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【銀河の片隅で科学夜話】詩的で叙情的な科学エッセイ

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜文章が素晴らしい〜

本書は科学に関するエッセイである。著者の全卓樹さんも量子力学、数理物理学、社会物理学を専攻する理系の大学教授である。

大学教授の書く本なんて、いかにも堅苦しそうな印象を受けるのだが、意外や意外、その暖かくて優しい文章に感銘を受けた。
科学の面白さを伝えると同時に、そのゆったりとした文章は堅苦しさなどほとんど感じられず、リラックスしながら読める。

要所要所に載せられた挿絵も美しいものが多く、科学の世界にゆったりと浸れる。
夜寝る前に一編ずつじっくりと読むのが良い。


〜最新の科学を数式なしで〜

内容についても様々である。
宇宙、原子、数理社会、倫理、生命。
最新であり、興味をそそられるものでありながら、専門書を読むと頭が痛くなりそうなトピックを、柔らかな文体で解説してくれる。

科学ものの本にありがちな数式は一切なし。
ただただ、科学の面白さを美しい挿絵と共に伝えてくれる。

本の装飾から内容まで、非常に品のある一冊となっている。
これはぜひとも紙の本で読んでいただきたい。


〜アリに心はあるのか〜

さて、最後に僕が本書で1番面白かった話をご紹介。
著者が自身の研究室の大学院生と「アリに心はあるのか?」という議論を交わすところだ。著者は「アリにも心がある」と主張するのに対し、大学院生は「本能的なプログラムで動いているアリに心なんてない」と主張する。
議論が繰り返される中、大学院生が「奴隷アリが反乱を起こしたりアリの社会に革命があったり、なんてのが見つかったら、アリにも心があって自由意志があると認めますよ」と述べてその議論は一旦終わる。腑に落ちない著者はふとした時にとある論文を見つける。
それは、アリが反乱を起こす、というものだった。サムライアリに支配されている奴隷アリに反乱行動が見受けられたのである。
これこそ、アリも人間と同じく自由を愛し、そのために命を投げ出すことがわかるのである。
とはいえ、ではアリに心があるのか?という疑問は不明なままであるが、科学的な事実から文学的・哲学的なロマン溢れる著者の発想が、本書の面白さだと思う。

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