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短編小説

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台所で朝食を【短編小説】

台所で朝食を【短編小説】

三歳の娘が、突如「パンケーキが食べたいの」と言い出した。わたしはすぐさま台所の下の扉を開けて、材料を確認する。小麦粉、ベーキングパウダーはある。次は冷蔵庫。卵も牛乳もある。
「すぐ作るから、パパと遊んで待っててね」
声をかけると元気よくお返事をして、娘は日曜日の朝の魔法少女アニメを見始めた。

甘やかしすぎ、と怒られそうだな。
わたしは朝食にする予定の食パンを、戸棚に仕舞いながら考える。

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Levitating【短編小説】

Levitating【短編小説】

「それ、返してよ」
ギャルのお姉さんは、少し睨むようにして僕に言った。紛うことなきギャル。すごい爪の、すごいお化粧の、すのい髪色の、肌がこんがり灼けたギャル。僕のお母さんが見たら、泡を吹いて倒れそうなギャルだ。
僕が持っていたのは、綺麗な濃い青色のハンカチ。夜空をイメージしたのか、星の刺繍がところどころに入っている。
昨日、僕はこれを公園で拾った。
小学校から家までの帰り道にある、滑り台と鉄棒

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からやぎ【短編小説】

からやぎ【短編小説】

インスタグラムを開けば、都会に出ていった同級生たちのすてきな日常が、私をボコボコに殴ってくる。打ちのめされて、モヤモヤとした暗雲のような気持ちが心の底に溜まっていくのを感じる。ハァ〜〜〜。煙草の煙と一緒に、思わず特大の溜息をつく。流行りの店、都会にしかない服、化粧品、話題のスポット…。そんなものこの田舎町にはない。何処を探したってひとつも無い。
「幸せが逃げたな」
いつの間に隣に立っていた上司が

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砂棗【短編小説】

砂棗【短編小説】

「ごめんなさい、うちタトゥーあるけど大丈夫ですか?いちおプロフにも書いてるんだけど」
「あ、はい、拝見しました。大丈夫です」
生まれて初めて利用したデリヘルでやってきた女の子は、服を脱ぐ前にそう確認してきた。少しつり目の、今っぽい化粧と服装の女の子。花のような甘い香りが、彼女から漂っている。
「そんな緊張しないでね、同い年なんだし」
女の子とラブホテルにいるなんて、ベッドに座ってお話するなん

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神様、神様【短編小説】

神様、神様【短編小説】

私は、彼のことが本当に好きだ。好きで好きでしょうがない。寝ても覚めても、いつも彼のことを考えている。朝起きたら彼のSNSをチェックする。くまなく確認して、寝ている間に何か動向が無かったか確認する。こうすることしか彼の情報を知ることはできないので、本当に大事な作業のひとつだ。
あ、昨日夜中に生放送してる。くそ、見逃した。しかもアーカイブが残っていない。こういう事態に出くわすと、嫉妬のもやもやが心

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