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(8) 合同演習の効果と、影響

ブリュッセルの繁華街で起きた殺傷事件の捜査結果の概要がベルギー政府から報告され、世界中にニュースが配信される。
犯行に使われた飲食店の店内に放置された、プラ容器内に入っていたサリンの製造元が特定された。製造自体は古く、アサド独裁政権時のシリアで製造されたものだった。アサド体制が崩壊した際、所在の分からない生物兵器・化学兵器の類が暫く問題視されたが、シリアの体制も変わってから既に10年以上が経過し、人々の意識から化学兵器の所在問題は忘れられていた。それがこの報道で再燃する。  

東欧や西欧人になりすました元米海軍特殊部隊隊員が、各種の偽造パスポートと偽名を使って中東圏に通い、サリンを入手した顛末まで判明している。ベイルート、レバノンに最終的に流れていたシリア製の化学兵器を調達したのだが、その根拠となるモノが犯人が拠点にしていたワルシャワ郊外のアパートから見つかる。それが、プラ容器を格納していた梱包材で、そこから12年前にシリアで製造されたものだと判明した。
軍やそれなりの規模の組織に何らかのツテがある人物が介在すれば、調達が出来てしまう状態にあるとするならば大問題で、余罪を起こさない為にも調達先と想定されるヒズボラ等の組織に所有禁止兵器の摘発に乗り出す必要がある。既に、国連と国際警察が動き始め、関係国の警察も絡んで合同捜査に入っているらしい。    

この捜査結果を受けて、アメリカ政府のスポークスマンは再度ベルギー政府と国民に対して哀悼の意と陳謝を会見で述べる。
自分達が狂人を野放しにした経緯を棚において、あくまでも個人の犯行でありアメリカ政府は事件に関わっていないと、ー線を引こうとする姿勢をみせる。その他人行儀な応対に、ベルギーとフィリピン市民が激高し、それぞれのアメリカ大使館前で抗議活動を行う事態となる。
「アメリカは然るべき賠償をすべき」「責任を認めろ」と書かれた垂れ幕やプラカードを大使館前でデモ隊が掲げていた。

被害国から事態の責任を求められたアメリカは、前職大統領の引責辞任を受けて議長からスライド昇格した大統領が、ベルギーとフィリピンに謝罪訪問する事になった。そのアメリカ政府から、日本と北朝鮮の両政府にフィリピン訪問後に表敬訪問したいという打診があった。日本連合との新たな関係を築きたいとアメリカが事あるごとに言及していたが、謝罪訪問ついでの対日支援要請が目的であるのは明らかだった。
新たな関係以前に、アメリカが失ってしまった国際社会に於ける信頼を取り戻すのが最優先であり、日米首脳会談は時期尚早だと考える阪本首相一派と、今のアメリカは何処かの国が支えなければ行き場を失う、とする外務事務次官側との見解が一致せず、平行線を辿った。阪本首相と閣僚達は、犯罪行為の被害者への救済は元より原因の究明と再発防止は最低限必要で、被害を受けた国、アメリカの代わりにベルギー、フィリピンに当座の支援を行った国々が納得しなければ、国際社会はアメリカを受け入れないと正論を掲げ続けていた。

実際、日本の外務事務次官はアメリカ留学経験者で、CIAの息が掛かっているのは政府も最初から認識しており、ワザと重職に据えて泳がせていた。尻尾をそろそろ見せるだろうと見定めていた頃でもある。
事務次官が確認できる外交機密条項には制約を掛けており、アメリカに漏れても構わない三文情報ばかりが伝わった筈だった。    
事務次官に据える人事を敢えて行ったのも、令和政府の狡猾な一面と言える。アメリカと一線を画すべきタイミングとなった今、歯の浮くようなリップ・サービスを提供し続けた御仁は失脚するに相応しい頃合いとなった。対外的には、ブリュッセルで犯人と交戦し負傷した官房長官の息子が被害者となった事件でもあり、日本としても事件関係国の扱いとなっている。どのような謝罪と賠償が被害者達になされるのか分からないまま、安易に新大統領の来日を許せば、それこそ20年前の日米主従関係の再現となってしまう。ロシアの侵略行為により交戦状態となったウクライナに対して、ロシア贔屓の姿勢を見せた議員や学者達と同じだ。各人が何の援助をロシアから受けているのか知らないが、犯罪者側に与する姿勢を取れば、世の基本と正道が揺らぐ。ここでアメリカに対して「それとコレとは別」的なダブスタ対応を取ろうものなら、日本は礼を知らぬ国と被害国のベルギーとフィリピンの人々や世界中から思われるだろう。
マスコミ向けには双方の見解のズレが原因となって、アメリカ寄りと目される外務省事務次官の更迭発表となったが、実際は杜 里子外相がアメリカにタレこみ続けたデータを事務次官本人に突きつけて、自己都合退任退職となっていた。当然ながら退職金も払わない懲戒解雇扱いとなる。懲戒解雇なので天下り先も無ければ、再就職先を探すのも難しいだろう。外務事務次官の更迭劇が実際はクビで、退職金もビタ一文出ていないと知った官僚達は震撼する。政府は同じような人事を幾つかの省庁で行っているのではないかと、囁きあう。当然のように、各省庁から匿名でトップ達の大小様々な悪事のタレコミ情報が大臣達に入り始める。   
不正を許さず、悪を生まない組織にする為の必要な「見せしめ」が一つ行なわれた。まるでソ連の様な粛正方法だが、政治家に限らず、官僚も生温さに慣れてはならない人事権の行使となった。秋頃には更に風通しの良い、省庁になっていることだろう。   

