かすみ草の花束はケータイ小説から【エッセイ】

 このタイトル、アラサー女性には刺さってくれるだろうか。

  私が中学生のときに、推しも押されぬケータイ小説ブームが訪れた。
 まだパカパカのガラケーで、センター問い合わせに命をかけ、前略プロフィールを持っていた時代である。ケータイ小説とはその通り、SNSのような小説投稿サイトへ投稿された、ガラケーをぽちぽちして書かれた小説のことだ。
 そのケータイ小説ヒエラルキーの中で、圧倒的トップに立っていたのが「恋空」だった。

 高校生の妊娠、流産、いじめ、別れ、年上との恋愛、ときには法に反した行いなど、これでもかという要素を詰め込んだ青春小説で、当時中高生に大人気だった。「マジで泣ける〜(T-T)」とみんな狂ったように言っていた。

 さて私はマジで泣けたかと言うと、あまりそうでも無かった。ノンフィクションという体で書かれた内容に、「こんなこと本当にあんの?」と半信半疑だった。
  ハイティーンへの恐怖さえ覚える反面、同級生と「恋空」の映画をジャスコのシネコンへ見に行き、感動のあまり泣いてしまった記憶もある。なんて流されやすい女だろう。

 今考えたら、よく分からないブームだったなと思う。
 書店にはケータイ小説が単行本化されたカラフルな本が並んでいて、みんなで貸し借りしあったり、自分も!と思い立って書き始めてみたり。私もその一人だった。

ただ問題があった。
 ヒエラルキーのトップにある小説たちは、「ノンフィクション」という武器がある。私にはその武器はない。東北の田舎の芋臭い中学生は丸腰同然だ。
では「あたかもノンフィクションのように見せる能力」はあるのか。残念ながらそれも持ち合わせていなかった。
つまるところ、すぐに挫折してしまった。


 ケータイ小説を懐古するとき、ひとつだけ「あれはいいよな〜」と思うものがある。
 かすみ草の花束だ。
 「恋空」の中で、年上の彼氏が主人公に、海辺でそれを贈るのだ。
 かすみ草だけの花束!凄い素敵!私も将来そんなものをくれる男の人と出会いたい!
 ローティーンのはかない、かなしい夢であった。
 結婚した男は、そもそも花束なんて贈らないタイプの人間だ。ましてや、かすみ草の名前を知っているかすら怪しい。

 「恋空」に懐疑的ながらも泣いていた私へ。
 あなたはそんな懸念しているような波乱万丈な高校生を送りません。年上の車持ちの彼氏なんかできないし、かすみ草の花束を贈るような人と結婚しない。
 あなたは、両親への挨拶で「一日ひと笑いさせることを誓います」というような、ちょっと変わった人と結婚するから、今から覚悟しておいたほうがいいです。
 かすみ草の花束はくれないけど、でも宣言通り毎日笑って過ごしているので、安心してください。

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