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4年ぶりに外に働きに出て起こった、4つの変化。(2073文字)


 この3年間、私は帯同ビザで上海にいたため、就労が認められていなかった。
 ときどきヨガイベントのお手伝いをしたり、知り合いにヨガレッスンをしたりするくらいで基本的には専業主婦。
それが今月に入り、「当分上海に戻れる見込みはなさそう」とやっと今後の見通しが立ったため、今週から4年ぶりに外に働きに出ることにした。
週に何度か、それも短時間の勤務でも、いろいろと思うところがあった。


○○○

① なにもかもが新鮮


・仕事でなきゃ絶対知り合わなかっただろう人たちや、社会とのかかわりが生まれる。
ほぼ家族としか接しない生活とは一変。仕事では、友人とは違って、年齢、経歴、趣味や価値観が様々な人と出会う。
 中には私が中国にいたことを知りつつも、「中国嫌い!」と露骨に嫌悪感をあらわにする人だっている。それもまた新鮮。


・日々のなかに緊張がある。
まだ慣れない今はいつの間にか仕事のことをつい考えてしまい、その緊張から夜寝つきが悪くなる。
やっと寝ても、眠りが浅く、夢に見るのも仕事のこと。


・「アリガトウゴザイマス!」と「スミマセン!」の前年同月比2000%UP(本人体感率)
それ以外で口をひらくときは、「これは~ですか?」「ここ~ですか?」などの、疑問・質問文のみ。


② 出費が増える


・食費支出
長時間働いているわけではないけれど、久しぶりの仕事となると、どうも気ぜわしい。するともともと少なかった料理にさく時間がさらに削られる。
さらに、「お給料もいただけることだし、これくらいはいいか♪」と、出来合い惣菜や贅沢なおやつを買う機会が増える。


・自分の身繕い支出
「だれか」と接する以上は、せめて人の五感に害を与えないようにと心掛ける。
服装、化粧、歯、髪、とくに夏は匂いにも気をつけて、猛暑のなかでも清潔感をひねり出したい。
そのためには何かと費用もかさむもの。中国のショッピングサイト・タオバオが何とも恋しい日々。


③ 家族との関わりに変化

「マル、コ・・・・?」
「お母さん!!」
「夢じゃないのね?マルコ!!」

勤務初日、帰宅したときには、3千里。約12,000キロの距離を隔ててついに再開した親子のようだった。
 聞けば息子は私が帰宅する1時間以上も前から、うだるように暑く太陽が照りつけるベランダで、電車の時刻表と時計を手に、「いつ母が通るか」と通りを見つめ続けていたそう。


 まるで忠犬ハチ公な姿を思い浮かべ、胸がギュッとなる。些末なことに目くじらをたてていた日々がうそのように感じるほど、息子のすべてに光が差して見えてくる。

 夜には家族3人、真ん中でそれぞれ片手を出して重ねる。


「明日もがんばろう、オー!」


いびつな円陣でも、声はバラバラでも心の中に強力なお守りが生まれたような気分になった。
家族はもちろん、友人、職場の人、すれ違う知らない人、テレビに出ている人、みんなそれぞれの場所でがんばっているんだと思うと、勇気と元気がもりもり沸いてくるから心強い。


④ 臨機応変、柔軟性がすべて


先輩方から仕事のやり方を教わるも、全ての言葉の結びは「まぁ後は臨機応変に」となる。
だれかとかかわって仕事をする限り、時と場合、誰かの気分や裁量一つでそのときの「正解」はかわるもの。
一応の仕事のマニュアルはあったとしても、あとの9割は「適宜対応」「応相談」「雰囲気で」
それにしたって臨機応変というものは、一通りのことが身についている人が適切な対応をとることだろう。時と場合に応じた対応ができるまでは、とにかく数をこなして慣れるしかない。


○○○


勤務初日を無事終え、夜ほっと一息つきながら夫と話をする。明日への英気を養うためそろそろ眠りに行こうかと思うと夫が何かを思い出したように軽い調子で口を開いた。

「そういえば、上海でトラブルがあったみたいで、至急上海に戻るように言われたわ~」

 まだまだ上海には戻らないとようやくわかり、働きだした矢先である初日に奇しくも「いますぐ上海にもどられよ」とのお達し。
 

 それでもこんな状況なだけに、「いますぐ」と言われてもまだビザも下りにくい昨今。ひとまず夫だけが戻るにしても、早くとも冬にはなるだろうとのこと。

「…とりあえず単身で、だよね?」
そうであってほしい。そうでなければ、困る。と目で夫に念を送りこんだ。


 上海にはまだずっと会えていない友人もいる。何もかも放置したままの上海の家も気になる。
それでもまだもう少し、日本での生活を謳歌したい。

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「柔軟性」「臨機応変」「当意即妙」


 会社の命に翻弄されつづけるイエスマンの妻には必須であり、常に訓練しつづけるべき能力なのかもしれない。
そうだとしても毎度毎度柔軟じゃなくてもいい。
ときには頑固でも強情でもいい。

あんなにも、自分の生活基盤であるホームがある上海に帰りたかった時期をすぎ、やっと日本に腰を落ち着けられてきたところだもの。
「戻られよ」と言われているのは夫だもの。


 毎年夏になると、大好きなライチを毎日毎日飽きもせず、しあわせな気持ちで食べていた。
今年はあの瑞々しく芳醇な甘さのライチを食べずに夏が終わろうとしている。


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