平成期から子飼いにしていた日本の外務省事務屋のトップが更迭され、六本木から羽田のマンションの1室に縮小されて移らされたアメリカ大使館は、本国に対して「ベルギー訪問前に、アメリカを国際社会が受け入れる為の何らかのアクションを起こさない限り、日本は大統領はおろか、政府関係者すら招待しないだろう」と連絡した。  トップが変わればご破算となった時代は平成日本政府までの話で、自らの失敗を何一つ説明もせずに辞任していった正副大統領に呆れ返り、懐疑的な視線を向けていたのは日本政府だけでなく、世界中から見做されている。もし、訪日が実現してオフレコ発言として対米援助を求めても、日本の国庫の一部を今のアメリカに向けるのは、首相経験者だけでなく日本国民の誰もが容認しないだろうと、報告に認められていた。
「我が国の事など、日本は関心すら無いのだ・・」  アメリカ大使が、羽田にやってきた音速シャトルが護衛機である中南米軍戦闘機とチーム編成を解除して、着陸態勢に入ったのを窓越しに見る。 

日本では民間機が当たり前のように宇宙空間を航行している。方や、マッハ0.8の航空機での移動手段しか我が国には無い。セキュリティ上の問題からアメリカの航空会社便しか許されていない政府関係者、外交官からすれば、日本の10倍以上の時間を掛けて本国と往復し続ける方が酷だった。日本の外交官は南米と日帰り訪問をしていると言うのに、だ。   
移動手段一つで、膨大な無駄の存在に気付かされる。日本、北朝鮮そしてベネズエラの技術を我が国に提供して貰わねば、アメリカの未来は何時までも暗頓としたものになるだろう・・。
大使は百里基地方面に飛んでいった、中南米軍機をいつまでも見続けていた。 
「日本の空は2つの軍隊に守られている。我軍が居た時分よりも日本は遥かに強力だ・・」米国大使は悲しげに呟いた。            
ーーーー                       北朝鮮が高麗国となり、ベネズエラと事前に協議していた事項の一つが大使館に関するものだった。2040年から大使を復活させたベネズエラは、関係のある国やエリアに37名の大使を置いて、場所も日本大使館・領事館を利用し、大使館員も暫定的に共有させて貰っていた。そこに北朝鮮が加わったので、日本のインフラに依存するのを止め、両国で共通の大使館を用意して、共用するプランを考えた。大使館自体も立地や場所に拘らず、両国の各大使で協議してもらう事になった。大使館員の業務・執務はロボットに委ねて、大使、大使補佐、秘書官の3名体制が2カ国分で世界の37拠点に配置するように動き出した。 
また、高麗国・国連大使も選出され、NY郊外から国連へ通勤するようにした。高麗国は英語名を「North Korea」と従来通りの名称を使い、北朝鮮という呼称も継続利用する。新任されたキム・スロ国連大使が日本とチベットの大使に挟まれて会場入りすると、各国の大使が立ち上がって拍手で出迎える。
キム・スロ氏の「次は台湾、ChineseTaipeiの番です」と着任スピーチの中で言い放ち、激高した中国の代表団が離席する一幕もあった。

