進め、「ビジョン」に関しては、中期経営計画の戦略に基づいてビジョンを策定する新しい経営企画部の立ち上げのタイミングでしたので、経営企画部の預かりにしました。

【補足】ミッション(パーパス)・ビジョン・バリューの一般的な定義

ミッション(パーパス)
活動の目的、組織の存在理由。それをもって憶えられたいこと。使命。社会の中で組織が果たすべき役割。

ビジョン
(1)ミッションが達成されると実現される、社会や顧客の未来の姿。ミッションを補足説明する要素。
(2)中長期の自社の将来像。こちらは理念と言うより戦略。

バリュー
大切にしている考え方、行動の仕方。価値観。社風や組織風土としても表現される。

6-詳細設計

IBチームは、理念のモトとなる素材の集約をしていきました。座談会の発言録からキーワードを抜き出し、オンラインホワイトボードのmiroに貼って分類をしました。集約の方法は、シンプルにKJ法を用いています。

このとき例えば、デザインについて「こだわっている」と言う人も「こだわれていない」「今後こだわりたい」という人もいます。ただ、みんなデザインへの「こだわり」について発言をしている、という風にまとめていきます。こうした小分類や、さらに大きなカテゴリーに分類して、最終的に図のように分類しました。

こうしてみると上段(3つの黄緑+1つの灰色の4ブロック)は「今いるところから新しいことへの挑戦」の内容で、下の3つは、創業者が唱えていた「自由・自主・自立」の内容だなということが見えてきました。

[文章化]

7-ライティング

この段階の結果を経営層に報告した後、ミッション(パーパス)とバリューに当たる項目とその意図を紐解く説明文章のライティングへと移ります。

IBチームは「インナーブランディングに対する役員の参画度合いをもっと強めたい」という想いがあったため、コピーライターの経験をもつ役員にライティングを依頼しました。6-詳細設計で整理した素材をもとに、その役員が文章を起こし、IBチームと経営層とでニュアンスや一字一句を精査していく流れとしました。

その結果でき上がった企業理念は、「存在意義」「行動規範」「提供価値」「信条」の4つの要素から構成するものになりました(一般的なミッション(パーパス)、バリューの定義に照らし合わせると、存在意義は「ミッション」、信条は「バリュー」に相当します。今回は社員にとってわかりやすい呼び方を優先し、存在意義と信条という言葉を採用しました)。

[浸透]

8-社内リリース

これで理念体系の整理が完成したため、社長による「社内発表会」を実施しました。合わせて、コーポレートサイトの「コーポレートフィロソフィー」をリニューアルしました。

9-全社員アンケート

社内発表会を実施後は、全社員にアンケートを取りました。これは社員からのフィードバックを得ると同時に、「具体的にどのような行動を取れば理念を実践できるか」を自由回答で考えてもらうことで、自分ゴト化につなげる浸透施策の第一歩とすることが目的です。

任意のアンケートでしたが、社員の85%以上から回答を得ることができました。アンケート結果は社員にも公開し、コミュニケーションの一助としています。

その後の浸透施策について

本プロジェクトは2021年2月からスタートして、翌年5月の理念発表会までを区切りとした「15ヶ月」程です。しかし、インナーブランディングとしてはむしろここからが本番であり、その後の浸透施策として現在も様々な施策を運用中です。

ここでは、3つご紹介します。

浸透施策 ❶|表彰制度との連携
従来から年に一度「社員の取り組み」を表彰する「TDSアワード」という社内表彰イベントがあるのですが、その「審査基準」に、企業理念の視点を盛り込み「理念にコミットした成果」を表彰をするようにしました。

浸透施策 ❷|ポジティブフィードバック
理念を社内に浸透させるには、理念に沿った社員の行動を上司が的確に評価し、後押しすることが効果的です。そこで、従来は管理職に一任されていた面談方法を改善し、上司から部下への「ポジティブフィードバック」のやり方を取り入れました。これにより、理念で期待される行動と日々の行動との合致が上司から前向きに伝えられるため、社員が自然と理念に沿った行動に取り組めるようになっていくと考えています。

浸透施策 ❸|となりの社員さん
理念に沿った行動を体現している社員の振る舞いをカジュアルにインタビューする「となりの社員さん」という企画を行っています。これは社員から社員へのリレー形式の社内動画コンテンツです。社員同士でインタビュアーとインタビュイーを務めることで、社員の人柄を知ることもできるようにしています。

次回(後編)

この施策を推進した下山と能藤に、普段のクライアントワークでのブランディング業務も含め質問形式でインタビューをしています。


気になる点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。


TDSのブランディングサービスについて知りたい方はこちらをどうぞ。


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