Ryohei Tomizuka

Ryohei Tomizuka

記事一覧

「日本らしさ」と「アメリカの影」 :遠藤不比人編『日本表象の地政学 海洋・原爆・冷戦・ポップカルチャー』(彩流社、2014年)…

・最近パンクについて久々に考えていてこの本の存在を思い出したのだが、調べてみたら10年ほど前に授業の課題で書いた書評が出てきたので再掲。源中由記さんの文章をぜひま…

Ryohei  Tomizuka
4か月前
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「喪失なき成熟──坂口恭平・村田沙耶香・D.W. ウィニコット 」 序(初出:限界研[編]『東日本大震災後文学論』南雲堂、2017年…

しかし、空間は到る処にある。新しい世界は、到る処にあるのだ。たとえ、それをみいだすため に、コロンブスと同様の「脱出」の過程が必要であるにしても。 ― …

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[書評]レベッカ・L・ウォルコウィッツ『生まれつき翻訳 世界文学時代の現代小説』(佐藤元状・吉田恭子監訳、田尻芳樹・秦邦生訳…

 翻訳をテーマとする文学研究と聞けば、おそらく多くの人が、原文と複数の訳文を比較するような内容を想像するだろう。ところが、本書の射程はそれよりもはるかに広い。英…

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『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』書評(初出:図書新聞3494号、6面、2021年5月)

できたてのポップコーンを熱いうちに鷲掴みにして食べたい。2016年の学会シンポジウムをきっかけとしたWEB連載の書籍化である本書は、まずはこの欲求から生まれた一冊で…

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謎のリアリティ第42回「ミステリと陰謀論」(トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』(新潮社)、ジェシー・ウォーカー『…

対象作品 『ブリーディング・エッジ』 トマス・ピンチョン(新潮社) 『パラノイア合衆国――陰謀論で読み解く《アメリカ史》』 ジェシー・ウォーカー(河出書房新社) …

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2020年新作・旧作ベスト

2020新作 1 れいこいるか 2 ブルータル・ジャスティス 3  逃げる女 4 空に聞く 5 レイニーデイ・イン・ニューヨーク 6 ストーリー・オブ・マイ・ライフ 7 …

2019年新作映画・演芸ベスト

なぜかこのタイミングで2019年ベスト(忘れてたので)。 まずは映画。一監督一作品。 1 M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』 2 城定秀夫『犯す女』 3 ギ…

スパイク・リーとBlack Lives Matterについてのメモ

アメリカ各地でもほぼ日付をまたいでしまったタイミングではありますが、Juneteenthを記念して、下記のツイートでも言及いただいた「「正しい映像」を超えて——スパイク・…

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2019年旧作映画ベスト

(1監督1本、初見) 1. 男の傷(アイヴァン・パッサー) 2. ウィリーが凱旋するとき(ジョン・フォード) 3. 宵待草(神代辰巳) 4. 外国人よ、出て行け!(クリスト…

村田沙耶香『生命式』書評 「闘争の不在と不在の闘争」(初出:『新潮』2019年12月号)

彼女たちは闘っていない。本書を構成する村田沙耶香自身が選んだ一二篇の短篇の主人公たちは、どうやら「正常」や「常識」といった規範に対して、これまでのように正面…

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ケン・ローチ『家族を想うとき』作品評 「家族が隣人を想うとき」(初出:『キネマ旬報』1828号、109-111頁。

 はたして、「家族を想うとき」は本当に家族についての映画なのだろうか。もちろん、ケン・ローチ自身も語っている通り、本作において家族のテーマが重要であることは間違…

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山梨の地を再び踏みしめること ——『典座—TENZO—』と空族の一五年(初出:『キネマ旬報 2019年10月下旬号(1822) )

 『典座—TENZO—』は「選ぶ」ことをめぐる映画である。人は誰もが、自らがどのような土地、家庭に生まれるかを選ぶことはできない。しかし、やがては自らを取り巻く環境…

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ミステリと生きている機械(『ジャーロ』No.67、2019 SPRING、「謎のリアリティ」第31回)

(本稿は、『探偵AIのリアル・ディープラーニング』(新潮社)、『メーラーデーモンの戦慄』(講談社)のネタバレを含んでいます。) 疎外論を越えて  人工知能は人間を…

2008年樫村晴香トークショーのメモ

適当にメモを再構成。厳密なものではないので間違っている部分もあるかも。責任はとれません。 保坂本より三つの風景について ①p18 フアン・ルルフォ コスタリカ 最…

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書評:濱口竜介・野原位・高橋知由 『カメラの前で演じること——映画「ハッピーアワー」テキスト集成』左右社、二〇一五年。[…

 本書は、全国で順次公開され大いに話題を呼んでいる映画『ハッピーアワー』の制作にまつわるテキストを集成した一冊であり、映画同様に三部構成から成る。五時間超の大作…

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書評:ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』都甲幸治訳、水声社、二〇一九年(原書:二〇一〇年)。[初出:図書新聞 (3400) 201…