北朝鮮総督府が高麗臨時政府と名前を変えた直後から、日本のように穏便に済ます姿勢を見せずに、現実的な対応をしていこうと取り決めている節が見受けられる。
総督という役職から、臨時首相に転じて新たな権限を得た越山の発言も、事前に想定されていたとは言え、各国に衝撃を与える。越山は来年2041年に設立する軍の公募を行うと表明する。北朝鮮に駐留している中南米軍の兵器をそのまま残して、中南米軍兵は幹部、将校以外の兵士はチベットやフィリピン、ビルマ等の基地所属に転籍となると言う。
戦車等の車両、火砲兵器の操舵は整備も含めてロボットに任せて、基地の総務管理的な業務と、将来的にパイロット職を担う人材として、女性隊員の募集を始めると発表した。

整備士以外の役職は国内と旧満州から人種を問わず集う方針だと越山臨時首相が述べると、誰もが募集要項と採用人員枠に関心を抱く。パイロット候補生300名という枠には多数の応募が殺到し、軍立病院を含める 地上勤務のスタッフ職1000名も相場から比べれば高い待遇だと知れ渡り、応募する人々が続いていた。
ベネズエラのミランダ空軍基地とマリオボロ海軍基地に代表される中南米軍基地の設計を担当した柳井ヴェロニカが基地の新施設建設を担当するというアナウンスも後押しする。新都市開発を設計主導したヴェロニカの評価は高かった。国際空港と見紛うばかりの南米基地の評判も高い。中南米軍では女性パイロットが3500名を越えるまでに増え、広大な大陸という場所柄もあって、郊外から基地までヘリやプロペラ機で通勤する人も少なくないという。その影響もあって、小型のプロペラ機やヘリの売上が世界で最も多いエリアとなっている。
通勤の逸話に加えて、将来的には月面基地勤務や宇宙空間訓練への足掛かりにもなり、除隊後は民間機のパイロットにも成れるし、航空ライセンス取得も軍が負担してくれると、いい事づくしだとして人々は飛びついた。 櫻田外相・国防相が中南米の各基地で浸透させた実績を北朝鮮でも取り入れようとしているので、イメージがしやすかったのだろう。           
中南米軍のスタイルを取り入れる北朝鮮軍の設立には、日本も含めた周辺国は頭を抱える事になる。自衛隊も含めてだが、男社会が当然の世界に、女性比率の高い軍隊を作ろうというのだから。中南米軍は各国内部の基地には女性を優先的に配置し、世界各国の防衛拠点となる基地や駐屯地には男性兵を主に配置している。ラテンアメリカ社会における男女関係の様々なトラブルを未然に防ぐ為には、軍人教育やマニュアルで物理的に徹底するのは難しいと前大統領の越山と国防相も兼ねた櫻田が考えて、中南米の基地と各国の駐屯地とで男女を分けてみせた。艦船にはロボットが搭乗し、戦車はリモート操作で対応出来る様に改変した。特殊部隊や整備の兵士は男性が多いが、前線におけるロボット比率を高めながら、中南米各国の後方支援部隊では女性の雇用を優先させた。中南米軍の中で男女が同じ場に集うのは、自然災害対応時や集会・会議程度となり、日常では接点をほぼ無くした。
また、ヒトの代役をロボットが務められるので、平常時は9時ー17時の勤務は遵守され、家族や恋人とのプライベート確保が可能な、世界でも珍しい軍隊に変わっていた。 同性上下関係でのパワハラはゼロではないが、セクハラはほぼゼロとなった。軍隊の規律維持の為に性差による問題から極力無縁な組織作りを目指したので、学校教育とは矛盾する面もあるにせよ、全軍を通して女性就業率が5割を超える軍隊となり、越山・櫻田の目論見は見事に的中した。              越山と櫻田が中南米軍での実績を北朝鮮軍でも踏襲するのは必然だったし、誰もがそうなるだろうと察していた。北朝鮮軍に於ける海外駐屯先は、旧満州特別自治区である中国の黒竜江省と山東省だけとなる。北朝鮮内の基地は女性の募集のみで、旧満州に配備される兵は男性となり、募集の7割強が女性となる計算だ。その上、兵士や基地職スタッフは朝鮮族に拘らないので、国内同様に多国籍軍っぽくなるだろうと目されている。    友軍となる日本の防衛省は慌てる。自衛隊員は日本人しかおらず、しかも9割が男性で総務部門は絶えずセクハラ・パワハラの件数処理に追われていた。