たけむら@cloudcluster

小説/演出/脚本/世界観拡大家さん(自称)。 アニメ制作会社の制作進行として働きながら…

たけむら@cloudcluster

小説/演出/脚本/世界観拡大家さん(自称)。 アニメ制作会社の制作進行として働きながら細々と活動を続けています。 文芸同人誌「琳琅」の編集者です。 好きな花は藤、葵、梅。冬至は必ずお休みします。 柚子湯に浸かるのです。 Nyazz14@yahoo.co.jp(←お仕事用ご連絡先)

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投稿100回目を迎えて、自己紹介を。

 改めまして、武村 賢親(たけむら まさちか)と申します。  株式会社フュービックという会社でストレッチトレーナーをしながら、細々と文筆活動や創作活動を続けています。  創作・制作団体「cloudcluster」に相談役としても席をおき、ボイスドラマや映画などの作品のシナリオや演出も任されています。 と、まぁ。肩書の挨拶はこのくらいにして、本来の私についても知っていただきたいところ。  基本的に、朝は5時起きです。煎茶を2杯飲み、小説やシナリオの執筆をし、のんびりくつろい

    • 「彼氏が蛇をおいていった」 31 完結

       落ち着いたころを見計らって、荒牧が息抜きにとBBQを企画してくれていた。由良の所有する別荘で、親しいひとだけを呼んで乾杯しようということになっているらしい。  由良は定期的にそれぞれの知り合いを交えた交流会をひらくことが趣味だそうで、今回参加するのはわたしと荒牧、在原と加賀野、由良の経営者仲間。じつはその中に宮部元部長の旦那さんもいて、出産を終えて母となった宮部元部長も参加するらしい。 「ほんと、どこで誰がつながっているのかわからないですね」  ハンドルを握った荒牧が正面を

      • 「彼氏が蛇をおいていった」30

         応接室に消えた加賀野と由良を待って、もう三十分になる。  在原が本領を発揮して落ち着きをとりもどしたオフィスでは、みんな一様に応接室へ意識を向けているようだった。  一度は止めてもらった来社面談の、再開一発目がスタジオ・メラキの由良だったのだ。わたしへは会釈のひとつをよこして応接室へ入っていく由良は、居酒屋での顔とは打って変わって、恐ろしく鋭い経営者の顔をしていた。一瞥のもとに、デザイン部にいた社員全員を呑みこんでしまいそうな渦巻の気配が、応接室への引力となってオフィス全体

        • 「彼氏が蛇をおいていった」29

           居場所がなくなったって、仕事には出なければならない。無責任に投げ出すことは恥だ。  一度はじめてしまったなら、最後までやりきらなければいけない。  社会人としての義務感だけに引っ張られるようにしてオフィスに踏みこむ。  みんな一様にせわしなく立ち働いていた。ほんの一瞬だけわたしに視線が集まったけれど、すぐにもとの状態へともどる。  部長の席に在原が座っていた。書類に囲まれ、四方八方から指示をあおぐ声がかかり、そのひとつひとつをテキパキとさばいている。  わたしとは方法が違う

        • 固定された記事

        投稿100回目を迎えて、自己紹介を。

          「彼氏が蛇をおいていった」28

           玄関のドアが開いた。  もう五回以上インターホンを鳴らしていたから、そろそろ入って来るかもと思っていたところだった。え、さむっ、というおんなの声。その声を聞いて、ほんのすこしだけ冷静さがもどってきた気がする。 「あんたなにやってんの?」  松葉杖をついた在原だった。おじゃまします、と、そのうしろに加賀野の姿もある。 「ちょっとこれいくつよ。十六度。バカじゃないの」  在原の大声が耳に痛い。ひとの部屋にずかずか上がりこんできた在原とは対照的に、加賀野は部屋の入り口でじっと立ち

          「彼氏が蛇をおいていった」28

          「彼氏が蛇をおいていった」27

           目覚ましのアラームよりはやく起きた。汗を我慢できなかったから。  冷房をつける。思っていたより、あたまはすっきりと澄み渡っていた。  なんで消して寝たのだろう。舌と喉がベタベタと、粘度の高い唾液で張りつくようだ。  台所で、冷蔵庫から麦茶の瓶をとってじかに飲む。空っぽな胃に、出したての麦茶は冷たすぎた。  息をつく。麦茶の残り香が鼻から抜けていく。  そこでハッとした。臭く、ないのだ。  シンクの上を見る。昨晩、放置したはずのマウスが跡形もなく消えていた。しまい忘れた食紅の

          「彼氏が蛇をおいていった」27

          「彼氏が蛇をおいていった」26

           靴が鉛にでもなったかのようにおもい。鞄もおもい、傘もおもい。  引っ張られるように、気分もずんと沈みきっている。 『残念だけれど、あなたより在原の方が適任だった』  宮部部長の声がすぐ耳元で聞こえるようだ。  悔しくても動かせない事実。部長職には、わたしは、やっぱり向いていなかったみたいだ。  大局を見据えて、という表現は、なにもオフィス全体を観察して浮足立っているところに人員を割く、ということではないらしい。  無駄な指示を飛ばし、求められている行動を誤って、見当違いな相

          「彼氏が蛇をおいていった」26

          「彼氏が蛇をおいていった」25

           有休を半休に切り上げて、みっこ先輩のガレージから着替えのために自宅をいったん経由。おっとり刀でオフィスへとかけつけた。  一言で言えば、現場は大混乱、というこすられた表現がぴったりくる光景だった。  電話は鳴り響き、資料の山は崩れ、社内アプリを介したメッセージのやりとりでは間に合わなくなって、あれはこう、これはどうで、どれがそれ、といった悲鳴のような会話が飛び交っている。  宮部部長が休職し、在原が突然消え、わたしも体調不良で不在。  まるで指揮者のいないオーケストラだ。演

