目的地に集まる【ディズニーランドのフォーマット】#2
ディズニーパークのアトラクションやレストランは、すぐに見つけることができる。それは、それぞれの施設のエントランスに掲げられた看板が魅力的で、アイコニックだからではないだろうか。
この記事では、東京ディズニーリゾートの各施設の看板がどのようにデザインされ、利用されているか、比較をしながら鑑賞していく。
看板(スポンサード)
アトラクション
レストラン
看板(スポンサーなし)
アトラクション
レストラン
ショップ
「フォーマットってある?」看板のさまざま
「ディズニーの看板」を定義する
ここまで紹介してきたそれぞれのアトラクションの看板には、実際問題、全く別々のものにも見える。しかし、実際そこにはいくつかの共通点があるのである。
この記事の構成から(薄々)お分かりいただける通り、看板は大きく分けて二つに大別される。それは、オフィシャルスポンサーがいるか否かである。
スポンサーがついていると、その企業の名前を同時に掲げるために看板のデザインは限られがちである。施設名の真下に企業名が入るという構成が一般的であり、これが基本となる。
ただし、スポンサー企業は一度ついたらずっとついているわけではない。すべての東京ディズニーリゾートの施設にはスポンサーが付く可能性がある。反対に、すべてのスポンサーがついた施設はスポンサーを失う可能性があるのだ。よって、一部施設は、実際にスポンサーがいるかどうかにかかわらず、スポンサーがつく前提でデザインされていると推測される。
アトラクションのポスターを見るとこのことは顕著であるので、少し脱線してみよう。
ポスターでは、左側に「東京ディズニーシー」のロゴ、中にエリア名「アメリカンウォーターフロント」、右側にスポンサー企業名が書かれている(「タートル・トーク」の例では「講談社」)。「タワー・オブ・テラー」はアトラクションのオープン以来スポンサーが存在しないが、ポスターの右側は空けられているのが確認できる。
東京ディズニーランドの例では、スポンサーがついている「イッツ・ア・スモールワールド」、スポンサーがついたことはないが右側が空けられている「キャッスルカルーセル」、そして既についていたスポンサーがなくなり、企業名だけが剥がれた「ミッキーのフィルハーマジック」が確認できる。
さて、看板の例に戻ろう。例えば「マゼランズ」にはスポンサーがついた過去はないが、企業名が入れられそうなスペースがある(実際にどういう意図かは別にして)。また、かつてニチレイフーズがスポンサーを務めており、その名称が入っていた「ニューヨーク・デリ」の看板が挙げられる。これらは、スポンサーがついていないにも関わらず、スポンサー企業名を入れる前提で看板が作られた例ではなかろうか。
「ロゴとしての看板」
一部の看板がテーマを超えて「ディズニーリゾート」共通のフォーマットを持ち得るというのが、既に見てきた物語である。今度はある一つの看板がそれぞれの施設の中でどのように使われているかも見ていこう。
例えばアトラクションの場合、看板が一つだけということはなかなかない。入り口に近いメインの看板と、周囲に設置されたサブの看板が存在する。「ビッグサンダー・マウンテン」「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」や「グレートアメリカン・ワッフルカンパニー」を例として挙げる。
これに似た形で、「ロストリバーアウトフィッター」の店では、店の看板が店舗のさまざまな場所に設置されている。
そして、多くのレストランでは、看板として使用されている書体をそのままトレーや会計帳にあしらっていることも多い。
こうした形で、それぞれの施設の看板はただ単に入り口の位置を示すだけでなく、それらが誰かのプロパティー(所有物)であるかのように振る舞う。詳しくは、以下の記事を参考にされたい。
看板は、遊園地に必要な機能として一定のフォーマットを確立しており、同時にテーマパークの語るべき物語の上では「いかにそのフォーマットを逸脱できるか」が議論される。
東京ディズニーリゾートの看板のフォーマットはある意味で、その文字自体以上にその構図が意味を持っている。フォーマット通りの看板が建物の入り口で設置されていることで、我々はそれがテーマパークの施設であることを認識していると言えるだろう。
ただ、その上で、一部の施設はその看板をロゴとして活用し、施設の内外に織り込んでいく。そうすることで、それぞれの施設は血の通った物語のある存在になっていくのである。
そして、テーマパークとしての姿へ
物語の中の存在、存在の中の物語
その結果として興味深いのは、それぞれのロゴは園内に繁茂して浸透していき、逆に遊園地の施設でない物語上の存在にも平等に看板が与えられていることである。
なんかもうわけわかんなくね?