その為の問題対応人員や賠償金、問題を起こした将校や兵士への厳罰、いじめを受けた隊員や女性隊員のカウンセリングやマスコミへの発表など、およそ軍隊らしからぬ業務に従事する専門スタッフが必要となっている。自衛隊に限らず、中国、中東以外の軍隊では共通の問題となっている所に、トラブル件数が極端に少ない軍隊がまた一つ、北朝鮮に新たに出来ようとしているのだから。     また、次期北朝鮮軍となる中南米軍の北朝鮮駐屯部隊と韓国軍の初めての合同演習が韓国東岸と、日本の経済水域外の太平洋で行われる。春と秋の年二回開催され、韓国防衛の為の手順と組織を常に最適化してゆく。春の演習に合わせてサイジングされた布陣に、中国政府は勿論、自衛隊と台湾軍も度肝を抜かれる。台湾軍と中南米軍の合同演習以上に過激な内容だったからだ。朝鮮半島上陸作戦に於ける演習はメディアにも全て公開され、世界中に配信される。攻め手と守り手が何度も交代し、ペイント弾を実装した両軍が上陸阻止防衛側と上陸侵攻側の2手に分かれ、実戦まがいに打ち合う演習となる。 韓国軍にはロボット部隊が無く、米軍が装備している防衛、攻略装備しかない。ロボット部隊が無いままでは攻守が何度交代しても中南米軍が圧倒してしまう結果となり、「韓国軍は不要」と判断され兼ねない。
従来の上陸演習の内容は、侵攻側が制空権を握った前提で水陸両用車に搭乗した兵士が上陸とともに散開し、トーチカや塹壕に潜んで上陸を阻止しようと待ち構えている敵部隊と交戦する、温めの内容が一般的だ。この布陣に身体能力が人より勝るロボットが攻守の側に加わるだけで、相手にプレッシャーを与える戦力として機能する。ロボットの戦闘能力自体は中南米軍の演習風景で既に知られているので、片方だけに配備すれば、韓国軍兵士は端から戦意を失う状態となってしまう。そこで、中南米軍の配慮によりスナイパー役のロボットやランチャーを放つロボット等を防衛ラインを形成する韓国軍側にも配備した。
これで容易に上陸できない状況下となり、お互いがペイントまみれになる壮絶な演習光景の映像が撮れた。演習映像は複数台のドローンと偵察衛星で隈なく記録され、映像を解析したAIが、次の演習での改善点を瞬時に見出してゆく。AI分析と中南米軍の戦力分析チームが纏めた、新バージョンとなる双方の陣形が変更されると、二度目三度目の演習が更に激しい内容となってゆく。
「このクソッタレ演習は、一体誰によって考案されているのだ?」韓国兵達は自軍の訓練や演習では味わったことの無い激しい交戦を実践して、中南米軍の強さを思い知る。新バージョンでは韓国軍側に就いたロボット兵達が事前に集めた大量の石を投擲して、上陸を始めたロボット達の進行を阻止し始めた。ロボットのチタン装甲のボディに容赦なく石がガシャンガシャンと命中し、ボディの所々が凹んでゆく。投擲速度が260kmを超え、ロボットが変形し、傷だらけになるのも当然だった。 
外装は幾らでも交換できるとは言え、中南米軍は演習に一切手を抜かず、金を惜しまないと韓国兵から認識される。投石をぶつけられても上陸を試みるロボット兵達は盾で投石を躱しながら、射撃範囲内に進出しようと移動を企ててゆく。投石により怠惰な動きとなる侵略軍に対して、更にスナイパー役のロボット達がペイント弾で狙撃し、ロボット達が強肩を活かしてペイント手榴弾を上陸を試み始めようとしているロボットにブチ当てて、ペイントまみれの無力化を施してゆく。
投石により上陸を拒まれたロボット達は、潜水空母から自動操縦で放たれたフライングユニットを装着して上空へ飛び上がる。ロボットを自在に飛ばさないとする、スナイパーの射撃能力により、かなりの浮遊ロボットを迎撃するも、直撃を免れた浮遊ロボットは塹壕やトーチカを大きく迂回して、敵地に侵入すると迎撃部隊の背後に着陸して背後から攻撃を加え、挟み撃ちにしてゆく。これは実際に「あり得るシチュエーション」だ。 
迎撃部隊を海岸線だけに配置する、従来型の上陸作戦を嘲笑うかのような現実的な戦闘訓練が熱く展開される。上陸してくる水陸両用車に向けて、ペイント砲弾を放って車両ごと無力化しようとしたり、侵攻側は水陸両用車だけでなく、ホバークラフトで更に高く飛翔して、敵地後方に着陸してロボット兵を解き放ってゆく。

