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星の展示会に向けて         ~守護の熱 第十五話

 毎年、六月末に、恒例の長箕沢地区を上げての文化事業交流会が行われている。町おこし事業の一貫らしい。今年も、その準備の時期に入った。地域の高校も、事業所の一つとして扱われて、参加することになっている。商工業系の学校は、その特出する技能を披露したり、農業なら農作物の販売をしたりするので、必ず参加している。普通科の学校は、数校ずつ、回り持ちで、文化祭的な形でブースを出展する。場合によっては、私立の系列は、数校で一つのものを出す場合があったり、部活動が優秀であれば、そのような形での参加も見込まれる。今年は、長箕沢中央も、当番校らしく、その年は、同時に、それが文化祭扱いということになる。

「今年は、公立の当番校に当たるのが、うちと、隣の長箕女子高校です」

 担任の甘木先生が、その話をすると、クラス内が湧いた。解り易い感じだ。

「先生、三年生は、受験も迫ってますし、難しいと思いますが」
「まあ、解りますが、・・・今回は、以前に参加していない普通科の学年としては、三年生が担当となりました。この参加も授業の一貫です。内容次第では、できるだけ、授業時間を準備に使います。つまりは、授業ですから、単位に関わってきます」
「サッカー部が、全国大会に出るから、部活動代表ではダメですか?」
「前回の当番校が、部活動をテーマに、昨年やってしまいましたから、二年連続のテーマでは、ちょっとね・・・商業系は、地域産業についての研究発表に決まったそうですね。就職決定組が纏め役となるそうです」
「やっぱ、狡い。商業は、毎年、同じ感じでいいらしいから」

 坂城が、また、なんか、言っている。そして、また、周辺に揶揄からかわれるパターンになる。

「坂城、あんこブース作って、お前んとこの、あんこの菓子売れよ」
「なんでだよー、また、それ、商業と同じになるじゃんか」
「別にいいんじゃないですか?」
「そんなあ、甘木先生まで・・・」
「いや、いいんですよ。そういう模擬店みたいなのでもね。そんな感じになりそうなのも、感じていましたが、小豆は、この長箕沢の、隠れた名産品ですからね。テーマにしてもいいんですよ。模擬店の販売と、調べものの発表の要素を付け加えてね」

 一番後ろの席から、八倉が手を上げた。

「はい、先生」
「八倉君」
「空気が綺麗で、特に、星空の綺麗な長箕沢ですから、星の観察記録はどうですか?」
「ほお・・・」
「辻君が、ずっと、写真撮って、記録、残してます」
「あー、それ、いいじゃん、雅弥の、」
「あー、知ってる、中学の時も展示会やったんだよな、クラス代表で」
「そうですね、とてもいい案です・・・が、」

 甘木先生は、理科の専科だ。なんか、言ったな、八倉の奴。これでは、決まってしまう。

「ああ、本当に、いい案なんですけどね、それねえ、偶然ですが、もう、長箕女子に取られてしまったんですよ。被りましたね。僕としても、残念です・・・」
「え、そうなんですか?じゃあ、いいじゃないですか。一緒にやれば」
「いい、それがいい、長箕女子と合同でやればいい」
「・・・」

 提案した八倉が、黙りこくってるが。

「八倉君、よく言ってくれた。女子校と合同だぞ」
「それに、辻君は、沢山のいい写真、持ってます。星のことも詳しいし、代表に推薦します」
「どうですか?辻君?以前、データや、写真、良く撮れてるの、見せてもらいましたから、知っていますが、提供してもらえますか?」

 ついに、甘木先生まで・・・。

「でも、長箕女子と被るって・・・」
「その件でね、向こうの理科の先生にご相談を頂いていた所で、アイデアはいいんですよ。飾りつけや、プレゼンの方法は、企画が進んでいるんですが、実際の写真や、データがないそうでね」

「雅弥、出してあげようよ、困ってるんだってさ」
「この件は、後で話そうか、辻君。良かったら、合同もありかもしれませんね」

 クラス内が湧いた。なんか、異様に盛り上がっている。
 そして、嫌な予感がする。

「じゃあ、この話は、辻君の意向を聞いてから、長箕女子と合同にするか、決めましょう」
「他に案なんてないから、それがいいよ」

 皆、無責任だな。写真があれば、それを撮りに行く必要はない。時間を敢えて、使うこともないし・・・って、級長まで、俺のことを見ている。宛にしてるな。まあ、いいか。たまに、そんな風に展示する機会があってもいいかもしれないな。皆、受験で忙しいのは、同じだってこと、解ってる。

小津「なんかなあ、また、雅弥、いい感じになっちゃうんじゃない?」
八倉「・・・」

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 授業が終わり、甘木先生に呼ばれた。八倉もいる。呼ばれたのか?

