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ショートショート集

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オリジナルのショートショートをまとめたものです。随時更新して行く予定です!
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#超短編小説

仕組まれた退屈

仕組まれた退屈

 今少し先の未来の話である。以前も世界では一般の人が人の道を踏み外さないようにという名目で法律や条例、如何わしいサイトの削除など様々な方法で日常生活に規制が敷かれていたが、ここ数十年の間でその規制が非常に厳しくなった気がすると人々は言う。何がどう変わったというわけでは無いが、現に犯罪件数も数十年前と比べても比較にならないほど減少した。別に法律が増えて規制がきつくなったわけでは無い、ただ皆口をそろえ

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完全記憶

完全記憶

ビルの屋上で青年は嬉々とした表情で全身に風を受けていた。彼はこの世に生を受けてから20年のこの短く長い人生に終止符を打とうとしている。

彼の一番最初の記憶は真っ暗な世界である。そこでは軽い身動きしかできず、そもそもしたいという感情があったとも言えなかった。しばらくすると急に光を感じた、初めて彼は外というものに触れたのである。そして当然のごとく泣いた。これを彼が出産であったと認識するのは少し先のこ

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暗くする暗闇

暗くする暗闇

暗闇は自分までもを深く深く暗く染め上げてしまう、Nはそう思った。Nは暗闇が好きだ。あの自分を包み込んでくれる静かな闇が好きだ。昔からそうだった、Nは小さい頃には靴箱によく隠れてそのまま眠ってしまったり、押し入れで寝るんだといって母を困らせたこともあった。さすがに大きくなってからはわきまえることを覚えたが、Nの中では暗闇への憧れは何ら変わっていない。

今の生活もそうだ。Nは昼のあの日差しの輝き

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感情の取捨

感情の取捨

この惑星は争いで満ちている。もう何千年も前から争いが世界から消えた日は存在しない。指導者は口をそろえて「平和」というが誰も完璧に実現できるなんて思っていない。裁判所なんていかにも「平和」な顔をして人を言葉や文書で裁いているが、そもそも裁判所自体が争いの象徴みたいなものだ。だから人々はせめて自分の周りだけでも争いが起こらないように毎日神経をすり減らして暮らしている。だが確かに皆どこかで世界の平和を

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リプレス

リプレス

 M氏はどうも言葉を発することが苦手であった。会話は特に苦手でどうもうまく言葉が出てこず、よく会話中に沈黙を生み出してしまう。それを察してか人はM氏と話すのを避けるようになって、結局M氏は大体一人でいることが多かった。だがM氏の認識は周りの人と違った。自分は話すこと別に苦手ではなく、返答を思いつくのが遅いだけであると思っていたのである。現にM氏は何かを媒体を介しての会話はそこまで不自由では無かった

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