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じゃがいもの煮っ転がしと息子。(1669文字)


じゃがいもの煮っ転がしづくりに初めて挑戦する息子。
簡単な下ごしらえと説明をし、あとは息子にまかせようと場所を離れた。

お母さん、ジャガイモはひとつずつ焼くの?
お母さん、火は弱火?強火?
お母さん、何分焼くの?
お母さん、醤油はどれくらい入れるの?
お母さん、どうやっていれたらこぼれないの?
お母さん、いつひっくり返すの?

逐一細かい質問をしにやってくる息子についイライラし、こう言った。

きっちり決まりはないの!
おいしそうになることを目標に、あんたとじゃがいもさんで相談してきめるんだよ!
決めるのはお母さんじゃない。あんたとじゃがいもさんだよ!

われながらあっけにとられる、感覚派丸出し発言。

あ、そこのかどキュッと曲がって、ダーッといったらでっかいビルがあるわ。そこから結構いったら着くわ。
まぁ知らんけど。

わたしならこう説明してしまいそうなところを、きっと息子ならこう説明するだろう。

いまどちらにおられますか?徒歩ですか?徒歩でしたら、○からご案内しますね。
駅の北口をでますと右手にローソンがあります。そこを南にまがっていただき、100Mほど進みますと左手に○銀行のビルがあります。そこから500M南に進まれますと目的地です。

 生まれ育った環境や、親が子に与える影響についてはいつもだれかが、大抵はネガティブなイメージをもって語っている。それももちろんあるだろう。
けれど、私は親が子どもからうける影響のほうをより強く感じている。



 先日私は15年ぶりに再会した知人に、「すっかり感じが変わって誰だかわからなかった!」そう言って驚かれた。
人をかたちづくる細胞は約37兆個。その入れ替わりは常に行われているという。
皮膚は約1か月ですべて入れ替わり、脳細胞なら1か月で約40%。遅くとも約1年ですべての脳細胞が入れ替わるという。
細胞も日々生まれかわっているし、自分の考え方や行動、見た目も15年前からはすっかり変わっている自覚がある。
参考-ウィキペディア細胞人体の細胞更新速度



 今まで何度かあった転換期。中でも私を大きく変えたのは出産だろう。
最大のデトックスという言葉もある通り、出産では、子どもと一緒に胎盤、羊水、血液を一気に排出し、産後は血液から生成される母乳を出し、子どもに与え続ける。
 そしてそんなからだの変化とともに、子どもは胎児期からずっと私に影響を与え続ける。
泣き、笑い、食べ、排泄し、寝る。
ただ生きているだけで、ものすごいパワーをもってして、わたしの今までの価値観をじわじわと覆す。


夏休みの平日一日目。息子と裁判の傍聴に行った。傍聴中に筆談したメモ。

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 帰ってから子ども六法(2019年発売 山崎聡一郎著)を熱心に読む息子。彼の夢は、裁判官でも弁護士でもない。
「毎日しあわせに暮らすこと」これはずっと前から変わらない。

「今年一年どんな年だった?」
去年の大みそかに息子にきくと、「一生懸命生きることをがんばった!」と何の迷いもなく、元気いっぱいに答えてくれた。


 泣いていたかと思ったら、すぐにケロッとして笑い、
大好物のオムライスもおなかがいっぱいになると、「あと一口」を残す。
疲れていてもやりたいことは寝食を忘れて没頭し、決して後先は考えない。
すぐつける距離もいったりきたりして、効率や損得も一切考えない。
ときには、「いつも優しくしてくれてありがとう」と、しみじみ感謝を伝えてくれることもある。
今日も昨日も一瞬一瞬を楽しそうに、懸命生きている。

 

 転勤が多いこともあって、ほどんどの時間を親子で過ごしてきた。
ヨガ教室、歯医者、美容室、友達とのランチ、映画、美術館、寺。
今までいけるところはほとんど一緒に行ってきた。そして今日は一緒に仕事の面接にいく予定。
いうまでもなく、私からの影響は彼にとっても相当なものだろう。
 そして私も両親にとっては、子ども。
私が親から影響をうけてきたと同時に、両親も私に影響をうけ続けているかもしれないことを初めて思った。


むすこが熱いガスコンロの前につきっきりでつくった、いもの煮っ転がしは、悶絶寸前の美味しさだった。


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