坂本忠恆
拙作をまとめていきます。
経験の不足という避けられぬ原理故に、若者はみな無知だが、無知なりに潜考を深めていく中で、彼らは彼らの生涯の伴侶とするべき思想的類型を自ずから撰り取るようになる…
感情的確信を持たない論理は、不感症の肉塊のようなものだ。 ニヒリズムは我々に何も語らない。それは先祖の建てた墓石のように、はじめからそこに在り、きっとこれか…
NaOMi - ナオミ(坂本忠恆) - カクヨム (kakuyomu.jp) 『ナオミ(NaOMi)』 D博士はX社の共同創業者のひとりであり、人工知能革命の最中を時めいた同社の人造人…
preludio ハニワというあだ名は、私が考えたものではないけれど、気に入っている。本人がどう感じているかは知らないが、大変に似合っていると思う。いや、似合っている…
誰かになりたいと望むことは、恐らくはその他人に対するもののなかで、最大の親愛の証の一つであろう。惟子も今しがた、芳香との同化の果てに母親の時代へ回帰したいとい…
最上部に天文台の丸い天井を戴いた旧校舎の内部階段は踊り場から心持張り出した窓下に、新校舎の陰になった嘗ての花畠を見下ろすことができる。そこを登りながら二人は、…
「宇宙の終わりについて、科学の教える黙示録には、いくつかの異なるシナリオがあるの。でもね、終わり方なんて、わたしにはどうだって良いことよ。そうに違いなくて?」 …
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序 少女は降車すると、視界を圧するほどの日盛りの下に、海原が果てしなく押し広げられているのを見た。 彼女は、濡れた髪の似合いそうな少女だった。 一 彼女が海…
2024年9月1日 10:56
経験の不足という避けられぬ原理故に、若者はみな無知だが、無知なりに潜考を深めていく中で、彼らは彼らの生涯の伴侶とするべき思想的類型を自ずから撰り取るようになる。ニヒリズムを、そのような類型のひとつと定めてしまっては、分類階層的な妥当性を欠くように思われるかもしれないが、事実として、ニヒリズムという思想とも言えぬ思想は、地図上に白塗りされた不帰属の地帯のように、我々の生活上の未解決なままに放棄され
2024年8月28日 13:59
感情的確信を持たない論理は、不感症の肉塊のようなものだ。 ニヒリズムは我々に何も語らない。それは先祖の建てた墓石のように、はじめからそこに在り、きっとこれからも在り続ける寡黙な冷たい塊である。「きっとこれからも在り続ける......」、という、この確信には、何らの感情的要素も与らない。よしんばあっても、それは子孫長久とかいう熟字で言表されようが、ともあれ墓場とは別の場所に建つべき理想である。
2023年7月20日 22:24
NaOMi - ナオミ(坂本忠恆) - カクヨム (kakuyomu.jp)『ナオミ(NaOMi)』 D博士はX社の共同創業者のひとりであり、人工知能革命の最中を時めいた同社の人造人間(アンドロイド)開発に尽力した元研究者であったが、晩年は自らのしてきた仕事を腐するような言動をとり、ある者には背信者として、またある者には改悛者として、毀誉褒貶の著しい波乱の内に没した稀代の人物であった。 博
2023年1月30日 18:40
preludio ハニワというあだ名は、私が考えたものではないけれど、気に入っている。本人がどう感じているかは知らないが、大変に似合っていると思う。いや、似合っている、というより、彼女のどこか冷たい美しさに(女性的というよりかは男性的な美しさに)、このあだ名は温かみを与えてくれている。このいくらか間の抜けた音韻が、ある種のキャラ化の作用を及ぼして、彼女の印象を幾らか滑稽なものにしてくれている。
2022年12月25日 21:00
誰かになりたいと望むことは、恐らくはその他人に対するもののなかで、最大の親愛の証の一つであろう。惟子も今しがた、芳香との同化の果てに母親の時代へ回帰したいという嬰児退行の夢を見た。そしてまた恐らくは人は、斯様な自己を介した透視術によってでしか、他者を見ることも能わぬのであろう。然あれば、人は、凡ゆる愛と名の付く感情に於いて、自己愛を介してでしか、その愛の情を果たすことも叶わぬのであろう。初めから
2022年12月25日 20:58
最上部に天文台の丸い天井を戴いた旧校舎の内部階段は踊り場から心持張り出した窓下に、新校舎の陰になった嘗ての花畠を見下ろすことができる。そこを登りながら二人は、窓外に眺むべき何ものもないこの暗い濁った用無しの窓硝子に一切注意せぬようではあるけれど、内部から透過して見える蔦の節の痕だけが残った時間のしがらみのような穢れた模様に一瞥だけをくれて、本人らも意識せぬその心理の奥深くに、少しく不快を募らせる
2022年12月25日 20:57
「宇宙の終わりについて、科学の教える黙示録には、いくつかの異なるシナリオがあるの。でもね、終わり方なんて、わたしにはどうだって良いことよ。そうに違いなくて?」 死が怖いという芳香に、惟子はこんな話をして聞かせた。「惟子ちゃん。あなたは死ぬのが怖くないのかしら」「わたしには分からないわ。芳香さん。お話には必ず終わりがあるけれど、良い終わり方と、悪い終わり方とがあるでしょう? 人生も、宇宙も、同
2022年11月12日 21:59
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2022年11月12日 21:19
序 少女は降車すると、視界を圧するほどの日盛りの下に、海原が果てしなく押し広げられているのを見た。 彼女は、濡れた髪の似合いそうな少女だった。一 彼女が海沿いのこの町に来たのは、これが二度目だった。一度目は、ここへ訪れたという記憶さえ定かでないほどの以前だった。この町には、彼女の母親の侘しい実家があるのだ。 京の名家に嫁いだ母が去年死に、孫との関係のいよいよ絶たれてしまうのを恐れた祖父