実際、わけがわからない場面がしばしばあるのだ。しかし、これテーマパークによって規定されたテーマ、そして物語に基づきデザインされた結果なのである。
東京ディズニーランドのテーマエリア「ウエスタンランド」は、19世紀末のカリフォルニア、西部劇の世界が舞台である。カラフルで巨大な看板などは設置されていないし、自ら光ることはなくランプに暗く照らされるのみ。おまけに、あたかもショップのように振る舞う数々の建物が存在するのである。
「違う施設だが同じ施設」
なぜこうした「ダミーの看板」が必要なのか?
それは、遊園地的な都合としては広大な敷地を持つアトラクションやレストラン、ショップを建設したいが、テーマ性や物語の上からはそんな巨大な建造物は用意できない……という場合に、一つの建屋の周囲に街並みを模した外壁を用意してカムフラージュするからである。
これの別バージョンが、東京ディズニーランドのワールドバザールだ。
ここでは「建物の外観が異なっているが中が融通しており、実は一ブロック全体が一つの大きなショップである」というケースが幾つか起こっている。そのため、それぞれの建物はあたかも別の店舗であるかのように振る舞いながら、看板の文字をよく見てみると、全て同じ店名なのである。
「これはアトラクションではない」
最後に、テーマパークの施設でありながらその看板を掲げていないものもある。
各施設に物語を設けるディズニーパークでは、特定の施設名称とその建物自体の名称が一致しない場合がある。
この極地にあり、アトラクションとしての責務を最早放棄したのが「タワー・オブ・テラー」である。
このアトラクションは、正面玄関にアトラクション名を掲げた看板を一切用意せず、ただ舞台となる「ホテル・ハイタワー」の庇があるのみである。そこにふと気がつくと「タワー・オブ・テラー」の文字が見えるのである。これは、「タワー・オブ・テラー」がある組織の行う言わば「心霊スポットツアー」であることに由来している。「タワー・オブ・テラー」という文字は、彼らが開催しているツアー名としてしか登場しないのだ。
ここでは最早、先に紹介した「ダミーの看板」が表に出て、本来必要な遊園地遊具を提示するための看板が存在していない。フォーマットを通して「これはディズニーのアトラクションである」と伝えることができるならば、こうした施設が表立った看板の使用を避けることは、「これはディズニーパークの施設ではない」というメッセージを発信することにつながる。
これはある意味で「ウエスタンランド」の延長にあり、テーマパークの魅力の一つでもある。今回紹介した「タートル・トーク」「S.S.コロンビア・ダイニングルーム」「テディ・ルーズヴェルト・ラウンジ」「ドックサイドダイナー」「タワー・オブ・テラー」はどれも、アメリカンウォーターフロントという一つのエリアに存在する。ニューヨークの街を再現したこのエリアの単なる建造物の一つという体裁を取る上で、これ以上の方法はないのではなかろうか。テーマパークの遊具として過剰に宣伝しないことで、逆にテーマパークの思想を体現しているのである。
おまけ
マーメイドラグーンの看板
今回一切取り扱わなかった東京ディズニーシーにあるマーメイドラグーンの看板は、他のそれらと明らかに趣向が異なる。これらはどれも、自然由来のうつくしいデザインであり、エリア全体にほんのりと香るアール・ヌーヴォーの原体験でもある。こうした「明らかに異なるプロセスで作られた看板」というのもまた、テーマによってエリアひとつを区切るのに十分なエッセンスであろう。これを見るだけでもいいからマーメイドラグーンに行こう。
最後がこの顔か……。
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