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沖縄限定ご当地怪談、新シリーズ始動『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』著者コメント&試し読み

現地在住の著者が克明に記す
沖縄限定ご当地怪談、新シリーズ始動

あらすじ・内容

沖縄の怪談・妖怪・ユタ・ウタキなどを取材して発信し続ける、沖縄怪談のオーソリティ・小原猛の新シリーズ開始。
・通勤途中に見かけた奇妙なモノ、それは人の命を取るものだというが…「ピトゥトゥルマジムン」
・ムカデを神の使いと崇める家に養子にきた男がある日…「ムカデの神」
・ある夜、部屋に現れた少女。住んでいる部屋が事故物件と知れたが…「コザのアパート」
・元ユタである女性に聞いた不思議な一生の話「スクブン」
—―など。沖縄の伝承から現代怪談までマンチャーマンチャー(混ぜ混ぜ)して48話収録!

著者コメント

沖縄には独自の伝承や様々な怪談が古くから根付いていますが、それらが今も怪談として語り継がれていることについていろいろと書かせて頂きました。
またもう一つ、ずっと前から知り合いだった一人のユタさんについてのことも書きました。読者の皆さんの中には、ユタさんについてあまり知らなかったり、あるいはそんなものインチキだと思う方もいらっしゃるでしょう。
これはそんなユタ(沖縄のシャーマン、。霊能者)という存在に対してそれを証明するものではありませんが、何年か一緒に過ごしたとあるユタのオバアに対しての私なりの想いを書きとめたものです。
この本に書かれたことは作り話ではなく、実際に体験者から話を聞いて構成しました。
みなさん、どうかこの本を読んで沖縄に実際にいらしてみてください。
リゾート巡りでは味わえない、別のルールが支配する、リュウキュウダークツーリズムの世界へようこそ。

試し読み

チケット

 今から四十年ほど昔の話である。
 当時、国際通りにはたくさんの映画館が並び、それぞれに行列ができていた。映画産業が黄金時代を迎えていた時期でもあった。
 その日大城おおしろさんが国際通りを歩いていると、ある映画館の前で何かにひっぱられるのを感じて立ち止まった。
 いつものように映画館には人が並んでいたのだが、何かおかしいものが紛
まぎれ込んでいた。
 それは血だらけのアメリカ兵たちであった。陸軍の迷彩服を着ているのだが、どの兵隊も血だらけで、中には顔が焼けただれているものもいた。どうみてもこの世の人たちではなかった。
 ふと映画館を見ると、そこにはオレンジ色に照らされた坊主頭の男性とヘリコプターの派手な絵が描かれていた。『地獄の黙示録』というベトナム戦争の映画を上映中だった。
 すると、大城さんの視線に気づいた一人のアメリカ兵が話しかけてきた。
「どう? 俺たちのこと見えるよね?」と相手は英語でいった。
「どうしてこんなところにいるの? あなたたちはどこから来たの?」
 大城さんがそうたずねると、兵隊の一人がいった。
「俺たちはただ、この映画が見たくて来たんだけど、日本円を持っていないから入れないんだよ」
 目の前の兵隊は片目が飛び出していたが、気さくな感じでそう語りかけてきたという。
「どうして? あなたたちもう死んでいるのに、お金を払って映画を見なくてもいいんじゃない? ほら、そこから無断で入ればいいのよ」
 大城さんはそういって映画館の入口を示した。
「いやダメだ。俺たちはクリスチャンだからそんなことはできない」
 そうアメリカ兵はいうと、人ごみの中にゆっくり溶けて、消えてしまったという。
 大城さんは今でも、その映画館のあった場所の前を通ると、あの律儀なアメリカ兵の幽霊のことを思い出すという。

―了―

著者紹介

小原 猛 (こはら・たけし)

沖縄県在住。沖縄に語り継がれる怪談や民話、伝承の蒐集などをフィールドワークとして活動。著作に「琉球奇譚」シリーズ『キリキザワイの怪』『シマクサラシの夜』『ベーベークーの呪い』『マブイグミの呪文』『イチジャマの飛び交う家』、『琉球妖怪大図鑑』『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』『いまでもグスクで踊っている』『コミック版琉球怪談〈ゴーヤーの巻〉〈マブイグミの巻〉〈キジムナーの巻〉』(画・太田基之)』「沖縄の怖い話」シリーズなど。共著に「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」各シリーズ、『男たちの怪談百物語』『恐怖通信/鳥肌ゾーン』など。DVD『怪談新耳袋殴り込み・沖縄編』『琉球奇譚』『北野誠のおまえら行くな。沖縄最恐めんそ~れSP』など。

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