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【チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク】ロボット悪ざんまい

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜ロボット・ピカレスク〜

本作を一言で言うならば、制御回路が作動しないロボットが次々と悪事に手を染める話である。

舞台は、ロボットが当たり前のようにいる近未来。家事から製造、医療まであらゆる分野でロボットが使役されている。人間の安全を守るために全てのロボットには「アシモフ回路」(詳しくは「われはロボット」の「ロボット三原則」を参照のこと)が組み込まれているが、主人公であるチク・タクはこの回路が作動していない。物語はこのチク・タクが盲目の少女を殺害するショッキングなエピソードから始まり、チク・タク自身の回顧録の形をとり進んでいく。

ジャンル的にはピカレスク小説、ノワール小説と言えるだろうが、ブラックジョークのような軽妙な語り口が深刻さを全く感じさせず、軽い感じで悪事が次々と引き起こされる作風はかなり僕の好みの作品であった。


〜悪の欲求〜

軽い語り口でありながら、社会風刺的な要素もある。真剣な切り口で本作の評価をしても良いのだが、結局のところ、感じたことはただひとつ。

「悪は楽しい」

本作はそれほど長い小説ではないのだが、過去から現在へと時系列を行き交いながら、様々なエピソードが盛り込まれる。チク・タク自身の悪事だけでなく、その周りの人間も悪人ばかり。悪事のフルコースである。著者自身が、悪事に対してそれほど深刻には考えておらず、この世の人間の営み全てをバカにているかのようである。
たった一行であらゆる人が死んでいく。
ハイスピードで次々と読ませられる悪事の数々に、読んでいるこちらは善悪に関する感覚がマヒしてくる。

結局、人間とは不合理なもので、欲望や欲求を突き詰めると行き着く先は悪なのである。

しかし、僕らは生活の中で何も考えずに悪事を働くことは出来ない。
悪の快感を小説というファンタジーの外側から感じるしか、その欲求を満たす術はない。

不道徳だが合理的なチク・タクの体現する悪は、そんな僕の中の「悪に対する欲求」を十分に満たしてくれた。

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