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福田恆存を読む

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『福田恆存全集』全八巻(文藝春秋社)を熟読して、私注を記録していきます。
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2023年9月の記事一覧

『批評精神について』批評とは極北の精神にほかならない

『批評精神について』批評とは極北の精神にほかならない

 この論文は昭和二十四年に発表された。

このように前置きして、福田は、平面上に置かれた物体について語り始める。平面はつねに動いている。少しの傾斜でもすべり始める物体もあれば、多少の傾斜では微動だにしない物体もある。ここでの平面と物体は、それぞれ現実と精神の比喩である。

他の精神の眼には傾斜とは見えないような微細な傾斜を—— またその予兆すらを—— 真っ先に鋭敏に感知する眼こそが、すぐれた批評精

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【閑話】全集を読むこと

【閑話】全集を読むこと

 作家の全集を読むことは、大変時間もかかるし、骨も折れることだ。そのあいだは他の本を読めなくなるほどに精力を使う。ではなぜそうまでして、全集を読むのか。

それは歴史の衝突のためである。結果としての充ちた時間のためである。

全集の熟読は歴史の衝突だ。作者の歴史と私の歴史との衝突である。それゆえに、対話は濃密なものとなり、相手が腹を割ってくれただけ、こちらも腹を割って応える必要がある。その繰り返し

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『職業としての批評家』他人の書いたものを読むといふのは、なみなみならぬ奉仕ではないか

『職業としての批評家』他人の書いたものを読むといふのは、なみなみならぬ奉仕ではないか

 この論文は昭和二十三年に発表された。冒頭の引用から始める。

福田が『職業としての作家』において提出した「近代人の宿命」とはなにか。一言で言うならば、人間的完成と職業との分離である。個人的自我と集団的自我との分離と言い換えてもよいだろう。要するに、近代以降、作家を職業とするためには、①専門化された技術を持つ職人になるか、②副業を持つか、このいずれかの道しかないということである。

ひとは他人の人

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