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掌編2021

332
365篇、書けたらいいな。
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2021年7月の記事一覧

さとう水

「水に砂糖を溶かすなんて普段する?」 「え?料理の時とかしない?」 「おまえする?」 そう…

たつきち
2年前
5

結露する窓

会うたびに母は壊れていく。 アルツハイマー型認知症の母は、ここ一年ほどでだいぶ症状が変わ…

たつきち
2年前
8

加藤さんの手仕事

病院で時々一緒になる加藤さんという人がいる。 「カトウヒロコさん」 偶然にも、歯医者と整形…

たつきち
2年前
12

梔子の家

あれ?この香りはなんだっけ? どこかで嗅いだことのある甘い香りに振り返る。 誰ともすれ違…

たつきち
2年前
13

そうだ。サンドイッチ作ろう。

今日は久しぶりに研究室に行く。 研究室のメンバーは皆元気だが(不健康そうなのもちらほら見か…

たつきち
2年前
9

里の夏

「今年の暑さは異常じゃないか?」 「夏神様がお留守だからなぁ。大神様がまた加減せずに暑く…

たつきち
2年前
6

火星探査機

火星に着陸した火星探査機のその後を考える。 動かなくなった火星探査機=ローバーたちはどうなるのだろう? 火星には雨が降らない。 錆びて朽ち果てることはないのだろう。 信号が途絶えた後も彼らは何も気にせず動き続けているのかもしれない。 歩き回る者もいれば、その場で静かにモーターだけが音を立てているだけかもしれない。 いくつかその地表にいるローバーたちが、ある日偶然巡り会うなんてこともあるかもしれない。 「やあ、キミもアメリカから来たの?」 「向こうで古い先輩を見かけたよ」 そん

小休止のコーヒー

幸いだったのは大学が春休みに入ったことだった。 はっきりいって彼の体調は芳しくはない。 横…

たつきち
2年前
8

明日から夏休み

仕事をするようになって間もない頃だった。 地方のイベントの手伝いに駆り出された夏の日。移…

たつきち
2年前
3

胡桃

ものすごく小さかった頃の思い出。まだ彼が屈託なく笑う頃だった。 お祖母様の家にあったくる…

たつきち
2年前
7

胡麻塩

実家を出て3年後、弟がやってきた。 自分は就職でこっちに来たけど、弟は専門学校に入った。 …

たつきち
2年前
5

dig

コンクール出展に向けての作品制作ははっきり言って煮詰まっていた。 美大で油絵をやっている…

たつきち
2年前
6

知らないNの背中

新しいプロジェクトは敢えなく頓挫した。決してNがいないせいではない。自分たちを取り巻く環…

たつきち
2年前
10

緑の火竜

昼から雨が降り続いている。今日は早めに店じまいをした。 まぁ、あれだ。例の感染症のあれだ。 ちっとも商売にならない。 ライブハウスは今やレンタルスペース状態。 ステージで練習やら収録(今はいろんな技術が発達して、自分たちで動画を撮って、ネットにアップできる。プロがいなくてもなんとかモノになるのはいいことなのか、悪いことなのか)やらに場所を貸して、その日の飯を食う…という感じだ。 自分の場合はまだいい。ひとり暮らしだし。ここも自分の持ち物だ。さほど借金もない。 店の裏の自宅に戻