2019年新作映画・演芸ベスト

なぜかこのタイミングで2019年ベスト(忘れてたので)。

まずは映画。一監督一作品。

1 M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』

2 城定秀夫『犯す女』

3 ギョーム・ブラック『7月の物語』

4 ポン・ジュノ『パラサイト』

5 三宅唱『ワイルドツアー』

6 ジョッシュ・クーリー『トイ・ストーリー4』

7 『スパイダーマン:スパイダーバース』

8 ダミアン・チャゼル『ファースト・マン』

9 佐藤零郎『月夜釜合戦』

10 山戸結希「離ればなれの花々へ」

11 ロバート・ゼメキス『マーヴェン』

12 小路谷秀樹『虚空門GATE』

13  クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

14 佐々木友輔『コールヒストリー』

15 まんきゅう『映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』


1はたった一人のシャマラニックユニヴァースの完結編を本家MCU総決算の『エンドゲーム』と同年、かつ同作よりも早くぶつけたマーベル批評としても完璧な一本。自宅を抵当に入れても実質的に自主制作なので、自称ヒーローたちはもちろんオオサカタワーには辿り着けない。誇大妄想狂を精神病院の駐車場で皆殺しにすることで、陰謀論やフェイクニュースが跋扈する現在の状況にも金をかけずに冷水を浴びせる。ずっと同じことをやっているようで、次世代へのバトンを意識させる締め方はおそらくは次作以降にもつながる新境地。

2は常にウェルメイドな傑作を量産する氏の作品の中でも屈指の面白さ。冒頭の不穏な雰囲気にハッとさせられて以降、複数のジャンル映画を組み合わせたかのような怒涛の展開を経て、最後に待つ祝祭的なラストに泣いた。肥満というPC的にはきわどさを増しているテーマをあくまで差別抜きではない方向から肯定的に描いた『恋の豚』も大傑作。

3は近年明らかにかつてよりは元気がなくなっているように思えるフランス勢の中では頭一つ抜けているような。ロメール直系というよりはホン・サンスを経て彼の影響を再度逆輸入で消化したようなスタイルに加え、素人の使い方にも好感。

4は失敗と言われても仕方ない面のあったハリウッドでの活動を経たことで、大衆性と作家性をめぐる理想のバランスを見出したか。さすがにアカデミーまで取ったのには度肝を抜かれたが。

5はワークショップものかつ素人子役中心ということで滑りそうな要素満載にもかかわらず、少年二人のイイ顔だけで何杯でもご飯が食べられる充実ぶり。特に三枚目寄りの子は最高。前年の『君の鳥〜』に続く快作。

6はシリーズ最高傑作3の続編という時点で負け戦確定という中では最大限頑張っていたように思う。同時代アップデートのお手本のような展開には不満もあろうが、ラストには喝采を送りたい。

7は確かIMAX3Dで観たような記憶が。映像面の挑戦が主題と完全に連関している点、教科書的な多様性云々というレベルを超えて異質なものが画面に共存する異様さに脱帽。『ズートピア』とかは大嫌いだがここまでやってくれれば全然アリ、という感じ。

8は『ララランド』が嫌いすぎたので全く期待していなかったが、実話ものとは信じがたい虚無そのものの展開に不覚にもぐっときてしまった。夢の成就みたいなイメージに対する明らかに過剰な敵意が、今回はツボにはまった感。今作まで含めて振り返るとアカデミー作品賞ドッキリの一件は、むしろチャゼル的にはめちゃくちゃ興奮していたのではと疑いたくもなってくる。とりあえずは次作も観る。9は今の釜ヶ崎の住人たちを含むイイ顔たちを16mmでどうしても撮りたいという執念が見事に結実した、令和直前に封切られた昭和の映画。10は山戸作品の中でも最もいわゆるふつうの映画のフォーマットから自由に撮られているように感じた短編。漫画原作ものよりはこの方向性で長編が観たい。

もはや巨匠の二人が撮った最新作11と13はいずれも過去最高傑作とは言わないまでも充実。さらっと『グラン・トリノ』の先を観せてくれた『運び屋』も素晴らしかった。年末観た12はこれまた昭和感に当てられた。こよりで自在にUFOを出現させる庄司に衝撃を受けつつ、謎の失踪を経て最終的にオカルトから人間関係の方へと重心がシフトしていく脱線ぶりもかえって良かった。14は当事者でも部外者でもない人間が「声」を聴き取る可能性を「信じる」ことについての映画で、1や彼から存在を教わったブリット・マーリングの打ち切られた傑作シリーズ『The OA』などとも通じるものが。同じく佐々木さんが激推ししていたので観た15は、これまた1や『レゴ・ムービー』なども想起させる「信」をめぐる箱庭ものになっており、家族連れに囲まれつつ泣いた。


演芸ベスト。

1 ミルクボーイ「コーンフレーク」@M1決勝

2 ぺこぱ「タクシー」@M1決勝

3 千鳥「ラーメン屋」@The MANZAI

4 街裏ぴんく「図工」@七三ファットマン

5 金属バット「早口言葉」


友人たちと見に行ったM1準決勝パブリックビューイングでも圧倒的に受けていた1と2だが、まさか決勝の決勝まですんなりいくとはさすがに思っていなかった。今振り返ると決勝の順番が完璧だったことも大きかったか。1が史上最高点だったのはM1もまだまだ捨てたもんではないと嬉しくなってしまった。リズムとテンポを突き詰めた老若男女に受けるネタ、という点で漫才というフォーマットの一つの究極系か。2は2019年の感覚ともっともシンクロしたネタだったことは間違いないだろう。特に準決勝で最初に「キャラ芸人になるしかなかった」を聞いた時の衝撃が忘れがたい。3は賞レース向けに仕上げたタイプのネタとは全く異なる、長尺だからこそ楽しめるタイプのネタではもっとも凄みを感じた。これだけ売れたからこそ、「開いとる店は開いとるけど、閉まっとる店は閉まっとる」のワンフレーズだけで引っ張ることができる。その他、The Manzaiではオードリーの長尺ネタも同じくM1用のネタでは出せない魅力に溢れていた。4はかなり通った街裏ぴんく単独ライブで一番はまったもの。メタ的に自伝的要素や自分の芸論を反映させるネタの中でも図抜けて完成度が高かった。R1向けで作っていたショートネタでは「きかんしゃトーマス」が一番好きだった。

その他、「Kitta Kirareta」などの傑作ネタを含めて、街裏氏の場合、客を異常な世界観に完全に引き込むためにはどうしても賞レース尺では足りないということがよくわかった一年でもあった。

5も寄席での長尺ネタ。差別絡みで炎上して話題になったが、擁護側も批判側もことごとく的を外していたように思う。後ろめたさを一切感じずに笑いたい、という人間がたくさんいることはよくわかったが、差別と完全に切り離されたお笑いしか残らない場所はディストピアだろう。

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