「なんか、ごめんな。皆の異常な盛り上がりで、こんな感じになっちゃって。君の天体写真は、とても良く撮れてるし、積み上げているものもあるだろう?展示して、地域の方々に見て、知って頂くのは、とても良い機会だと思ってね」
「ああ、いえ、まあ、お役に立てるなら・・・」

 八倉が、俺と先生の間に割って、入ってきた。

「長箕女子は、代表は二年生だそうですね。なんて方でしたっけ?」
「荒木田さんって、聞いてるんだけど・・・ああ、あの、B組の荒木田君の妹さんだよね」

 八倉は、ニヤリと笑って、俺を一瞥した。

「先生、俺と辻は、A組の東都組ですし、ひとまず、定期模擬も合格圏内ですから。俺たち二人なら、代表、いいんじゃないですか?辻、俺も手伝うから、お前だけの負担にしないからさ」
「・・・」
「先生、辻が代表なら、俺が副代表になりますから」
「そうか、それなら、盤石だな。解った。じゃあ、向こうの先生にお伝えしても、いいかな?」
「はい、お願いします。な、いいよな、辻」
「あ、まぁ・・・はい」

 なんか、八倉に押し切られた感じがする。結局、下準備は、クラス全員でやるとして、当日は、代表という形で、何人かのグループでの参加となるようだ。

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「やったあ。さすが、八倉先生」
「そうですねえ、八倉先生の政治力と、辻先生の星の写真データがあれば、間違えありませんねえ」
「お二人が手を組んだとなると、向かうとこ、敵なしですねえ」

 梶間、小津、坂城の、おちゃらけ者の三人が、マイクを持ったフリで、俺と八倉に絡んできた。

「でさ、先生から、ゴーが出たら、放課後とかに集まって、打ち合わせな」

 八倉がそういうと、三人は嬉しそうに、頷いた。俺は、慌てて、これに牽制をかけた。

「だったら、皆、受験で忙しいから、要領よく、計画立ててやるしかないな」
「え、雅弥、何の計画?どこに行く?あの、海岸沿いの広いとこ、ファミリーレストランとかいうの、できたじゃん。ああいうとこ、好きだよな、女子って」

 こいつは、梶間淳かじまじゅん。小学校の頃から、よく遊んでいた奴だ。何かと情報通で、流行りものとか、色々なことを知っている。一見、チャラそうだが、案外、しっかりしている。

「ああ、なんか、東都で流行ってる、アイスのケーキ出すとこだろ?あれ、美味いんだぜ」

 したり顔で話す、こいつは、小津浩之おづひろゆき。親が薹部とうぶ銀行に勤めている。東都から、引っ越してきた奴で、今は、八倉の腰巾着感が否めない感じだ。

「はーい、俺、委員やるから、立候補、手伝う、手伝う」

 そして、よく出てくる、こいつが、坂城義彦さかきよしひこ。商店街の「あんこや坂城」の息子。商売人の家の子という感じで、人懐っこくて、いつも、周りから、弄られている。

「実紅ちゃんと、連絡とってよ、雅弥」
「なんで?俺が?」
「まだ、そんな芝居してるの?」
「だから、違うって」
「・・・スカしてんじゃねえよ」

 聞こえた。小さな声で言った、つもりだろうが。

 こいつが・・・八倉雄一郎はちくらゆういちろう。政治家八倉一族の本家の息子だ。叔父は、国会議員の八倉聡一郎だ。何代後かの、総理大臣と目されているらしいが。

 そんな八倉に関しては、小学校から一緒だが、何かと突っかかってくる感じはしていた。羽奈賀のことを悪く言っていた一人でもあったので、あまり、組みたくない相手だ。今回、甘木先生の手前、あんな風にしていたのも、実の所、腹は解らない。

