食事を楽しむ【ディズニーランドのフォーマット】#3
「南欧のワイナリー」「ニューヨークのデリカテッセン」「イスラームの城塞都市」……ディズニーシーのレストランでは、それぞれのエリアに根差した地域色あふれるフードを楽しむことができる。世界中の料理のすべてが一つの場所で体験できる──これは今や当たり前の概念となっているが、少し冷静に考えてみたい。
これらのレストランはすべて東京ディズニーリゾート内に位置し、すべて同一の企業・株式会社オリエンタルランドによって経営されているのだ。
一体どうして、そんな曲芸が可能なのだろうか?
この記事では、東京ディズニーリゾートのレストランに見られる共通性、そして相違について、比較をしながら鑑賞していきたい。
レストラン名称
正面入り口
広告
カウンター
外パネル
出口(ここからは入れません)
トレー
「園内レストラン」経営は異常
以前にも書いているが、東京ディズニーリゾートは異常である。
キーホルダーを製造し、油圧式機械を動かし、正確な色の指定で建物を補修し、世界史や科学に基づいて知識やフィクションを提供し、尚且つレストラン経営も行っている企業など他にあるだろうか。
そんな中だからこそ、東京ディズニーリゾートのレストランには敬意を払わねばならない。
近年、陶器の皿を紙皿に変更し、手の込んだメニューは次々に販売終了しているディズニーパークのレストランだが、それでも良心があるというべきか、未だに「ニューヨーク・デリ」で「ニューヨークチーズケーキ」を提供しているという事実には驚かされる。
さて、そのように食事と物語を同時に提供するディズニーパークのレストランの造形における大きな特徴は何か──それは、レストランとアトラクションの違いから読み解くことができる。
ディズニーのアトラクションの種類としては例えば、ボート型ライドやコンベア型ライド(ディズニーのものは「オムニムーバー」という)、そしてレール型ライドといったものが挙げられる。しかし、使っているシステムは同じでも、建物内の動線や電気系統、使用するロボットの台数や配置、何より内容が全く異なっているはずだ。これにより各アトラクションはどれもオーダーメイドの“オンリーワン”であると言える。
一方でレストランの種類は、「テーブルサービス」=キャストが注文を取りに来るレストラン、「カウンターサービス」=マクドナルド方式の先払いレストラン、「ワゴンサービス」=屋外に設置されたその場で売り買いするレストランなどに分かれている。この種別は機能の分別ではなく、オペレーション=仕事による分別なのである。
したがって、テーブルサービスのレストランはすべて同じ機能を有し、カウンターサービスのレストランの構造は基本的に統一されている方が便利だ。
ディズニーパークはこの問題を、どのように切り抜けているのだろうか?
以前の記事で書いたのと同様、これには「機能とデザインの分離」が関わっている。
機能とデザインの分離
各レストランで必要な機能は同様だ。
例えば今回ならば「カウンターサービス」のレストランを中心的に取り上げた。ここで必要なのは、まず出入り口、ゲストが各々自由に食事を選ぶためのメニュー表、そしてメニューをゲスト自身が運ぶためのトレーなどである。これらはそれぞれ同様の構造で作られており、単に外面が異なっているだけなのである。
このことによりゲストは、レストランの利用方法に迷わなくて良い。
「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」を訪れたゲストは、「ニューヨーク・デリ」や「カスバ・フードコート」を訪れて「同じように利用すればいいのだな」と気付いて、実際その通りにできる。
ちなみに、今回はとりわけ東京ディズニーシーにかぎっているが、カウンターサービスレストランの仕組みは東京ディズニーランドも全く同様だ。
レストランに一筋の光をもたらした「ハングリーベアの悪夢」
さて、先に紹介したこの東京ディズニーランドの「ハングリーベア・レストラン」だが……このレストラン、本当にマジでガチでとんでもないくらい使い“辛い”のである。
人が5人並んだらギリギリのレストラン……。東京ディズニーランドに1度でも行けば、これがどれだけ危険かわかるだろう。ピーク時は少なく見積もって20名ほどが外に並んで控えることになるのだ(ちなみにこの「外」というのは「テラス席」であり、ゲストがふつうに食事をしている)。
しかも、この20名が建物の中がどうなっているかを覗くことは殆ど不可能である。
更に、「カウンターサービス」レストランのレジスターは特殊で、1つのレジに対して2列形成し、左右交互に処理することになっている。このことに気が付かないゲストは、列の長さから受ける印象の2倍の待ち時間を何が何だかわからないまま待つ必要があるのだ。
東京ディズニーランドがオープンした1983年から来園者数は右肩上がり。そこで、2001年にオープンした東京ディズニーシーでは、親の首をとったように「広いカウンター」が登場した。
デカい。とにかくデカい。
「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」のレジは2階席と繋がっており、「ミゲルズ・エルドラド・キャンティーナ」のレジは2階にあり、1階席と繋がっている。ここでは天井は吹き抜けになっている。「ケープコッド・クックオフ」の天井は高く、ケープコッドの歴史を描いたカラフルな4枚の壁画によって、真っ白な壁が彩られている。レジ前の空間が広くなければ、こうした壁画は設置できなかっただろう。「ニューヨーク・デリ」や「カスバ・フードコート」のカウンターには空から光が差している。
こうした設計改善のおかげで、東京ディズニーシーのレストランでカウンターの待機列が建物の外に飛び出すことはかなり減った。少なくとも先に挙げた20人であれば、全員が一列に収まるだろう。
東京ディズニーシーの各レストランは文字通り、「ハングリーベア・レストラン」の悪夢を抜けて、一筋の光に照らされたのである。
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