          「彼氏が蛇をおいていった」25

          「彼氏が蛇をおいていった」24

          「それで音信不通は、もうきついでしょう」  みっこ先輩が作業の手を止めて振り返る。なんとなくわたしの声から深刻さを察してくれたらしい。  ひとりで、あの部屋に、あの蛇と一緒にいたら鬱々とした気持ちがさらに沈んでいってしまいそうだったので、約束の日ではないけれど、無理を言って居場所を提供してもらった。  ガレージの一角を小さな箒で掃きながら、昨日の顛末を語る。  荒牧から預かっていたペンダントもそのまま持って帰って来てしまった。生みの親の手へともどって来た作品は、本来の持ち主の

          「彼氏が蛇をおいていった」24

          「彼氏が蛇をおいていった」23

           約束の時間よりすこしはやく会場へ入った。  試合前に顔を見せてほしいという荒牧は、拳にテーピングを施して、派手な柄のパンツとは対照的な渋めの色合いでまとめたローブを肩にかけ、スツールに座って集中力を高めている様子だった。  かるめに控室の扉をノックすると、顔を上げた荒牧の表情が途端に明るくなった。 「あぁ、よかった。からだはもういいんですか?」  開口一番にわたしの体調を心配してくれているあたり、なんだかむずむずしてしまう。 「心配をかけてしまってごめんなさい。お陰様ですっ

          「彼氏が蛇をおいていった」23

          「彼氏が蛇をおいていった」22

           スマホの着信音で起こされる。  どうにも、背中が冷たい。シーツ全体がじっとりと湿っていて、わたしの髪もしっとりとしたまま、うねるように広がっていた。  髪を乾かさず、からだも拭かず、かろうじて下着は変えたけれど、そのままベッドに倒れこんだことを思い出す。  邪魔な前髪をかき上げて、時計を見れば午前十時。始業時間はとうに過ぎていた。 『大丈夫なんですか』  過度に心配している様子の加賀野の声が耳に痛い。 「ごめんね。明日も休むからみんなによろしく言っておいて、必要ならわたしの

          「彼氏が蛇をおいていった」22

          「彼氏が蛇をおいていった」21

           顔がつっぱっている。目のまわり、頬、くちびるの端、どこも埋もれて息ができない。  こんなおもたい朝は久しぶりだ。帰って来て、そのまま寝たのもどれくらいぶりかわからない。下着も替えていない。見下ろしたスーツはしわだらけだし、枕カバーには口紅の痕跡がひっかき傷のように残っている。 『あなたはきっと、企画よりも営業の方が性に合っているわ。すくなくとも、この仕事では』  宮部部長の言葉がぐるぐるとあたまの中をめぐっている。  ちゃんと部長の声で聞こえることもあれば、文字になって浮か

          「彼氏が蛇をおいていった」21

          「彼氏が蛇をおいていった」20

           アイ・トリップ社からの帰り道、わたしたちは豪雨によって足止めをくらった。  さんざん遅れた梅雨入りの雨が、とうとう我慢しきれなくなって決壊したようだった。むしろ今日までよく持ちこたえたなとほめてあげたくなるほどの暴風雨だ。  宮部部長と駆けこんだ避難先の喫茶店で、芸能事務所の担当者に捕まった加賀野が追いついてくるまでの時間をつぶすことになった。 「ほんと、まさかあそこから巻き返しちゃうなんて」  おなかの子のためにカフェインは控えているの、と言った宮部部長は、わたしの持つイ

          「彼氏が蛇をおいていった」20

          「彼氏が蛇をおいていった」19

           割れんばかりの拍手というものは、プレゼンでは珍しい。有名人の講演じみた、成功が確約されている登壇ならまだしも、一企業の一企画を提案する一プレゼンターに向けられる拍手というのは、こんなものだ。  それでも、アイ・トリップ社と依頼元の芸能事務所、それから加賀野が緊張する原因ともなったアイドルグループのメンバーによって送られる拍手の中には、控えめながらもたしかな手応えと呼べるような感触があった。  会議室の入り口側から見守ってくれていた荒牧のサムズアップを合図に自席へともどり、椅

          「彼氏が蛇をおいていった」19

          「彼氏が蛇をおいていった」18

           失敗とともに目が覚めた。  久しぶりの「やってしまった」感は股の間に流れ出て、きっとシーツまで汚している。  時刻は四時ちょっと前、かすかに薄明るくなってきたカーテンの隙間が恨めしい。  起き上がって見れば、赤ワインよりもすこし薄いくらいの赤がシーツの真ん中よりすこし左に、三本指を並べて捺しましたとばかりにしみついていた。  トイレへ直行し、すばやく下着から足を抜いて便座に座る。うつ伏せで寝ていたのが良くなかった。おむつみたいな羽つきを選んでいたのに、漏れた血が前の毛まで汚

          「彼氏が蛇をおいていった」18

          「彼氏が蛇をおいていった」17

           蛇に与える餌のサイズをちいさくして、アクセサリーのコンペティションに出場していて、前回会で良い成績を残したひとの名前を書きこんでみた。  そしたらなんとあら不思議、わたしの作品が優秀賞に選ばれましたと、さ。 「まっちーの入賞を祝して! かんぱーい!」  なにも知らないみっこ先輩がちょっと贅沢なビールを出して来てくれて、ふたりだけの祝賀会をひらいてくれた。 「とうとう町の才能が世間にバレちゃったかぁ。あたしとしてはひとり占めしておきたかったのにぃ」 「それだといつまでたっても

          「彼氏が蛇をおいていった」17