一旦「お金」から離れて考えてみる
column vol.815
キャリア論の第一人者で、慶應義塾大学 SFC研究所上席所員・高橋俊介さんの【この先、食えるため「何を学ぶか」見つけ方5大秘訣】という記事が、とても参考になったので共有させていただきます。
〈東洋経済オンライン / 2022年10月15日〉
この記事は「独学力」の向上、つまり「学びのWhat(何を学ぶか)」を見極めることの大切さを説いています。
自分の特徴や目指す方向性を見定め、必要なことを学び、自分だけのブルーオーシャンを見つけていく。
その思考のステップが書かれた記事なので、ぜひ読んでいただきたいのですが、一方で「何を学んでいくか」「どんな自分を目指していくか(どんな自分で勝負するか)」、なかなか見つからない人も少なからずいるでしょう。
私の周りでも困っている人はチラホラいます。
そんな時、もう1つの記事に小さな光を感じました。
「自給自足」から見えてくるもの
それは、bizSPA!フレッシュで紹介されていた“田舎暮らし”を謳歌する永野太郎さんの考え方です。
〈bizSPA!フレッシュ / 2022年10月11日〉
この方、もともとは東京でイラストレーターとして活躍されていたのですが、野食の魅力に目覚め、千葉県鴨川市に移住。
その場所とは最寄り駅から徒歩なら2時間半かかる場所。
無農薬、無堆肥の自然農を取り入れたオーガニックファームにて年間120種類の野菜を栽培しながら、立ち飲み屋を営んでいます。
なかなか素敵でユニークな生活をしているので、詳しくはbizSPA!フレッシュの記事を読んでいただきたいのですが、自給自足の生活を通して、それまでの常識が覆ります。
何より、田舎暮らしで一番貯めないといけないもののは、お金よりも「信頼」。
住民の方々からの信頼があれば、食料も住まいも、ちょっとした仕事も集まってくるようです。
もともと、自給自足しているわけですから、最低限食べていくには困らない。
そんな生活を通して、永野さんはこんなメッセージを発信します。
田舎暮らしで大事なのは1回、いままでの人生を置いてきて新しくスタートさせるということですね。前はこの仕事をして、これくらい稼いでましたとかと言っていても、田舎にくれば、「何ができるの?」という視点で見られます。
草刈りをやったことないというと笑われますし、自分の家の周りの草刈りをサボってると、知らない間に嫌われてたりしますね。草に害虫が湧いて、他所の田んぼにも害虫が増えて迷惑がかかるのです。
おすすめは1年間くらい仕事をせずに、田舎の人間模様を観察することです。また、貨幣経済とは別の物々交換がまだあるのも面白いです。
貨幣経済とはまた違う人生の基準がある。
これって、非常に大きいと思うのです。
「お金」はあっても「不安」は残る
貨幣経済の中に身を置いていると、お金を基準にした決断が多くなってしまいます。
学校も、仕事も、結婚も、出産も。
お金があるかないか、多いか少ないかで判断してしまう傾向にあります。
もちろん、全てではないですが、冒頭の「学びのWhat」に関連して言うならば、例えば、絵が上手い銀行員の人に画家になることを勧めても「いや〜、食っていけないからムリだよ〜」と言われる可能性は高い。
好きで得意なことであっても、稼げるか否かが基準となります。
もちろん、現実的には当たり前なのですが、一方でお金は思っているほど人を幸せにしてくれない。
「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマに研究する予防医学研究者の石川善樹さんも、「東京のような都会にいると、『お金がないと生きていけない』という強迫観念がある」と指摘しています。
〈logmi / 2022年9月17日〉
石川さんは香川県の三豊市を訪れた時、家賃の低さに驚いたそうです。
大きな一軒家の家賃が、何と3,000円。
しかも、“年間” 3,000円だったそうです…(驚)
一方、都会ではさまざまなことを犠牲にして一生懸命働いても、大きい一軒家には住めないかもしれません。
さらに、石川さんは「人生に対して不安が少ない人ってどういう人なんだろうか?」という調査をしたことがあったそうなのですが、結局は「お金はいくらあっても不安が無くならない」というのが結論だったそうです。
確かに、2015年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のアンガス・ディートン教授が行った「年収と幸福度の関係」の調査では、年収7.5万ドル(約800万円)という結果でした。
お金を多く持つと、今度は失う恐怖が心を支配する。
logmiの記事で、石川さんの対談相手を務めたレオス・キャピタルワークス代表・藤野英人さんも、「多くの日本人は死んだ時が一番お金の保有残高が大きいそうなんですよ」と語るように、結局は、お金に一生不安を抱き、たくさんのお金を残して天国に旅立っていく。
それが貨幣経済(社会)のおける、ちょっと考えさせられる悲哀なのです。
「学びのWhat」のもう1つの答え
そう考えると、「学びのWhat」ってもちろん、「一生稼げるための自分づくり」も大切なのでしょうが、実は「お金だけに頼らない」能力も同じぐらい大切なのかもしれません。
それは、自給自足できる能力(サバイバル能力)だったり、田舎暮らしの永野さんが大切だと語ったコミュニティの中での助け合いの精神だったり。
昨今、子どものうちから金融教育を学ばせようとしていますが、実は同時に貨幣経済の中にはない人生観やノウハウを身につけることも重要なのではないかと感じます。
それがあってお金があるのと、それがなくてお金があるのでは大きく違うと思うからです。
巷では、ベーシックインカムの導入について議論されていますが、人口減少で土地が余る時代になるならば、都会も田舎も関係なく、皆が自給自足できる能力と環境を手にしていくことも、最低限の生活を保証する社会になると思うのです。
そうなった時に、先ほどの例に出した絵の上手い銀行員は、もっと自由に好きな生き方をできているかもしれません。
もちろん、この現代社会においてお金は必須ですし、私の考えは荒唐無稽なものであることは重々承知なのですが、予想不能なVUCA時代において、新しく身につけたスキル・ノウハウがすぐに廃れたとしても、自給自足する能力は太古の昔から変わらないもの。
人間が生きていくための普遍の力で、間違いなく廃れないものです。
そんな貴重な能力が、都会に生まれ、都会で生活していると失ってしまう。
そのことも、実は心の不安定さに無意識に繋がっているのではないかと勘繰ってしまうのです。
ちなみに、ライトに自給自足ライフを味わいたい人もいらっしゃると思いますが、最近では農業体験を織り交ぜたワーケーションである「アグリワーケーション」に注目が集まっています。
〈TBS NEWS DIG / 2022年10月24日〉
こうして農業に興味を持つ人が増えているのも、「稼ぐこと」と「生きること」が必ずしも一致しないということを肌で感じているからなのではないかと思っています。
人生の次の一歩を考える時、一旦お金のことから離れて考えることができるならば、それは本当の豊かさに出会える可能性が高いような気がします。
もちろん、簡単なことではないのですが…
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