マガジンのカバー画像

drawing

79
描いたイラストや漫画を。 ノンフィクションだったりフィクションだったり…。
運営しているクリエイター

#超短編小説

白梅

白梅

「しらうめ?何それ」

「しらうめさ、ま、じゃ。白梅様。この町を守る御神木じゃ」

煙を吐きながらじいちゃんは言った。

「昔はわしも白梅様と話せたんじゃがのう…」

「今はしらうめとお話できないの?」

「まだ若かった隣のじいさんと、近所の悪ガキを川に流そうとしてサツに世話んなったり、そこらのばあさん騙して金せびろうとしたりしてたら、いつの間にか声すら聞こえんようになっとったな」

かっかっ、と

もっとみる
影

足元に伸びる影を見つめた。

彼女は赤い瞳でこちらを睨んでいた。

彼女もまた泣いていた。

額を触っても、ない。

けれども影には確かにあるのだ。

醜く生えた一本の角が。

Synchkrie

人喰い

人喰い



祭りばやしで騒がしかった外も、ようやく静寂を取り戻した。

夜が更ける頃、扉の向こうから数人の忍び声が聞こえた。

「幼な子の肉が好物と聞いていたが、こんな肉の少ねぇガキじゃあ鬼も喜ばんじゃろう」

「一人も捧げないよりはましじゃろう」

大きなものを投げ捨てるような音が響く。

「しかし、こんな汚ねぇガキを食うなんざ、とんだ悪食だなぁ」

「ヒトを食う時点ですでに悪食じゃろうて」

「おめぇ

もっとみる
手紙

手紙

泣き腫らして真っ赤になった目元、鏡に映った自分はまるでうさぎのようだった。
近くにあったティッシュを取り、鼻をかんだ時、玄関のチャイムが鳴り響いた。

「郵便でーす」

こんな泣き腫らした顔では外には到底出られやしない。
まあ、郵便を受け取るくらいならいいだろうと、顔を上げないようにして鍵をひねる。

「えっ」

扉を開けると、来訪者と目が合ってしまった。
下を向いたままではあり得ないことだった。

もっとみる