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「日本左利き協会」掲載中の物語

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【日本左利き協会】さんにて連載させていただいている ショートストーリーです
運営しているクリエイター

#文学

十月を充月にするって言ってね。

十月を充月にするって言ってね。

十月らしさ、秋のはじめらしさとは何だろう。
空の高さと、湿度の低い涼しい風と、
夏の間は身を潜めていた花たちの香りのこと。
金木犀が咲き始めた街を、
長袖のブラウスで歩くこと。

だとしたら
熱い陽射しを避けて日傘を差し、
半袖のシャツで出歩く今は、
いったい何という季節と
名づければいいのだろう。
きっともうすぐ。
もう少しで秋は来るはずと何度も思い
待ち焦がれていたのに、
秋の使者の姿は
街な

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季節の声に耳を傾ける。

季節の声に耳を傾ける。

三月には三月の音がある。
三月には三月の空気の匂いがあるように。
渡る風や鳥の声。
草木が芽吹く時の、かすかな破裂音。
猫のハミング。
これからくる季節は、恩寵に満ちている。

花の咲く瞬間に立ち会いたい。
寒さに耐えて握っていた手を開く季節。
解放された心も光を求めていて、
自分もたしかに自然の一部なのだと
感じることができるのだ。




お知らせです。
日本左利き協会さんのホームページで

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月夜の森の物語【後編】

月夜の森の物語【後編】

月替わりのカレンダーが残り2枚になりました。
いつのまに?
こちらの都合も聞かずに
勝手にどんどん流れてゆく時間に、
ちょっと待ってよと声をかけたくなりました。

11月。
私が住んでいる街では、
空気が乾いて空がぽっかりと青くなる季節です。
風は冷たくても陽当たりさえ良ければ、
そこは穏やかなサンクチュアリになります。
たいていは地理に詳しい野良猫が
先に微睡んでいて、
特等席を取られちゃったな

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月夜の森の物語。

月夜の森の物語。

満月を見上げると、心の窓がそっと開く。
それは昼間とは違う心の使い方だ。
窓を開いて
月の光が心の深いところまで射し込んでくると、
なぜだかすべてが解き放たれてゆく気がする。
ベランダの手すりにもたれて、
あるいは帰宅の道の途中で足を止めて、
わあ、月だ!と眺める時。
みんな一瞬、無に還るでしょう。
それから少しずつ思いが胸によぎっていく。
満月に願いをかけて祈ったり、
この月をあの人も見ているだ

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お知らせをもう一度。〜慌て者の粗忽者〜

お知らせをもう一度。〜慌て者の粗忽者〜

日本左利き協会さんのホームページにて
掲載させていただいている
ショートストーリー第3話
【Man in the mirror】の後編が
公開されました。

暑い夜を少しだけ涼しくするお話です。
ショートストーリーですので
すぐに読み切れます。
よろしかったら
読んでいただけると嬉しいです。



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9月最初に書いたお知らせを
誤って消してしまいました。泣
なので再度あらためて載せ

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冷たさを知る。真夏の下で。

冷たさを知る。真夏の下で。

久しぶりの雨音に耳を傾けているうちに、
寝入ってしまったらしかった。
夜の窓の隙間から雨の匂いがした。
何日も何日も
ひとしずくの雨さえ降らなくて、
地面は干涸び
植物たちは渇きに喘いでいた。
ああ、やっと潤うんだね。
樹木は
何でも覚えてしまう伸び盛りの子どものように、
どんどん雨水を吸いこんでゆくのだろう。
やがて外が明るくなってきたけれど、
いつものような強い光は入ってこない。
起き出してカ

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6月の声を聴く。

6月の声を聴く。

傘に当たる雨の音が好きです。
ユウウツになりがちな梅雨のシーズンでは
あるけれど、
楽しみを見つけながら歩けば
なんとかしのげそうな気がします。

雨に対して前向きになる方法のひとつとして、
傘を新調することをおすすめします。
その時は
できるだけ自分の好みにしっくりくる傘を
選んでほしいです。
その傘をさしたくて、
雨が待ち遠しくなるかもしれないから。



おしらせです。

日本左利き協会さ

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ほんの少しを積み重ねて、ほんの少しずつ快適に。

ほんの少しを積み重ねて、ほんの少しずつ快適に。

ほんの少し。というものは、
知らないうちに積み重なってゆくものだ。
忙しさにかまけて気づかぬふりをしているうちに
部屋の隅に埃が溜まってしまったり、
棚の上に何気なく置いた本が
いつのまにか増殖していたり。
些細なことだからと
誤魔化しつつやってきたつもりでも、
物事の結果は正直なもので、
ふと見やると大きな埃の塊や
難攻不落の積読の山が
そびえていることになる。



以前、私は左利きだという

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