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小さなできごと

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しゃがむ少女。

しゃがむ少女。

いつものように森を走る。西門から入ると、木立に日差しが遮られた森はひんやりとしている。腕にうっすらと浮かび始めた汗を葉擦れの音を奏でる風が乾かしていく。これ以上ないというほどのゆっくりとしたペースで、慣れたコースを流す。デイキャンプ場脇を抜けて、せせらぎのある方面へ。途中、橋をわたって芝生のある広場に向かって上っていく。いつもは犬の散歩グループや子どもたちの賑やかな声がするが、雨上がりということも

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来し方二十三年の時の味。

来し方二十三年の時の味。

2020年の5月は、ほぼほぼ家に閉じ込められていた。
それでもやってくるものは、やってくる。
いや、いつもよりのんびりと
愚息のバースデーワインを開栓したかもしれない。

開けたワインは、
SAINT-CHINIAN 1997 “Unfiltered” / CANET VALETTE
サン・シニアン / カネ・ヴァレット 1997

このワインは、フィルターを通していない。
だからか、かなりの澱が

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夜のまなざし。

夜のまなざし。

 その日、僕は割と遅くまで仕事をしていた。徒歩通勤なので電車の時間が気にならないこともあって、いつも成り行きで仕事をしてしまうのだ。サラリーマンでもなく気軽なもので、“一人ブラック企業”などと自嘲気味に人には話したりしている。
 たぶん事務所を出たのが23時頃だったと思う。深夜というほどでもない、日付が変わらないうちに家にたどり着きたい人がカツカツあるいているような時間帯。なかには酔っ払いもいる。

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走る老女

走る老女

いつもの公園でウォーキングをしていた。一周約二キロの周回コースを歩いていると、時々、小さなできごとに出くわす。いくつかある公園の入口のうち、スロープ状になっていたり、僅かな階段が設けられている箇所がある。そのうちの一つ、ちょうどジョギングコースが左にカーブするあたりにある入口。時と場合によって、スマホやタブレットでモンスターを捕まえようと大人たちが湧き出す地点。
今朝はそんな光景もなく、いつものよ

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