愛の大きさを測ることなんてできないのだから
彼と日帰りで岡山へ行ってきた。
旅の目玉になるはずだった大原美術館は定休日であることが数日前に発覚したけれど、1〜2週間前から企画していたし、大原美術館に入れずとも岡山には美観地区、瀬戸大橋、岡山城&後楽園、と素敵な場所が色々あると捉えて、"一緒にドライブすること" "一緒に遠出すること" を目的に出かけた。
カフェイン取りすぎ防止で2人で飲んだ
私にとって岡山は、備前に父方の祖母の実家（私から見たら曽祖父母の家）があって、コロナ前までは毎年GWとお盆に親戚に会いに足を運んでいただから身近で、思い入れのある土地。でも美観地区は行ったことがなかったし、岡山城&後楽園は10年ほど前（下手したらもっと前?）に行ったっきりだったから、大原美術館を機に行ってみたかった。
電車等を使うと高くつくし、時間もかかる。
だけど私は免許がないから運転できない。
そんな中で今回、彼が「いいよ」と言って運転して連れて行ってくれた。
これからしばらくの間、彼は院試勉強とTOEFL対策と研究で忙しくて、ご飯を食べにいくくらいしか会えなくなる。その間、私は私でパリ留学の準備とバイトと、授業と研究がある。５月の記念日祝いは1週間延期、６月の彼の誕生日祝いは短めに、私がパリに行く前は彼が院試で彼に会えぬまま日本を発たねばならないかもしれない。
だから忙しくなる前に、旅行か遠出をしたかったのだと彼は言った。
すごくすごく嬉しかった。
当日の空はずっと曇っていたし、先週が嘘のように寒かったけれど、心はずっと晴天で温かいものに包まれているようだった。
お昼ご飯は入る予定だったSAの入口がわからなくて、その次のただのPAで停まって車の中で、彼のスマホであめんぼぷらすのネタを流して、ポケモンカード（ポケカ）の開封式をしながら、私が作ってきたサンドウィッチを一緒に食べた。
ポケカは 「ミーハーやから試しに買ってみたいだけやねん」 と言っていたのに、カードの出が悪かったのを気にして「もう１回だけ！」と彼は見かけるたびにコンビニに寄っていた。（かわいいね）
予定していた喫茶店で、コーヒーを飲んでいたら「一緒にヨーロッパ行きたいねえ。」と彼が言って、そこから卒業旅行とか、新婚旅行とか、社会人なってから有給取ってとか、一緒にどこ行きたい？という話をした。ちなみに暫定、ヨーロッパはサクラダファミリアが完成したらで、新婚旅行はモルディブで、卒業旅行はアジア圏。
夜ご飯は入る予定だったSAの入り口と間違えて、変な出口で出て、見知らぬ土地の真っ暗なド田舎道をナビとGoogleマップだけを頼りに彷徨ったあと、高速道路に復帰して最初のSAでクタクタになりながら、私はきつねうどんを、彼はハンバーグ定食を食べた。
「（道間違えて、帰る時間遅くなって）ごめんね」と言う彼に、「んーん、私もみてなくてごめんね。」と返すと、「俺が悪いの」と言うから「いいのー！いっぱい一緒に居られるから嬉しいのー！」と言うと「えー、俺は（運転長くなるから）疲れるんやけど笑」と彼が言うから「ごめんねええ」と返した。朝5:00起きで、コンビニバイト終わりでデートしてるから一瞬でも油断すると眠ってしまいそうだったけれど、彼が頑張ってくれているから寝たくなくて、スマホで流している歌をいっぱい歌った。
地元に着いて、高速道路を降りた最初の信号で赤信号の間に、顔を覗き込んでおねだりしてキスをもらった。
「前もここでキスしたのよ」とニコニコで言った私に、「えーそれなんか嫌やー、"このキス知ってる！"みたいやん」と彼が言うから、「えーいいでしょー？」と、また口を塞いだ。
「早く会いたいのー」と言う私に「会いたいねえ」と彼は言った。
帰り際は寂しくてしょんぼりしたくなるけれど、あまりにお互い疲れていたから、代わりに車の中でギューってしてチュッてして「おやすみ！ゆっくり寝てね！」とバイバイした。
＊＊＊
「4年も付き合ってて喧嘩なんてするんですか？なにで喧嘩するんですか？」
と先日聞かれたとき、相手は悪意なく純粋に聞いているのはわかっていても、少し傷ついた。喧嘩は不安定の証拠、長年付き合っていて安定せずに喧嘩しているようなのは ”なんか違う”、”間違ってる気がする” と思われているように感じて、それは思い込みだとわかっているけれど、少し凹んだ。
その件に限らず、「”愛”ってこうだと思う！」と、自分が求めずとも望んでいる言動が手に入ることや、見返りなく相手に尽くせることを意味する言葉を見たり聞いたりすると、自分たちの関係でそこから逸れているものを見つけてしまうと、”まちがってるのかな” ”ちゃんと彼を愛せてるかな” ”ちゃんと彼に愛されてるかな”と不安になったりしてしまう。
私は、"ゆるせる" ということも愛だと思っている。
