見出し画像

急にクビになった山田さん①


私が働いている会社はクレイジーである。
ゆえに働いている人もクレイジー上司をはじめ、クレイジーな人…もとい、個性的な人が多い。

クレイジー上司は良い方向でのクレイジーだが、相対的によくない方向にクレイジーな人がいるのもまた事実である。

つい先日、急に一人のおじさんが解雇された。
仮に山田さんとしよう。

山田さんは10年ほど前に一度うちの会社に在籍していたが、辞めて違う会社で働いているところに、社長から新規立ち上げの部署に部署長として戻ってこないか?と声をかけられ1年ほど前に返り咲いた出戻りの人だった。

前途した通り、うちの会社はクレイジーな会社である。
いくら誘われたからといってよく戻ってきたなぁと不思議に思っていた。
余程条件が良かったのか?なんて邪推をしながら理由を尋ねてみた。

すると、
「なんか辞めた後も定期的に高価な食事に呼んでくれてたから、いつものノリで誘われてご飯に行ったら戻ってこいって言われて、あれよあれよと戻ることになっちゃった、あはは」
とかなりふわっとした理由で、なんだか物腰が柔らかいけど本質や本心を話してくれてないような、何を考えているのかわからない印象を受けた。

「戻ってこいって言われただけじゃ転職することにはならないですよね?だって「やります」って明確に意思を持って返事しないと話し進まないですよね。辞表出すとかいろいろありますよね?え、断りきれなくて無理やり引き戻された感じですか?」
と追撃しても
「ううん、無理やりとかじゃないんだけどね。気がついたら戻ってきてたわ。あはは」
とはぐらかされた感じになった。

「新規部署をやってみたくて」「条件が良くて」ともなんとも言ってくれず、なんとなく会話になってない気がしてモヤっとしたのだが、のんびりとしたマイペースタイプで人の話を遮ることはしないし、ちゃんと話しを聞いてリアクションをしてくれるので核心をついた話以外の日常会話は割と話しやすい方だった。

「10年ほど前に在籍していたときは、ストレスが凄すぎて全部の髪が抜けて丸ハゲになったんだよ。でも抜けきってしばらくしたらまた生えてきて、元々直毛だったのに新しく生えてきた髪がくせ毛になってたんだ。ははは」
というゾッとする逸話を笑いながら話してくれた。

「髪が戻ったからまぁよかったんだけどね〜ははは〜」とのんきに言う山田さんに「え、ますますなんでそんなストレスすごかった所に戻ってきたんですか!?謎すぎます」と思わずツッコミを入れたのは想像に固くないだろう。

このように穏やかで人柄は良い山田さんだが、会話をし始めると手が完全に止まるタイプで、話しながら仕事をすることができないため相手が話し終わるまで相手に体を向けておしゃべりに集中してしまうところが難点だった。
プライベートなら問題ないどころか手を止めて集中して話しを聞いてくれるなんて大歓迎だが、仕事仲間として出会っている以上はお話しながらも手も動かしてほしいのが同じ部署の人たちの本音であった。

また、山田さんは襟足部分の髪の毛をくるくるとねじるクセがあった。
電話しながら左手はくるくる、キーボードを打ちながら左手はくるくる。
書類に目を通しながら左手はくるくる。
さらには髪をくるくるしながらぼーっとしてフリーズしているときもあった。
なのでめちゃくちゃ仕事が遅い。

それに加えてあまりやる気があるような仕事ぶりでもなかったので、新規部署はあまり発展できず半年も経たずに頓挫してしまった。

その部署は解体され、なんと山田さんはクレイジー上司率いる私の所属している部署にやってきた。

とは言っても人手の足りない営業のヘルプがほとんどでほぼ一緒に仕事をすることはなかったのだが、うちの部署の仕事を教える機会があった時に、私の横のデスクに座って仕事をしてもらっていると、
本当に髪の毛を永遠にくるくるして仕事が遅い上に、ちょっと話しかけると手が止まって仕事が進まない、すぐタバコを吸いに席を立つ、「それやらなくていいですよ」と言ったことをやって、「これやってくださいね」と言ったことをやらない、要領を得ないメールを送って何度もラリーが続く、説明不足でお客さんを怒らせる等、お世辞にも仕事ができるタイプではなく、同じ部署だった人たちが困っていたことがよく理解できた。

クレイジー上司の耳にも噂は届いていたので
「山田さんは目を離すとすぐサボるから〜」といじっていた。
すると
「サボってないですよ、ちゃんとやってますよ〜止めてくださいよ〜」
といつもののんびりした感じで否定して2人でタバコを吸いに席を立っていた。(なんだかんだ仲良し)

きっと出世するつもりもなくて家族のためにとりあえず働けたら何でも良いっていう感じなのかなと思い、
私がお給料を払ってるわけでもないし、山田さんが仕事が遅くても私や他の慣れているメンバーが普段通り仕事をしたら全然問題なかったので、私は私自身をご機嫌でいさせるために、
仕事を早くやってもらおうとかそういう「期待」をしない方向で山田さんに接していた。

向いていないもの、不得手なものをどうにかしてよって思ってもお互いに不幸なだけなので、私は割り切ることで自分の心を整えていた。

クレイジー上司や他のメンバーからも仕事が遅いなぁと思われながらも、温かい目で見守られていた山田さんだったが、
ある日、クレイジー上司がとあることを見つけてしまったことから事態は急展開を迎えた。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?