 本作『ポイント・オメガ』(二〇一〇年)は、ある肌寒く、ほぼ完全に真っ暗な美術館の展示室から幕を開ける。そこでは匿名の男が、半透明のスクリーンに映し出された映像…

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「日本らしさ」と「アメリカの影」 :遠藤不比人編『日本表象の地政学 海洋・原爆・冷戦・ポップカルチャー』(彩流社、2014年)書評

・最近パンクについて久々に考えていてこの本の存在を思い出したのだが、調べてみたら10年ほど前に授業の課題で書いた書評が出てきたので再掲。源中由記さんの文章をぜひまた読みたいのだが最近は何をされているのだろうか・・・。

 全部で四部・八章からなる本書、遠藤不比人編『日本表象の地政学 海洋・原爆・冷戦・ポップカルチャー』(彩流社、2014年)の構成と各論文の意義については、編著者遠藤による序文におい

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「喪失なき成熟──坂口恭平・村田沙耶香・D.W. ウィニコット 」 序(初出:限界研[編]『東日本大震災後文学論』南雲堂、2017年、pp. 141-48)

しかし、空間は到る処にある。新しい世界は、到る処にあるのだ。たとえ、それをみいだすため に、コロンブスと同様の「脱出」の過程が必要であるにしても。
― 花田清輝『復興期の精神』

 正直なところ、はじめにこの論集のテーマである「震災後文学」が提案されたとき、わたしはそれ に違和感と反発を覚えた(そして、いまだにその違和感は消えてはいない)。事実、二〇一一年の東 日本大震災以降、そ

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[書評]レベッカ・L・ウォルコウィッツ『生まれつき翻訳 世界文学時代の現代小説』(佐藤元状・吉田恭子監訳、田尻芳樹・秦邦生訳、松籟社、2021年)(初出:「図書新聞」 3548号4面)

 翻訳をテーマとする文学研究と聞けば、おそらく多くの人が、原文と複数の訳文を比較するような内容を想像するだろう。ところが、本書の射程はそれよりもはるかに広い。英国モダニズム文学の研究者としてキャリアをスタートさせた著者レベッカ・L・ウォルコウィッツの手になる本書は、「生まれつき翻訳」という概念をもとに、狭義の英文学どころか、紙に書かれた文学作品の枠すらも超えながら、多様な作品群を類例のない方法で分

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『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』書評(初出:図書新聞3494号、6面、2021年5月)

できたてのポップコーンを熱いうちに鷲掴みにして食べたい。2016年の学会シンポジウムをきっかけとしたWEB連載の書籍化である本書は、まずはこの欲求から生まれた一冊である。SNSの浸透を経て、近年ある作品がバズり、あるいは炎上し、そして忘れ去られるまでの時間は劇的に加速した。たとえば、あなたは五年前に流行した音楽や配信ドラマをすぐに思い出すことができるだろうか。即時性が重視されるこうした文化の

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謎のリアリティ第42回「ミステリと陰謀論」(トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』(新潮社)、ジェシー・ウォーカー『パラノイア合衆国——陰謀論で読み解く《アメリカ史》』(河出書房新社)(初出:「ジャーロ」78号)

対象作品

『ブリーディング・エッジ』
トマス・ピンチョン(新潮社)

『パラノイア合衆国――陰謀論で読み解く《アメリカ史》』
ジェシー・ウォーカー(河出書房新社)

 人前に滅多に姿を現さない覆面作家として知られるアメリカ文学の巨匠トマス・ピンチョンには、なぜか母語である英語では未発表で、日本語訳のみが流通している怪文書が存在する。表紙を飾るピンチョン作品に現れそうな金髪美女の姿が眩しい『PLA

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2020年新作・旧作ベスト

2020新作

1 れいこいるか

2 ブルータル・ジャスティス

3  逃げる女

4 空に聞く

5 レイニーデイ・イン・ニューヨーク

6 ストーリー・オブ・マイ・ライフ

7 フォードVSフェラーリ

8 オン・ザ・ロック

9 幸せへのまわり道

10 ライト・オブ・マイ・ライフ

11 リチャード・ジュエル

12 ロング・ショット

13 ザ・ファイブ・ブラッズ

14 ジオ

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2019年新作映画・演芸ベスト

なぜかこのタイミングで2019年ベスト(忘れてたので)。

まずは映画。一監督一作品。

1 M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』

2 城定秀夫『犯す女』

3 ギョーム・ブラック『7月の物語』

4 ポン・ジュノ『パラサイト』

5 三宅唱『ワイルドツアー』

6 ジョッシュ・クーリー『トイ・ストーリー4』

7 『スパイダーマン:スパイダーバース』

8 ダミアン・チャゼル『ファースト

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スパイク・リーとBlack Lives Matterについてのメモ

アメリカ各地でもほぼ日付をまたいでしまったタイミングではありますが、Juneteenthを記念して、下記のツイートでも言及いただいた「「正しい映像」を超えて——スパイク・リー作品における警察と人種」(初出:「ユリイカ」2019年5月号)の内容を公開します。

こちらの拙稿では、黒人に背後から襲いかかる白人警官とスパイク・リー作品における同胞を捉えた正面ショットの関係について論じました。

執筆時に

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2019年旧作映画ベスト

(1監督1本、初見)

1. 男の傷(アイヴァン・パッサー)

2. ウィリーが凱旋するとき(ジョン・フォード)

3. 宵待草(神代辰巳)

4. 外国人よ、出て行け!(クリストフ・シュリンゲンジーフ)

5. フラワーズ・オブ・シャンハイ(ホウ・シャオシェン)

6. トカレフ(阪本順治)

7. わるい仲間(ジャン・ユスターシュ)

8. サムシング・ワイルド(ジョナサン・デミ)

9.

