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掌編2021

332
365篇、書けたらいいな。
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2021年4月の記事一覧

指先の絆創膏

ふと思い出したのはNさんの指だった。 男の人の指ではあるけれども、指がとても綺麗だった。 …

たつきち
3年前
7

隙間

昼間の中心街をひとりで歩くなんてことは滅多にない。いや、初めてかもしれない。 普段気に留…

たつきち
3年前
4

Fly High

半年ほど前から一緒に住むようになった従弟は、いろいろあって「話す」ということをしなかった…

たつきち
3年前
5

Nの背中

急な知らせを聞いてただただ俺はその場に立ち尽くした。 Nが死んだという。 俺らの年齢なら、…

たつきち
3年前
2

over the rainbow

大学を卒業間もなく、僕は結婚した。 高校の頃から付き合っていた彼女が、海外に行くことにな…

たつきち
3年前
6

のの様

のの様は真夏生まれの神様で、何の神様かというと「雪」の神様だった。 「この矛盾」 のの様の…

たつきち
3年前
1

地獄の番犬

これはどう見てもかの有名な地獄の番犬ではありませんか? 竪琴の音色で安らかに眠ってしまうなんてまさにケルベロス。 「お安くしておきますよ」店主が言う。 「これでいてなかなか飼いやすいんです。主人には忠実だし。ここに来て餡パンを覚えましてね。好物なんです」 「餡パン?」 「漉餡が好みのようで」 竪琴をかき鳴らしながら店主は言う。 長い銀髪をゆったりとひとつにまとめた店主は、流暢な日本語を語るが、どう見ても西洋人である。しかもペットショップの店主というには浮世離れしすぎた雰囲気だ

未投函

苦手なことはいろいろある。 微塵切り。モノを捨てる。天麩羅を揚げる。英単語を覚える。 でき…

たつきち
3年前
2

記憶の埋葬

「僕らがこの国に移住したのは安楽死が認められているからなんです」 著名な作家である彼は、…

たつきち
3年前
3

Mr.SUMMER TIME

ミスターサマータイムのことは町の誰に訊いても答えられるし、そもそも訊かなくてもすぐわかる…

たつきち
3年前
2

金魚と眠る

誰が落ちた?誰が? ・・・この子が残ったところで何の役にも立たない。 ・・・お荷物なだけ。…

たつきち
3年前
2

金魚の眠り

薄らぼんやりとした日だった。 薄曇りの日は全てをうっすらとした不安が覆うような気がする。 …

たつきち
3年前
3

金魚と眠り

その人はいつも球形の金魚の水槽の前で膝を抱えて眠っている。 眠るには少し涼しいかもしれな…

たつきち
3年前
2

水出しコーヒーの午睡

自社は社内でのミーティングなどはリモートで済ますようにしているし、できる。 ポスターやパンフレットの見本も担当各自の家に送ってもらうのも構わないが、やはり取引先相手に「自宅」を知られるのもどうか?という意見もあり、「モノ」が絡むことは会社にての話になることが多い。 加えて、クライアントに「お会いしてお話ししたい」と言われたら出掛けなくてはならない。 もっとも自分は立場上、クライアントと会うより、社内での萬相談みたいな状態になっている。 「常務、出勤率高いですよね」 「みんなが