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【新規事業担当者に効く】気になるスタートアップのキモ解説:ジンジブ(高卒就職支援サービス)‐前編‐

こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。
今回は3月22日に東証グロース市場へ上場された、高校生の就職を支援するというユニークなサービスに特化した株式会社ジンジブを深掘りしてみたいと思います。個人的にこちらの企業を知った時、シンプルに「なぜそこ(=高校生の就職支援)に着目したのだろう?」という興味が沸いたことがリサーチテーマとした理由ですが、調べれば調べるほど「起業するとはどういうことか?」「ビジネスチャンスになり得る機会を捉えるとはどういうことか?」を考えさせられることになりました。

新規事業や起業に関わる人にとって、非常に学びが多いと感じており、社会課題を捉えて起業に至る経緯と、ジンジブのビジネス分析の2回に分けて考えてみたいと思います。


ジンジブとはどういう会社?

ジンジブは、高校生を対象とする就職支援サービスを中心に、高卒社会人の教育・転職支援サービスなどを提供している会社で、前身の広告販促企業を経て2014年に創業されています。代表の佐々木満秀さんご自身が高校を卒業してトラックの運転手を経て広告代理店でトップセールス常務取締役時代に倒産を経験されている苦労人。「20代で倒産の悲惨さや大変さを見てきた経験とトラウマもあり、絶対に潰れない安定した会社をつくる事を決意」されたといいます。

事業のポートフォリオは3つで、高校生向けの就職求人サイトの運営が全体の6割弱を占めています。
1)採用領域
主力の就職求人サイト「ジョブドラフトNavi」を中心とした採用支援サービスのほか、これに紐づく企業向けの企画制作サービス、代行支援サービス。
2)教育領域
教育研修サービスとして、学校及び高校卒社会人に向けて教育研修プログラムを提供。
3)その他
高卒第二新卒や既卒生向けの就職・転職支援サービス「ジョブドラフト Next」
の提供。

現代になお残り続ける高校生の「選択肢なき就活」とは?

ここまでの説明で「高校生向けの就職マッチングビジネスね」と合点された方も多いかと思うのですが、ここに時代錯誤とも思える大きな社会課題が存在するところがポイント、それが高度成長期からいまだに変わらない「1人1社制(原則1社の単願が求められる)」「企業との直接コンタクト禁止(学校を通してしか求人情報が得られない)」という仕組みがあります。

内閣府「1人1社制をはじめとする高卒雇用慣行の見直しについて」より
現代に残る行政/高校/企業の3社協定(24年事業計画及び成長可能性に関する説明資料より)

学業との両立平等な就職機会の提供を目的に、学校と企業、行政の三者間で協議のうえ、ルールやスケジュールのガイドラインが定められており、その代表例が一人一社制。指定校求人で学校の推薦を受けて企業に応募する際は、応募解禁日から一定期間は一人一社までしか応募できないというルールです。企業からは単願応募が要求され、学校側も推薦数を制限して生徒の就職を斡旋します。個人が自由に就きたい仕事や企業の情報を集め、自由に応募し選考を受ける大卒者との違いは非常に大きく、結果として3年以内の離職率が37.0%(20年厚労省統計)と、大卒の32.3%と大きな差が生まれています。デジタルネイティブ世代にもかかわらず、学校を通して提供される情報はテキストのみの紙の求人票――、このギャップの大きさに愕然としました。シンジブはこの社会課題を機会と捉え、事業領域に設定されています。

ジンジブが捉える社会課題と事業機会(24年事業計画及び成長可能性に関する説明資料より)

どのようにして社会課題、高校生が抱える「不」を捉えたのか?

成功する新規事業が押さえている社会課題ですが、これを捉える難しさ、膨大にかかる労力を感じている新規事業担当者も多いと思います。シンジブの佐々木さんはどのようにしてこの「不」を捉えたのでしょうか?そこに私たちが再現性の高い「方法」として学べることはあるのでしょうか、もう少し創業時のエピソードを紐解いてみます。

きっかけは自身の心身の不調

常務取締役を務めていたベンチャー企業が倒産した後、1998年に佐々木さんが30才のときに携帯電話の販売促進に特化したプロモーションを手がける企業を創業、無借金の手堅い経営で順調に成長し、中小企業部門で帝国データバンク社のスコア1位を獲得するまでに至ります。しかし同時に佐々木さんの心身はボロボロの状態で、事業譲渡を考えるほどだったとか。

