新しい“居場所”との出会い
column vol.837
世の中、“多様性”を重視する流れが生まれている中で、集まる場(コミュニティ)も多彩になっていると感じます。
例えば、「無職酒場」というコミュニティはご存知ですか?
「無職者」が次に向かうための飲み会
この無職酒場とは、京都市でまちづくりの会社を営む東信史さんが主催を務める取り組みなのですが、これが何と「無職」の方は飲食無料の飲み会イベントなのです。
つまり、お金を支払うのは「有職者」のみ。
無職の方々が気兼ねなく集まり、語り合える場として、関西を中心に6月から不定期開催されているのです。
常連の方の1人は「無職だと人前で言いにくかったけれど、ここでなら言えるんです」と語ります。
そして、この会で自分の想いを聞いてくれるありがたみを感じてなのか、今ではカウンセリングに関心を持ち、勉強をしているそうです。
無職になって会社員時代には出会えなかった人に出会えたという方もいて、無職酒場を通して貴重な経験を味わい、前向きになる方も多いようです。
そんな空気感とのこと。
6月に京都市で初めて無職酒場を開催し、予想以上に盛り上がったことで、7月に再び京都で開催。
さらに、8月は広島、神戸で開き、毎回、数十人が集まったそうです。
誰もが時に一旦リセットしたくなる気持ちはあるかと思います。
そうした受け皿としてそっと寄り添う無職酒場に、今後も注目したいですね。
「不登校」の子どもへの新しい光
仕事の次は「学校」です。
不登校の小中学生が昨年度、9年連続で増え、全国で24万人を超えたそうです。
〈読売新聞オンライン / 2022年11月13日〉
もちろん、コロナの影響も指摘されていますが、なかなか厳しい状況ではあるでしょう…
そんな中、その状況に救いの手を差し伸ばしている方もいらっしゃいます。
東京大先端科学技術研究センター(先端研)の中邑賢龍さんは
と夢見ています。
中邑さんはもともと2014年から7年間、東大と日本財団が共同で行った「異才発掘プロジェクト ROCKET」を運営していました。
そんなユニークな小中学生を毎年10~30人程度選抜し、海外研修も含めて学びの場を提供してきたのです。
日本財団の支援が終了したのを機に、単発の活動を月数回行うプロジェクト「LEARN」が昨年スタート。
突き抜けた才能がなくても、学校になじめず困難さを抱える子どもを、より幅広く支援していきたいと考えているそうです。
親から離れて真冬に北海道の牧場で働く「家出体験」に挑戦したり。
行き先が分からない旅に出て高知で漁船に乗り、料理研究家の土井善晴さんと魚をさばいたり。
中邑さんは、ただただ昔なら地域や家庭で教えていたような「生きる力」を身につけてもらいたいと思っているそうです。
だから、遠足の朝の集合時間に遅れる子どもは置いていき、電話があったら、宿から自力で追いつく手段を探すように言う。
「遅れるようにするな」と強制するのではなく、「遅れないようにしたい」という主体的な心を育んでいくというわけですね。
「Shopping」から「Gathering」
最後は私の専門分野の「小売業」についてのヒント事例とご紹介して締め括りたいと思います。
新潟大学の学生さんが運営している「houkiboshi」という駄菓子屋があるのですが、ここは「誰もが集まれる店」を目指しています。
〈Think / 2022年11月13日〉
そもそも駄菓子屋にしたのは、年配の方には懐かしくて、若い人にとっては新鮮なので幅広い層の人たちが利用できると思ったからだそうです。
運営する学生は「店主は決めずに、みんなでできる範囲でやっていこう」ってスタンスのようで、まさに今注目の「ネットワーク経営」を体現しています。
経営メンバーの九鬼拓也さんは、このお店で広がる人の輪について、このように話しています。
このことって、これからの小売業が目指すものなのではないかと感じます。
なぜなら今、小売の世界では「『Shopping』から『Gathering』へ」と言われているからです。
ショッピングするだけなら、ECや、今後はソーシャルコマースやメタバースなど、オンラインの世界が強くなっていくでしょう。
やはり、実店舗はリアルだからこそ魅力を突き詰めなければなりません。
人がわざわざ足を運びたくなる場所とは何か?
その1つのヒントが「集まりたくなる」という感情の形成なのではないかと思っています。
集まったついでに、何か新しいモノとの出会いがあって、それが欲しくなって購入が生まれる。
目的消費もオンラインが強くなっていく中、駄菓子屋のようなワクワクするような遊び心のある場と商品を提供することができるのか?
小売業はきっと「大人の駄菓子屋」と考えると、答えに近づいていくのかもしれませんね。
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