山口たかえ

北東北で夫と3歳の息子暮らす兼業主婦。短編小説やエッセイ、たまに俳句とか。連絡はツイッターのDMまで。

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からやぎ【短編小説】

 インスタグラムを開けば、都会に出ていった同級生たちのすてきな日常が、私をボコボコに殴ってくる。打ちのめされて、モヤモヤとした暗雲のような気持ちが心の底に溜まっていくのを感じる。ハァ〜〜〜。煙草の煙と一緒に、思わず特大の溜息をつく。流行りの店、都会にしかない服、化粧品、話題のスポット…。そんなものこの田舎町にはない。何処を探したってひとつも無い。 「幸せが逃げたな」 いつの間に隣に立っていた上司がせせら笑う。彼は胸ポケットからiQOSを取り出して吸い始めた。ひとつひとつの動作

    • 【短編小説】ナッツ、インザスモールディッシュ

       陶器のお皿。全体は白く、縁にトルコブルーのラインが入っているそれは、以前エスニック雑貨屋で一目惚れをしたものだった。あのお皿を見つけた時の、ささやかなときめき。とても可愛らしく見えて、お皿の後ろの値札の数字も魅力的で、迷わずレジに持っていったような気がする。何年前だろう。学生の時だったから、四、五年前になる。  楽しいことは何故かすぐ忘れてしまうし、思い出すのに時間がかかる。記憶のタンスに大事に大事にしまいすぎなのだろうか。逆にネガティブなことは、適当に収納されるせいか、

      • 過疎の駅に置いておく【エッセイ】

         思いつきはあまり好きじゃない。  なんてことない週末の休みも、できるなら計画を立てて過ごしたい。3歳児と、なるようになる精神で生きている夫と生活を共にしているので、実際はなかなかそうならない。 「電車がすぐそばの街に住んでいるから電車好きなのだろうか。果たして電車が通っていない町の子は電車に興味を示すのだろうか」  息子を見ていると、いつも思う。  東北の某県庁所在地にある私たちのアパートからは、高架を通る新幹線がよく見える。歩いてすぐのところに在来線も走っている。そんな

        • 台所で朝食を【短編小説】

          三歳の娘が、突如「パンケーキが食べたいの」と言い出した。わたしはすぐさま台所の下の扉を開けて、材料を確認する。小麦粉、ベーキングパウダーはある。次は冷蔵庫。卵も牛乳もある。 「すぐ作るから、パパと遊んで待っててね」 声をかけると元気よくお返事をして、娘は日曜日の朝の魔法少女アニメを見始めた。 甘やかしすぎ、と怒られそうだな。 わたしは朝食にする予定の食パンを、戸棚に仕舞いながら考える。 誰に?  ……それは分からない。世間だろうか。しかし世間様が一家庭の朝食の状況な

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        からやぎ【短編小説】

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          かすみ草の花束はケータイ小説から【エッセイ】

           このタイトル、アラサー女性には刺さってくれるだろうか。   私が中学生のときに、推しも押されぬケータイ小説ブームが訪れた。  まだパカパカのガラケーで、センター問い合わせに命をかけ、前略プロフィールを持っていた時代である。ケータイ小説とはその通り、SNSのような小説投稿サイトへ投稿された、ガラケーをぽちぽちして書かれた小説のことだ。  そのケータイ小説ヒエラルキーの中で、圧倒的トップに立っていたのが「恋空」だった。  高校生の妊娠、流産、いじめ、別れ、年上との恋愛、とき

          かすみ草の花束はケータイ小説から【エッセイ】

          脱稿&…【エッセイ】

            以前言っていた、居住地の新聞の文学賞の応募作品をやっと脱稿した。締め切りは明日。今日仕上げて郵便局へ投函した。  趣味でやっているのになかなか精神を追い詰められた。それは「趣味なんですけど」と言いながら、どうにか これで食べていけたらな…という囁かな欲望があるからだ。書く度に悩んで悩んで、ごぼうをささがきにするように、精神を薄く削ってワードに打ち込んでいる。  出来は正直微妙だ。  いつも何かに投稿するときに妹に原稿を読んでもらうのだが、辛辣でごもっともなご意見ばかりを

          脱稿&…【エッセイ】

          頑張れよ私、日本を旅してる場合では【エッセイ】

           地元の新聞社の短編小説賞で一席を取ったことは、親戚中に大きな波紋をもたらした。  お祝いの言葉や品々や作品を朗読したCDを頂くなど、なんとまあ嬉しいことの連続だった。  次作は何を書こうかしらん、note創作大賞に応募したいし、どんな話がいいかな……。などと練りまくっているうちに、締切を過ぎてしまった。なんたる不覚。  しかし今は、在住している地方の地域紙の文学賞に応募する作品を書いている。失礼、書こうとしている。  アイディアはできたのだ。ストーリーもほぼ頭の中で完成

          頑張れよ私、日本を旅してる場合では【エッセイ】

          地元の新聞の短編小説賞で1席

          あけましておめでとうございます。 昨年は2000字のドラマで賞を頂き、ハチャメチャに大喜びしたところ、応募していた地元の新聞の短編小説賞で1席を頂き、さらに大喜びしております。 ローカル紙なうえに、本名で応募かつ顔写真公開というコンボなので詳細は省きますが、本当に嬉しいです。 祖父母の話をベースにして書いたので方言丸出しです。 逆に方言丸出しだからこそ、地元の新聞でしか出せないなと思っていました。 昨年末は燃え尽き症候群で創作頻度がガタ落ちしていたのですが、今年はもっと書ける

