「殺戮マシーン」

曇天の下、血の匂いが漂う戦場をただ、一人で歩いていた。敵も味方も皆、足元に転がっている。生き残ったのは僕だけだ。最初は恐怖だけが頭を支配した。暴力的な光景に満ち溢れていたからだ。その次には疑問だ。なんでこのような残酷な事が出来るのかだ。

 そして、最後は何も考えなくなった。何も無くなった。気がつけば僕も殺戮マシーンも仲間入りを果たしていた。きっとこの無の状態もいつまでも続くわけではない。戦争という呪いに耐えるためにその場しのぎの方法にすぎない。これが終われば罪悪感の波に飲まれる事だろう。

 そういう人間をここで何人も見てきた。しばらく歩いていると曇り空の切れ間から光が差し込んできた。そして、その光がスポットライトのようにある一点を指していた。小さな花が咲いていた。触れれば散ってしまいそうなほど小さくか弱い命。

 途端に涙が出てきた。ここで来るのか罪悪感の波よ。来ないで欲しかった。感情に抑揚がない方が楽なんだ。でも僕の感情に反して、涙が流れ落ちた。

「もう誰の命も奪いたくない」
 誰もいなくなった戦場で僕は花に語りかけた。

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