それは「はぁ（ため息）。もういいよ。」という感じのエネルギーが必要な妥協とか我慢じゃなくて、”ゆるせない（から別れる）”と”一緒にいたい（から譲歩する）”を天秤にかけたときに、後者に傾くようなもの。”自分が犠牲になっている”と被害者意識を持つようなものではなくて、”それさえ緩和できれば一緒にいられるのね”と前向きな気持ちになれるようなもの。相手に黙って勝手に拗ねて伝えないで終わるような”ゆるす”ではなくて、相手をもっと気持ちよく愛すために何か思うことがあれば伝えて、改善されたならそれまでのことは忘れる、というようなもの。
喧嘩しても、自分と愛情表現の方法や考え方が違っても、嫌なことがあっても ”（それでも）一緒にいたい” が勝っているのなら、紛れもなく愛だと私は思う。
「周りから見たら絶対別れた方がいい彼氏だったのに、その子は彼氏のことが好きでずっと泣いてて。」
と、後輩が話してくれた後輩の友人の話は、詳細は忘れたけれど状況を聞いていてもたしかに別れて正解だ、と思うような内容だった。
だけどもし仮に後輩の友人が目の前にいたとして、私が「別れた方がいいよ」と言えるかといえばNO、だなぁ（浮気とか不倫とかDVとかは別としてね）だし、「別れた方がいいのに」と言われても別れない人を見ると「そりゃそうだよなぁ。好きなんだから。」と思う。
今自分が幸せだと思っている人は、得意げに「”好き”とはなにか」「”愛”とはなにか」「それらはどういうものなのか」を語るし、自分の定義的に”好き”や”愛”に値しないものを「それはちがう」と饒舌に否定するけれど、
私たちは法律でもなければ、辞書でもない。
今、私もこういうふうに”好き”という感情や”愛”について語っているけれど「あなたのそれは”愛”なんかじゃありません」「”好き”なんかじゃありません。」「”執着”です。」「”依存”です。」なんて言われたら、彼を想う心は変わらずとも、ショックで戸惑うだろう。
ある言動に対して「彼から愛されてるな」と思っていても、彼に訊ねて「それくらい誰にでもするよ」と言われたら、ある人に訊ねて「そんなの当たり前でしょ」と言われたら、私はきっとすぐに心折れて自信を失ってしまうだろう。
それくらい、彼を想う心に余裕なんてないし、私の”愛”が本物であるという自信もない。
バイト終わりで彼に会える日は「今からのバイト頑張れば彼に会える」と、「あと15分」「あと5分」とカウントダウンして、どんなに朝早くても、時間が長くても、乗り越えられる。
一分一秒でも早く会いたいから、時間に余裕がなくても早く会える方の電車に乗る想定で待ち合わせの時間を指定する。
そんなの恋愛初期だけの感情で、付き合いの長いカップルは、夫婦は、家族っぽく「いつでも会えるんだから」と、落ち着いていないとおかしい？
「好き」と言ってくれないのは、嫉妬してくれないのは、愛されてないから？
キスをおねだりする人と、おねだりされて応じてさらに加える人とでは、
さようならのタイミングで寂しがる人と、あっさりと最後まで笑顔で手を振りたい人とでは、
彼が欲しがっていたポケカと彼が好きなMt.RAINIERのカフェラテを買って、手作りのサンドウィッチを持っていく私と、長時間運転して行きのSAできびだんごを買うのを見送った私がお土産をいつどこで買うかを私が望まずとも考え続けてくれる彼とでは、
どちらの方が相手を愛しているように見えるのだろう。
そのどれもが形が違うだけで愛であることに変わりはなくて、間違いなんかじゃないんだから、「別れたら？」とか「それは愛じゃないよ」とか「もう”好き”じゃないじゃん」とか、簡単に言わないでよね。
”好き” も ”愛” も、”付き合う” も ”別れる” も、決めるのは社会じゃなくて、当事者２人なんだよ。
＊＊＊
「良からぬ輩(女)が彼に惚れちゃうかもしれない…」と私が心配すると「そんな簡単に俺が離れていくと思うの？」と彼は笑った。
「4年付き合ってるって話したら、羨ましがられたのよ。違う大学、寂しくないですか？って聞かれたから、週1で会ってるからねーって言っといた」と言うと、彼は「なに強がってんの？」と言いながら私の頭を撫でた。
美観地区でコートと、カバンと、カメラのケースを急いで肩にかけて何が何だかわからなくなって「絡まったぁ」と彼に言うと「もー、しゃーないなー持ったるわ」と言って荷物を全部肩代わりしてくれた。そのぶん、私は自分の腕を彼の腕に絡めることができた。
気がつくと、共有カレンダーの4月24日の予定は、ピンクで終日「岡山？」だったのが、「岡山！」に変わっていた。
私はそれら全部、君からの愛だと信じているよ。
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