          地元の新聞の短編小説賞で1席

          冬来たる【ただの日記】

           #2000字のドラマで賞を頂いて、地元の新聞社の短編小説賞に送る小説を書き上げたら、なんだか文章を書くことから遠ざかってしまった。気づけばもう12月である。  私は普段、会社で下働きパートタイマーとして雑務をしている。月の変わり目にカレンダーをビリビリと破いて、日程表のホワイトボードを一新するのも私の仕事のうちだった。いそいそとその業務をこなす私を見て、上司が「もう年末だねえ」とため息をついていた。 冬。冬が来る。あっという間に冬が来る。 北国の冬は憂鬱だ。寒いのも嫌だが

          冬来たる【ただの日記】

          Fry me to the Eurasia【エッセイ】

           中学生のころ、椎名誠の「インドでわしも考えた」を読んだ。強い衝撃を受け、インドに行きたい欲がふつふつと湧き、高校の時には休み時間に「地球の歩き方 インド編」を読んでいる変なJKになってしまった。  インドの文化や風習に惹かれるなか、隣国のネパールにも興味が湧いてきた。そもそも山が好きだったので、ヒンドゥー文化圏のネパールで、ヒマラヤを眺めるのもいいかも、と思い始めた。  ネパールのことを調べはじめると、山の方はチベット文化圏でもあると知った。政治的話題はなんとなく知っていた

          Fry me to the Eurasia【エッセイ】

          ちょうどいいこたえ【エッセイ】

           子どもに「お腹にいた時のこと覚えてる?」と聞くと、興味深い答えが返ってくるかも、というのは子育て中の人間なら一度は聞いたことがあるのではないだろうか。  暖かかった。お花畑だった。お空の上にいて、ママのお腹目指して飛んできた。  各SNSの育児垢などを見ると、その答えは十人十色だ。「感動した」「本人が知り得ないことを言ってきて驚いた」などなど、親の反応も様々だ。  私は半信半疑だった。子どももある程度大きくなると親の顔を伺うというので、絵本や誰かから聞いた話を言っているの

          ちょうどいいこたえ【エッセイ】

          午後二時のトランス【エッセイ】

          「ただいまから、防災設備点検を致しますので、音楽が流れます……」  ただでさえ眠い昼過ぎ、そんなアナウンスが会社のビルに流れた。そういえば、そんな回覧がまわっていた気がする。サイレンとかが鳴るのかな、と身構えていたが実際に流れたのは優しげな鳥の鳴き声だった ピチチチ…カッコーカッコー…ピチュピチュピチュピチュ…カーカー  懐かしい音たちだ。私の実家は、山の中ではないにしろ畑や林が点在する田舎にあったので、とても耳馴染みが良い。また、割と行楽好きな両親のもと産まれたので、年

          午後二時のトランス【エッセイ】

          短編小説の夜【ただの日記】

           地元の新聞の短編小説賞に応募する作品が、やっと書き上がった。  ずっと通勤のバスの中でスマホに書いていたので、Wordに起こさなくてはならない。しかし、家にパソコンはあるが、Wordがない。  そこで近くの快活CLUBに行くことにしたが、いかんせん子どもがいる身なので、自由に動くことはままならない。そこで、子どもが寝てから夫に留守を預けて行くことにした。  まず難儀したのが、ページ設定である。 20×20だと間隔が開きすぎて読みづらい。適切なフォントサイズと空白にして、読

          短編小説の夜【ただの日記】

          Levitating【短編小説】

          「それ、返してよ」  ギャルのお姉さんは、少し睨むようにして僕に言った。紛うことなきギャル。すごい爪の、すごいお化粧の、すのい髪色の、肌がこんがり灼けたギャル。僕のお母さんが見たら、泡を吹いて倒れそうなギャルだ。 僕が持っていたのは、綺麗な濃い青色のハンカチ。夜空をイメージしたのか、星の刺繍がところどころに入っている。  昨日、僕はこれを公園で拾った。 小学校から家までの帰り道にある、滑り台と鉄棒しかない小さなつまらない公園で。つまらないから、ここに遊びに来る同級生はいない。

          Levitating【短編小説】

          #2000字のドラマ ありがたいことに入賞致しました! 本当にありがとうございます!嬉しい! 更新頻度は高くないですが、これからも短い小説やエッセイなど書きますので、どうぞよろしくお願いします。

          #2000字のドラマ ありがたいことに入賞致しました! 本当にありがとうございます!嬉しい! 更新頻度は高くないですが、これからも短い小説やエッセイなど書きますので、どうぞよろしくお願いします。

          工業高校でJKでした①【エッセイ】

           タイトルの通りです。 約十年前、私は田舎の工業高校の情報系の科を卒業しました。  工業高校にどんなイメージをお持ちですか? よく言われるのは、ヤンキーとオタクの巣窟。だいたい間違いありません。少しだけ訂正すると、ちょっとやんちゃっぽい人とオタクの巣窟って感じです。時代的に、THEヤンキーよりも腰パンで財布チェーンでワックスで髪の毛ツンツンウェーイ族が主流だったので。  もちろん女子は少なかったです。私の学年は一学年350人中女子が15人程度でした。学校全体では、約1000人

          工業高校でJKでした①【エッセイ】