そのなかでも佐々木さんと一緒に働きたいと慕う社員の気持ちに触発された結果、堅実経営の殻を破って、規模拡大を決意するのですが、ここで転機が訪れます。規模拡大の礎は「人材の採用」、まずは自社の採用を強化するため、社内に人事部を作るところから始まりますが、ここで中小企業の多くが管理部や総務労務部が兼任で採用業務を行うことが多く、人事部を持つ企業が少ないことに気付きます。

ジンジブの沿革(24年事業計画及び成長可能性に関する説明資料より)

新規事業の成功のカギは、違和感と個人の意思、そして人材の大切さ

2014年頃まではホールディングスの形態をとっており、広告ビジネスを手掛ける「株式会社ピーアンドエフ」、中途紹介採用の「株式会社社長室」、そして「株式会社ジンジブ」がありました。先に挙げた分厚い慣習の壁に阻まれているジンジブだけが不採算の状態だったといいます。しかし、ここで佐々木さんは「高卒採用支援は『やりたい』ではなく『やらなければならない』」と高卒採用支援事業に注力したいと考え、黒字で売上も20億円出ていた2社を手放し、全てのアセットをジンジブに注ぎ込むことを決意します。

当然ながら足元の苦戦を知っている経営メンバーは「市場はない」「国や行政に歯向かうことなどできない」と大反対しますが、社会課題の解決に使命感を感じていた佐々木さんの熱意に応じた、意思を同じくする半数の社員とともに、ジンジブのビジネスに一本化します。その後ジンジブは順調に成長、IPOを果たして今日に至ります。ビジネスモデルの詳細な分析や強み、弱み、今後の課題の考察は次回に行うとして、新規事業に関わるものとして、ジンジブの起業ケースから新規事業に備えていたいこととして思うことは、この4つです。

・現状に対する強い違和感
・何としても実現させたいこと(=ビジョン)
・思いを同じくする人材
・その分野に対する知見と経験

ジンジブの事業成長状況(24年事業計画及び成長可能性に関する説明資料より)
ジンジブの事業内容(24年事業計画及び成長可能性に関する説明資料より)

ロジックだけでは満たせないもの

変化のスピードが速く、不確実なこの時代で、さらに正解のない新規事業を成功に導くことは決して簡単なことではありません。その確率を高めるために「正しい方法」「不確実性を下げるアプローチ」を取ることは欠かせませんが、それより前にプロジェクトに備えておきたいのが先の4つではないかと感じています。

そのなかでも特に難しいのが大きく、強い課題を捉えることなのではないでしょうか?ジンジブの佐々木さんはご自身の経験や原体験を持っていたことと、企業を拡大する過程で「中小企業の人事が抱える不」に気づくアンテナを持っていたことでこの課題を捉えられたのではないかと思います。

果たして一個人で、また企業の中の新規事業担当者として、こうした大きな課題を捉える「方法」としては、

・個人の原体験や感じた違和感の振り返り
・多様なメンバーの確保(「個人」の引き出しを多く持つこと)
・企業活動を通した自社内、取引先、ユーザの「不」の仮説構築と検証

この3つが誰もが取りうることと感じています。ビジネスに繋がる社会課題を幅広く探しに行き、見つけだすことも物理的には可能ですが、その労力に対して見つけ出せる可能性は非常に低くなるでしょう。それよりも個人やチームメンバー、自社内にあるアセットなど、「身近にあるもの」から掘り出すのが現実的、かつ近道です。

そこに加えて重要なのが理解度。その分野について「誰よりも詳しい」といえるほど、洞察を深めて初めて見えてくることも多いものです。個人の強烈な原体験があればこれを満たせますが、仮に担当者として新規事業にあたるのであれば、リサーチ量や顧客理解を深めるためのインタビュー量は求められることになります。

PdMDaysのトークセッションで、PM Club主宰の佐々木さん(ジンジブの佐々木さんとは別の方です)が「「PM Club」に限らず、事業を立ち上げる際には、その分野の課題に「日本一詳しくなる」くらいの気持ちで入り込むようにしています。100人、200人へのユーザーヒアリングは当たり前ですし、サービスを立ち上げた後も、毎日お客さんに会って話を聞いています。そこまでやって初めて、本当に大事なことが分かってくる。」と言われているのも、腑に落ちました。

さて、前編はここまでです。
次回はジンジブのビジネスについて深掘りしたうえで、捉えられている課題についても考察して学びを得たいと思います。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!次回もまた読んでいただくことができたら、とてもうれしく思います。(≫次回へ続く)


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