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【insight インサイト】僕の知る限り一番難しいセルフ・コントロール

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆

〜「自己認識」という考え方〜

自分の思考法や考え方、感情をコントロールする類の本を僕は個人的に「セルフコントロール系の本」と読んでいる。
本書は僕がこれまで読んできた「セルフコントロール系の本」の中で「一番実践が難しい」と感じた。

タイトルの「インサイト」は直訳すると「洞察」や「本質を見抜くこと」となるのだが、本書では「自分に関する気づき」というような意味で使われている。
そして、この「インサイト」を得るために土台となるのが、本書のメインテーマでもある「自己認識」である。

ところで、セルフコントロール系や心理学系の本を読んでいると「自己○○」とか「自○○」など似たような言葉がいろいろ出てくる。自己認識について本書の内容にうつる前に、「自己○○」のような言葉を僕なりにまとめておきたいと思う。

自尊心

いわゆる「プライド」である。言葉にすると「自分は凄いんだ」「自分は素晴らしいんだ」と思い込むことである。
この言葉は「根拠のない自信」のように言い換えられる事もあり、あまりいい意味では使われていない。実際に、自尊心には裏付けとなる根拠が無いケースが多い

自己肯定感

「自己肯定感を高める事で幸せになれる」「自己肯定感を高めると仕事がうまくいく」なんて内容の記事や本をよく見かけるが、僕はこの自己肯定感に対して、あまり良い印象は持っていない。
自己肯定、とは言葉にすれば「自分は(良い面も悪い面を含めて)これで良いんだ」と考えることだ。一見ポジティブ思考になれる良いマインドセットのようにも感じるが、言い換えれば「開き直り」なのだ。
自分の悪いところも含めて肯定してしまうのは、もともと自分に自信のないネガティブな人(場合によっては鬱に近い人)にとっては良いマインドセットかもしれないが、そうでない人は「自己肯定感が高いのは良いこと」というのを妄信的に盾にして傍若無人に振る舞うことを許してしまう可能性がある。
「自己肯定感」には「悪い自己肯定感」というのがある。

自己受容

セルフ・コンパッション」という言葉で知られている「自己受容」。言葉にすれば「自分の悪いところや負の感情を"ありのままで受け入れて許す"」という事だ。

「自己肯定」と似ているようだが、「自己肯定」が「これで良いんだ」と考えて終わってしまうのに対して、「自己受容」は行動する前に「こんな自分をまず許す」のである。
自分の悪い面を思い悩むだけになるのを避けるために、まず自分を許す。そして、自分の悪い面に冷静に向き合い行動するのである。

行動を伴う「自己受容」であるが、「自分を許す」という点にだけ焦点をあててしまうと「自己肯定感」に似てしまう。受け取り方を間違えれば「悪い自己肯定感」になる可能性がある。


自己認識

これらを踏まえて、本書のメインテーマとなる「自己認識」は、自分を正しく理解することである。言葉にすれば「自分はこういう人間だ」と理解すること。
そして、自分を正しく理解する事で「インサイト」を得て、より良い自分になるために行動するのである。

「自己受容」に似ているようだが、「自尊心」「自己肯定」も含め「自己受容」はどちらかというと、自分に自信が無いネガティブな人が奮い立つための発想である。
それに対して「自己認識」は、自分に自信がある人が自分を改めて見直すマインドセット、と言える。

本書に出てくる「自己認識」を実践して「インサイト」を得た人たちは、元々自信過剰で自己欺瞞に満ちた、と言うのは言い過ぎだが、どちらかというと自分に対してポジティブな感情を持った人たちである。
そして、彼らは自分は十分な能力を持っている、という思い込みをしていないか?と、今一度自分を見直して成果を出した人々なのである。

「自己認識」を実践し「インサイト」を得るプロセスは、「今の自分をもう一度見つめ直し、より良い自分になる」ためのプロセスであり、メンタルの弱い人だけではなく、全ての人たちにとって有益なものだと考えられる。


〜「インサイト」を得るまでの困難な道〜

では、実際にどのようにして自己認識を高めインサイトを得るのか。
本書で紹介されるインサイトを得るまでのプロセスをおおまかに書くと以下のようになる。

①内的自己認識を高める
②外的自己認識を高める
③インサイトを得る
④より良い自分になるために行動する

内的自己認識とは、自分がどのような人間であるかを正確に理解すること。
外的自己認識とは、自分が他者からどのように見られているかを理解すること。
これをなぜ分けて書いているかというと、著者によるとこの2つは全く違うものだからだ。自分をよく理解していれば他者からどう見られているかも正確に分かりそうなのだが、直感に反して、内的自己認識と外的自己認識には相関性は無いのだ。自分のことをよくわかっていても、周りからどのように見られているかを全く理解していない人もいれば、その逆もあり得る。内的自己認識と外的自己認識は別々のプロセスで高めていかなければいけない。

そして、内的自己認識と外的自己認識を高めたうえで、ようやく自分にとっての気づき=インサイトを得られるわけなのだが、インサイトはそれだけでは役に立たない。インサイトから、より良い自分になるために、より良い選択をするために、実際に行動しなければ意味がない。インサイトはある意味、問題発見のプロセスである。そこから強い意志を持って解決への行動が必須なのだ。


〜生涯をかけた長く困難な道〜

インサイトを得てより良い自分になるためのプロセスは上記に書いた通りだが、この道は間違いなく長く険しい。
なぜこれだけのステップに、本書は500ページ以上も費やしているのか、実際に読めばわかるはずだ。一朝一夕で身につけられるマインドセットではない。

さらに、正しい自己認識、そしてインサイトを得ることにはゴールが無い。一度始めると一生涯続けていかなければ意味がない。
しかし、この長く困難な道を進めば、より良い人生を送るためのより良い自分になれる。実践することの効力は大きい、と著者は語る。

当然、この本を読んだばかりの僕はまだ実践していないし、その効力を実感なんて当然していない。
取り組み始めるにもかなりの勇気が必要だ。

それでも、これがもしかしたら人生を変えるかもしれない、と思える説得力がある。
「インサイト」を意識しながら生き、どこかで効力を実感した時、この一冊が人生を変える一冊になる。
そんな可能性を秘めた本だ。

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