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Mr.SUMMER TIME

ミスターサマータイムのことは町の誰に訊いても答えられるし、そもそも訊かなくてもすぐわかるよ。なんてったって、彼は一年中夏なんだから。一年中、半袖に5分丈のパンツ姿。サングラスをかけて、時にはキャップを被る時もある。半袖はTシャツだったり、アロハだったり。服装だけじゃないんだ。彼のそばに行くと夏の日差しと風を感じる。不思議とね。でも大抵通りを挟んでとか、車の窓越しに会うんだ。ミスターサマータイムに声をかけると右手を高く挙げて、白い歯を見せて笑う。すごく感じがいい。
名前?気にしたことないな。みんな「ミスターサマータイム」と呼ぶんだ。家?うーん、少なくとも僕は知らない。でも、ほら、ここから見える海沿いのあの道。あそこでよく会う、というか見かけるから、あの辺に住んでいるんじゃないのかな?仕事?んー、気にしたことがない。あ、友人が「アーティスト」って言っていた。なんのアートか知らないけど。別の友人の話だと、午前中に波乗り帰りらしいミスターサマータイムに遭遇するらしい。年がら年中じゃない。いい波の季節だけ。いつ頃?知らないよ。僕はサーフィンしないから。
ただね。ミスターサマータイムは夏には姿を消すんだ。だって町中みんなが夏の服を着ちゃうんだよ。誰がミスターサマータイムなのかパッと見、わからないでしょ?顔を見ればわかるだろう?わかんないよ。ミスターサマータイムはいつだってサングラスをかけている。オシャレなミスターサマータイムは実にさまざまなサングラスを持ち、半袖シャツも見るたびに違うのを着ているんだ。
だからさ、こんなところで僕なんかに話を聞いているよりも、町を歩いてきなよ。ミスターサマータイム、今の季節ならまだいるからさ。梅雨入り前にも一度暑くなっちゃうだろう?その頃も、ミスターサマータイムが増殖しちゃうから探すの厄介になる。この町の男連中はみんなミスターサマータイムに憧れているから、ちょっと暑くなると半袖を着て丈の短いパンツを履いてサングラスをかけて町を歩く。自分こそがミスターサマータイムだと言いたげにね。
僕?そりゃあ僕もミスターサマータイムに憧れているけど、寒がりなんだよね。ホント、残念というか悔しい話。
桜の散った今の季節なら、まだミスターサマータイムに会えると思うよ。ほら、早く探しに行きなよ。
ミスターサマータイムに会えたらよろしく伝えといてくれ。