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乗り継ぎ空港での予期せぬ出来事

「すみません。これをあなたの荷物に入れてくれませんか?」

 インドのコルカタに向かう途中、乗り継ぎ空港である中国のチケットカウンターで、列に並んでぼーっと待っていたところ、浅黒く彫りが深い、見知らぬインド人らしき男性にいきなり声をかけられた。

「えっ? 無理です」

 突然のことで、私の目は点になり、セリフを棒読みしているかのように応えた。

「えっ! 何でですか? 重さギリギリなんですか?」
 
 その男性は私が断るとは夢にも思っていなかったかのようだ。驚いた表情で聞いてきた。

「いや、ギリギリじゃないけど」
「じゃあいいじゃないですか。僕の荷物はもう重量リミットまであって入れられないから、これを入れてください」

 そう言って、洋服が入った透明のビニール袋を私に押し付けてくる。いやいや、重量とかそういう問題じゃなくて。見知らぬ人の荷物をいれたくないから断ったんだけど。

「ごめんなさい。それはできないです」
「何で? もう僕の荷物は一杯なんだ。重量制限まで余裕があるんだからいいじゃないか?」

 また断ったのに。その男性は諦める素振りは全くないし、心なしか口調が強くなっている。
 バックパッカーで身軽に旅をする私の荷物は軽くて、確かに余裕がある。追加料金がかかるわけじゃないし、インドでは当たり前のことなのかも。自分の器が狭いのかもしれない。
 助けを求めて前に並んでいる人の方を見るが、素知らぬ顔。私たちの会話は聞こえているはず。自分の荷物を他の人の荷物に入れようとしている男性がいるのに、全く関心がないようだ。
 
 器が小さいかもしれないけど、やっぱり、知らない人の荷物を入れるのは嫌だ。はっきり理由を言って断ろう。

「見知らぬ人の荷物を入れるのは気が進まないんです」
「ひどい。じゃあこの荷物どうすればいいんだ?」

 そんなに困った顔で聞かれても。追加料金を払うか、払えないなら他に入れてくれる人を探すか、諦めるしかない。何度断っても諦めないこの男性だ。この解決策を伝えても意味がないだろう。初志貫徹だ。断り続けよう。

「......ごめんなさい。できません」

 そう言うと、やっと諦めたのか、その男性は「ちっ」と舌打ちをして去って行った。 
 
 前と後ろに並んでいる人達は素知らぬ顔。私が彼らだったら、気になって見てしまっただろう。私にとっては初めての体験だったが、これってよくある光景なんだろうか。

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 インドへの一人旅を決めたときに、色んな友人たちから「やめたほうがいいよ」「女一人でインドは危ないよ」などと言われた。
 ニュースを見ない私は、私が行く少し前に日本人女性が二人拉致監禁されてレイプされた場所とも知らずに、「大丈夫だよ」と返事をして、インド行きを決行したのだった。

 帰国したときに、思い出話として空港でのこの出来事を友達に話すと、「断ってよかったよ。薬物が入っていた可能性もあるしね」と言った。

 ......あっ、あぶなかったー!!

 そうか。薬物が入っている可能性なんて思いもしなかった。もし、その男性の荷物を入れることを了承して、その荷物に薬物が入っていたとしたら、それを運んだ私は捕まっていたかもしれない。
 中国やシンガポールでは、空港で大麻所持で捕まった人が死刑になったということもあったそうだ。

 しかし、その男性は、重量制限があるとは知らずに大量の荷物を持って空港に来て、チケットカウンターで超過料金のことを知り、お金が無くて追加料金を払えずに私に頼んできた可能性もある。 

 真相は謎だ。


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