「こんな壮絶な演習は見たことが無い・・」世界中の戦闘マニア達が迫力ある演習内容に盛り上がる。敵と味方に分かれて行われる中南米軍の演習は名物となっているが、複数国による合同演習で互いに交戦し合うのが珍しかったのだろう。マニアに限らず、軍事評論家や各国の軍関係者までもがマスコミが撮影した演習風景の映像を求めて、解析してゆく。   
来月5月に南沙諸島沖で行われる台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、中南米5海軍による合同演習も、単に燃料補給訓練や実弾射撃だけでなく、敵味方に分かれてペイント弾を打ち合うものとなるらしい。台湾と中国の両軍が、相手のいない海に向かって実弾射撃を繰り返し、敵のいない陣地に上陸作戦を演ずる生易しい訓練は、兵士が兵器の扱いに慣れる事以外、意味を成さないとまで軍事評論家に言われてしまうと、洒落にならないのは台湾侵攻作戦を永遠に想定し続ける、中国人民解放軍だ。評論家達が「中国の演習など、実戦では何の役にも立たない」といった嘲笑を含んだ評価が、今回の演習で暗に示されていた。              人民解放軍が何千何百と作り続けている台湾侵攻シュミレーションに、台湾側にロボット兵や中南米軍が介在すると、シュミレーションの大半が「早々に敗れる」とIT分析結果が出てしまう。スナイパー役のロボットの射撃能力の高さに参謀たちは驚く。距離を無視するかの如き、正確な射撃は相手の進軍を確実に足止めする。
それでも上陸を試みる侵略側は諦めずに、次なる策を弄する。ロボットにフライングユニットを背負わせて空を舞い、韓国兵の頭上を飛びながらペイント弾を放ってくる。想定しない角度からの攻撃を受けて恐怖に兵士が怯える様が全てを物語っていた。前例のない攻撃に、ヒトは即座に対応できない。

「これは陸軍同士の演習ですから、海空軍は参加していません。上陸作戦をする中南米軍が制空権を制していれば、陸軍を投入せずに難なく防衛ラインを突破します。無人航空隊が海岸で待ち構えている部隊を制圧するか、沖合で潜んでいた潜水艦が浮上し、レールガン砲による艦砲射撃とミサイルで、跡形もなく破壊します。通常の戦闘機や火砲兵器では、中南米軍機も潜水艦も迎撃 出来ません。しかし、それでは韓国軍の演習になりませんから、敢えて陸軍だけで上陸作戦を立てて演習に臨んでいます。            
中南米軍には、こんな風に空を飛ぶ大小のロボットまで居ますから、陸軍単独でも十分に圧倒できてしまいます・・。台湾の防衛ラインを中南米軍が構築している今、我軍が勝利できる確率は極めてゼロに近いと言えるでしょう・・」      

人民解放軍の作戦将校達に確率がゼロだと言われて、中南海の老政治家達は項垂れながら、韓国での映像を見ていた。顔に迷彩を施した韓国兵の、その悲痛なまでの表情や恐怖に怯え絶叫する様は、演習の域を超えて実戦を見ているかのような錯覚を受ける。評論家たちが演習の厳しさを伝える理由が誰にも分かった。中国人民解放軍の若き作戦参謀の嘆きが、韓国兵の恐怖に怯える表情と重なる。
「勝てないのか・・」無礼講で遠慮なく話せと作戦参謀達に命じた、陸軍将校が頭を抱える。集めた石ころまで武器として使うような軍隊だ。原始的なモノでも、ロボットが投げれば、それだけで立派な兵器となる・・。 ヒト同士の戦いから脱している中南米軍は、ロボットの能力に応じた自由な発想で作戦を練る事ができる。銃の射撃能力が全弾命中に近い精度であれば、マシンガンやライフルをセミオートで連射する必要は無いので、実弾数を抑える事が出来る。イラクでISの掃討作戦を実施した際、銃で殺傷するのを良しとしなかった中南米軍は、モビルスーツが立てこもったビルに24時間体制で岩石を放ち続け、ISの兵たちを睡眠させなかった。兵糧攻めで餓えさせるよりも、睡眠を取らせない方が手っ取り早いと考えたのだろう。24時間後に弓と刀を持ったロボット隊が建物に突入し、IS兵のスネや筋を切って無力化、鎮圧してみせた。              
石や日本刀や弓を戦闘で用いる軍隊は、中南米軍だけだ・・。自衛隊も北朝鮮軍も、次第に中南米軍のように変革してゆくに違いない。    

