『叔父曰く 純情編』(超短編小説)


「要するに、お前は恋をしたんだよ」
「いやいや・・・」
「だって気になってるんだろう」
「そういう意味ではないので・・・」
「断言してやる。お前は恋をした」
「なんでそんなふうに言い切れるんですか?」
「んなもん、お前の顔みたらわかるよ」
「そんな顔してませんよ」
「それじゃあ、逆に質問するけどな、お前なんで今日ここに来た」
「ちょっとした相談で」
「恋の相談だろ」
「違う違う、自分は相手の態度の意味が知りたかっただけで・・・」
「俺のところに相談に来るという行動を起こしている時点でだな・・・。まあいいや。そういえば、まだ具体的に話を聞いていなかったな。ほら、もう一回話してみろ」
「はい。高校のクラスメイトの女の子が最近急に話しかけてくるようになって・・・」
「で?」
「例えば、『消しゴム貸して』とか『ノート見せて』とか、近くの女友達に言えばいいのに、わざわざ遠くの席にいる自分のところまで言いに来たりするんです。この前なんか、帰り道で“たまたま”一緒になったりして、とにかくそういうことが増えてきて・・・」
「ふーん。それで?」
「どういうことなのかなって疑問に思ってて」
「そりゃ、そういうことだろ」
「どういう?」
「その子はお前に気があるのかもな」
「・・・」
「なんだよお前。顔を真っ赤にして照れやがって」
「いや、そういうわけじゃ」
「で、お前はその子のことをどう思っているんだ」
「自分でもよくわからなくて・・・」
「その子は可愛いのか?」
「は、はい・・・」
「へえ。で、舞い上がっちゃったのかお前」
「だからそんなんじゃないです」
「じゃ、なんだよ」
「あの、話まだ終わってないんですけど」
「ああそうか。で?」
「そんな感じで自分に近づいてきたりしたんですけど、三日くらい前から何も話しかけてこなくなったんです。彼女の行動の全てがどういうことなのかわからなくて」
「で、お前はその子のことが気になって仕方ないわけだ」
「いいえ、単純に行動の意味が知りたいだけです」
「それは作戦かもな」
「作戦?」
「まあ、古くからある作戦だよ。押して押して急に引くんだ。人間っていうのは当たり前にあったものが急になくなると寂しくなるようにできているんだ」
「何のための作戦ですか」
「お前ホントに鈍いなあ。お前の気をひくために決まってるじゃないか」
「ちょっと待ってください。そもそも僕なんかを好きになるわけがない」
「なんでだよ」
「昔からイケてないし、モテたこともないし・・・」
「ネガティブかっ」
「ひょっとしたら・・・たまたま偶然が重なっただけで、自分のことを何とも思ってない可能性もあるし・・・」
「っていうかさ、お前は俺に何を言ってほしいわけ?」
「・・・わかりません」
「その子はお前に何度も話しかけてきた。でもお前はずっと受け身だった。そうだろ?」
「はい・・」
「お前から一度でも話しかけたりしたのか?」
「してません」
「考えてみろ。仲良くなりたいと思ってどれだけ頑張っても大した反応がない。ましてや相手から話しかけてくれたことなんて一度もない。あれ、私のこと嫌いなのかな。私に付きまとわれて迷惑なのかな。そうやって心配になっていくんだ。そして、ある日ふと思うんだ。ああ、もう頑張るのやめようって。・・・そういうことなんじゃないのか」
「・・・」
「もちろん、それは俺の想像の世界の話だけどさ」
「・・・」
「それに比べてお前は、難しい顔して、ひっそりと自分の殻に閉じこもって、いまだに自分の気持ちがわからないとか何とか言って、実は一日中彼女のことを考えているんだ。まったく情けないね」
「・・・」
「気がつけばその子のことを考えている。朝起きた時も、夜寝る前も、頭にふわ〜ってその子の顔が浮かんでくるんだろう。違うか?もうね、その時点で、完全に重傷だよ」
「・・・」
「こんなチャンスもう一生来ないかもな」
「叔父さんっ、あの・・・自分はどうしたらいい?」
「そうだな。その前にはっきりさせておこう。お前はその子ともっと話したいのか?」
「・・・話したい」
「その子のことをもっと知りたいと思うか?」
「うん」
「その子と手をつなぎたいか?」
「・・・つなぎたい」
「その子が好きか?」
「好き」
「どうだ?気持ちがはっきりしただろう」
「・・うん」
「相手の本当の気持ちがどうなのかはわからないよ。でも大事なのはお前の今の気持ちだと思うよ、俺は」
「どうすれば?」
「そんなの決まってるだろう」

(了)

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