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川島 太一
2024年7月6日 13:44
「これ、なに?」 週末に帰省していた私は実家のリビングにぶら下がっているものを見て尋ねた。 それは青い網でできており、籠のようで三層のそれぞれの面には何やら不格好な黄色いものが並べられていた。「それ? ああ、お父さんが作っとる干し芋やがね。好きなの食べやあ」 新聞を読んできた母は顔を上げて、さも当たり前のことのように答えた。 定年退職するまで父が台所に立つ姿をあまり見たことがなかった。
2023年4月18日 21:09
「このチョコ、おいしいですよね。なんて名前でしたっけ」 終業後、隣の同僚が話しかけてきた。視線の先は私と彼女の間にあるゴミ箱だ。その中には私が捨てたチョコの袋があった。「いつもこれ食べてますよね」 笑顔で聞く同僚の前で、私は答える前にペットボトルのお茶を一口飲んだ。 私は万年ダイエッターであるにも関わらず甘いものが好きだ。ただやはり体型も気になるお年頃なので量は控えめにしているつもりだ。
2021年10月27日 18:49
「そういえばこの前、おもしろい喫茶店に行ったんやけど」 おもむろに母が口を開いた。 その日はたまたま用事があり、そのついでに実家に帰っていた。約半年ぶりの帰省だ。近くのレストランで母と共にランチを食べていた最中だった。「おもしろい喫茶店ってよく意味が分からないんだけど、どういうこと?」 私は思わずつっこむ。コーヒーがおいしいとかサービスがいいとかはあっても、おもしろい喫茶店とは聞いたことが
2021年11月2日 17:32
「この目の前にあるものは一体なんだろうか?」 イタリアのとある街のレストランで私は自問自答していた。 恐らく、私が注文したデザートのティラミスのはずだが、どこからどう見てもティラミスには見えない。これは食してもいい代物なのか、そもそもこれは何なのか。周りの人が固唾をのんで見守る中、私はフォークになかなか手を伸ばせずにいた。 今から3年ほど前、私は上司たちのお供でイタリアへ出張した。お供と
2022年7月30日 11:56
*このエッセイは2021年に天狼院書店HPに別名義で掲載されたものです。一部追記修正しています。「もう1年近く経つんだ」 フランスに関するFacebookに紹介されている『それ』を見て思わず呟いた。私がフランスから帰国してもう1年になろうとしていた。 毎年1月になるとフランスのパン屋さんやお菓子屋さんの店頭を埋め尽くす『それ』。失礼ながら、私の中で決して一番好きなお菓子ではない。けれども
2022年8月8日 22:05
「昼はカツカレーでええけな?」 Nさんがおもむろに聞く。助手席にいた私が「はい、大丈夫です」と言うと、Nさんは車を道脇に止め、電話をし始めた。 仕事関係の会合がNさんとの最初の出会いだ。両親と同じくらいの年齢で、もう50年以上農業をやっている農家のプロだ。私の海外の話が面白かったのか、会合後「よかったらうちの畑見に来てくろ、案内するで」とお誘いを受けた。そして、ある週末にNさんのお宅を訪問し
2022年8月13日 08:05
*このエッセイは2020年に天狼院書店HPに別名義で掲載されたものです。一部追記修正しています。「おい、昼飯行くぞ」 そう声をかけられて、私は慌てて財布を探す。同僚の2人はすでに先を歩いている。「ちょっと待ってくださいよ」 私は小走りで後を追いかける。行く先は決まっている、いつもの製麺所だ。 それは3月のある日、年度末で慌ただしい時期だった。 私が住んでいるところには、市民なら知