「世界中の将校達は中南米軍をどのように見ているのだろう」周岱明 中将は他国の将校の中南米軍対抗策を考える。古代中世であれば、武力に長けた国家や組織と戦うには、籠城するのがセオリーだった。しかし、ロボット兵と兵士の差があまりにもかけ離れているので、籠城する意味が殆ど無くなった。ロボット兵はフライングユニットや無人小型機を用いて、安々と壁を越えて入城してくるだろう。それ以前にモビルスーツが石を放り込んで、圧死するかもしれない。      
ミサイルを市街地に打ち込んで、市民ごと殺戮してきた実績のあるロシアやアメリカならば有り得るかもしれないが、一般市民に影響が及ばぬように配慮するのが中南米軍とも言われている。武装している兵や小隊だけを攻撃するのかもしれない。           
今の米軍であれば、中南米軍は容赦せずに攻撃するやもしれぬ・・。周 岱明はふと笑う。ロボットが使う弓や、投げる石ころは、銃と遜色のない威力を持っているのだろうが。        

3日間に渡る演習を終えた韓国陸軍の李 承暁 司令官は頭を抱えて考え込んでいた。   
もし、味方にロボットの狙撃手やロボット兵士達の正確な射撃力が無ければ、一方的な形で勝敗は決し、演習として成立しなかっただろう。韓国兵が放ったペイント弾は2番、3番煎じに過ぎず、初段の殆どが味方に加わったロボット兵からの攻撃によるものだと、データが伝えていた。
「果たして、我々韓国軍に存在意義はあるのか」李 司令官は親類の財閥の総帥に、改めてロボット開発を急かさなければならないと改めて感じていた。
「兵器オタクの集まり」とも言われるベネズエラ大統領と国防相、そして北朝鮮に転じた国防相が、何故AI開発とロボット工学に莫大な投資し続けているのか、その性能と投資効果を目の当たりにして、初めて投資の目的が理解出来た。ヒトの兵士を圧倒的なまでに凌駕するAIロボットの別次元の視野角や命中精度と獣のようなパワーは、既存の陸上部隊を無力な存在へと追いやってしまう。また、残念ながらヒトの集中力には限界がある。作戦中のヒトの疲労も兵士の筋肉だけでなく、戦闘参加により活性化される脳機能の持続も、短時間しか持続できない。一方でロボットは稼働できるエネルギーが有る限り、動き続ける。

「人とロボットが対等の場で争うのは、理不尽極まりない・・」
李 司令官は映像とデータを何度も見返す。
「何も人型ロボットである必要はない。自衛隊も中南米軍も、最初は小型バギータイプのロボットから始まった。まずは比較的簡単なものから始めればいいではないか・・。」
司令官はそう考えて、技術将校達に無人兵器の導入を提案する。兵役制度を回避するために北朝鮮に渡る若者が増加している今、合同演習の映像が拡散して、韓国兵が怯える様にフォーカスされると、更にマイナス要因となりかねない・・。  

「そう簡単な話ではない。FA,ファクトリーオートメーションでも日本企業に席巻され、ロボット工学自体が事業にならずに遅れを取っている。AIも然りで、複雑な処理が韓国製AIにはまだ出来ない」
部下や技術将校達は、ロボット以前に、宗教法人の施設を破壊したロケット・ランチャーや手榴弾が韓国軍の盗品だったとする報道に衝撃を受けていた。武器を横流しした管理部門の兵士は行方不明だと言う。教団から大金を貰ったのか、海外逃亡したのか、行方を追っているという。   
人が傷ついていないとは言え、軍の規律が緩んでいる証拠だった。
「兵器を宗教法人に渡してしまう・・」こんな杜撰な軍隊に、入隊志願する人材の方が厄介だ。「大金を背占めて高飛びすれば事足りる」と安易に考える若者が集まってくるかもしれない。暴力団にも流れていたなら致命的だ。
「演習結果以前の問題」と受け止めている軍の中間層が居た。 

(つづく)


・・もしジョンソン復帰となれば、英国は終わる。


これは売れないだろう・・
「次の」最有力、筆頭候補なのだが・・
何もしないまま去るので、日本の首相と同じだが。

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