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村田沙耶香『生命式』書評 「闘争の不在と不在の闘争」(初出:『新潮』2019年12月号)

彼女たちは闘っていない。本書を構成する村田沙耶香自身が選んだ一二篇の短篇の主人公たちは、どうやら「正常」や「常識」といった規範に対して、これまでのように正面から闘いを挑んではいないようなのだ。過去の村田作品を知る読者にとってはやや意外なものと感じられるかもしれないこの表面上の「闘争の不在」には、おそらくいくつかの要因がある。

 最初に指摘すべきなのは、物語の長さの問題だろう。常に作品を「結

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ケン・ローチ『家族を想うとき』作品評 「家族が隣人を想うとき」(初出:『キネマ旬報』1828号、109-111頁。

 はたして、「家族を想うとき」は本当に家族についての映画なのだろうか。もちろん、ケン・ローチ自身も語っている通り、本作において家族のテーマが重要であることは間違いない。しかし、この映画で家族の関係性が物語の中心を成していることは、むしろそのことで代わって失われたもの、すなわちコミュニティの不在を、より強く観客に印象付けるのではないか。

 本作は、銀行の破綻を機に建設業の職を失い、給料の安い職を転

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山梨の地を再び踏みしめること ——『典座—TENZO—』と空族の一五年(初出:『キネマ旬報 2019年10月下旬号(1822) )

 『典座—TENZO—』は「選ぶ」ことをめぐる映画である。人は誰もが、自らがどのような土地、家庭に生まれるかを選ぶことはできない。しかし、やがては自らを取り巻く環境とどのように折り合いをつけて生きていくかを選択せざるをえない。本作の主人公である二人の若き僧侶、河口智賢と倉島隆行もまた、山梨と福島という土地で、この困難にそれぞれの方法で立ち向かっていく。

 たとえば、青山俊董老師との対話において智

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ミステリと生きている機械(『ジャーロ』No.67、2019 SPRING、「謎のリアリティ」第31回)

(本稿は、『探偵AIのリアル・ディープラーニング』(新潮社)、『メーラーデーモンの戦慄』(講談社)のネタバレを含んでいます。)

疎外論を越えて

 人工知能は人間を超えるか?二〇一五年にはベストセラーのタイトルにもなったこの問いこそ、目下継続中の第三次AI(人工知能)ブームにおけるひとつの典型的な発想を象徴的に表すものだろう。たとえば久保明教は、『機械カニバリズム—人間なきあとの人類学へ』(講談

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2008年樫村晴香トークショーのメモ

適当にメモを再構成。厳密なものではないので間違っている部分もあるかも。責任はとれません。

保坂本より三つの風景について

①p18 フアン・ルルフォ コスタリカ

最も光の色が美しい
色の表現、使いかた
cf.ディキンソン
何かの表現としての色なのか、単なる言葉としての色なのか
「世界が落ちていた」と書かれるとき、その「世界」には、実体があるのかないのか

「色」の重要性 プラトン、カント、紫式

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書評:濱口竜介・野原位・高橋知由 『カメラの前で演じること——映画「ハッピーアワー」テキスト集成』左右社、二〇一五年。[初出:図書新聞 (3248) 2016年3月26日号、2面]

 本書は、全国で順次公開され大いに話題を呼んでいる映画『ハッピーアワー』の制作にまつわるテキストを集成した一冊であり、映画同様に三部構成から成る。五時間超の大作は、いかなる経緯と方法論で制作されたのか。短い序文に続く第一部「『ハッピーアワー』の方法」で濱口竜介は、撮影に先立って開催された「即興演技ワークショップ in Kobe」(以下WS)や過去作に遡って、その多様な「準備」の過程を自ら解き明かし

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書評:ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』都甲幸治訳、水声社、二〇一九年(原書:二〇一〇年)。[初出:図書新聞 (3400) 2019年5月25日号、6面]

 本作『ポイント・オメガ』(二〇一〇年)は、ある肌寒く、ほぼ完全に真っ暗な美術館の展示室から幕を開ける。そこでは匿名の男が、半透明のスクリーンに映し出された映像作品を見続けている。彼が毎日展示室に通い、立ったまま集中して見ているのは、アルフレッド・ヒッチコック監督による映画『サイコ』(一九六〇年)と全く同じ映像を、音声を取り除いて二十四時間かけてスロー再生した、ダグラス・ゴードンによるアート作品『

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