「いいや。連絡は、俺が、荒木田経由でやるから」
「え?八倉先生、雅弥が、直接、実紅ちゃんで、いいんじゃないの?」
「ああ、それはさ、・・・なあ?辻だってさあ、公私混同は、可哀想じゃんか」

 よく言うな。もし、本当に、付き合っていたとしたら、余計なお世話の嫌がらせだ。まあ、実際は、違うから、それなら、その方が、都合がいい。

「わかった。連絡役、よろしく頼む。じゃあ、俺、用があるから」

「でも・・・」
「坂城、いいって」
「何?」
「・・・坂城、黙っとけ」

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 なんかなあ、八倉のとこの派閥のまま・・・なのか、この感じは。大人と子ども、家の繋がりがそのままだ。

 さっきのも、冗談だとしても、「八倉(薹部)と辻(地主)が手を組んだ」みたいな言い方をしていた。八倉の家が、立場が強いから、羽奈賀はいいように、言われて、虐められてた感じだったからな。聞いたら、最初、仲良くしてきたけど、羽奈賀が突っぱねたら、凄い、嫌がらせが始まったとも聞いた。
 そうだった。思い出した。だから、羽奈賀は、八倉が嫌いだったんだよな・・・。

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 結局、この件は、八倉がお膳建てをして、進めてくれた。俺は、写真とデータの提供だけで良かったんじゃないのか?次の日曜日、この件で集まることとなった。うちの学校からは、俺の星の写真と資料を出して、長箕女子が、当日の設えや、プレゼンの方法の提案をする、ということになったらしい。

 梶間が率先して、海岸沿いにできた、そのファミリーレストランとかいう店を予約したらしい。そこで、打ち合わせをすることになった。こちらは、例の三人が、委員として立候補したので、俺を入れて、五人になった。

八倉「向こうも、五人来るって」
小津「これ、合コンっていうやつみたいじゃん」
坂城「どんな子かな?可愛いといいな」
梶間「坂城の癖に、紺ブレとか着るんじゃないよ」
坂城「こんど、赤鬼谷せきやとか行きてえなあ、服、見に行きたい」
八倉「どこだって?お前、何、言ってんの?・・・クスクス」

 呑気なもんだ。本当は、今日もアルバイトがあったが、交流会の件も何故か、知れ渡っていて、監督も休んでいいと、二つ返事だった。

 それでも、星の写真をいくつか選んだ。場合によっては、大きく引き伸ばした方がいいかもしれないが、やったことがない。展示は、どこになるんだろうか?とか、色々と考えてみたが。

 その店に入ると、店内が広かった。この辺りにあるレストランの広さではなかった。

梶間「十人で座れる席があるんだよ」
坂城「ほんとだ、高くないの?」
八倉「気にすんな。今日は、俺の奢り」
小津「八倉先生~、っていうか、女の子の分も?」
八倉「当たり前じゃん・・・すいません。予約の八倉です」

 店員が、深々と頭を下げた。俺はピンと来た。この店、きっと、薹部開発の系列だな。

「こちらでございます」

 俺たちは、席に通された。

八倉「こっち側に座れ。ソファが女子席」
小津「なるほど、流石、八倉」
梶間「今日って、何、話すんだ?」
坂城「写真、持ってきたんでしょ、雅弥」
雅弥「ああ、これ、十枚ぐらいなんだけど」
梶間「へえ、すげえ、これってさ、確か、ずっと、カメラ開けとくっていうか」
雅弥「そう、すると、星の動きが、線になるんだ」
坂城「すげえ、これ、円になってる」
雅弥「北斗七星を中心にすると、こういう風に撮れる」
小津「あ、あれじゃね?女の子、何人も入ってきた」

 八倉が立ち上がり、迎えに出る。なんか、こういうの、得意そうだな。

坂城「ああ、来たっ、実紅ちゃんもいるし、来たぞ、雅弥」
梶間「うるせえ、静かにしろ、坂城」

 長箕女子の子も、五人の委員だろうメンバーが集まっていた。全員の視線が、一気にこっちに来た。その後、実紅に目配せをしている。こっちは、こっちで、落ち着かない感じになってるようだが・・・。

八倉「こっち側、ソファの方に座って」
露原「あ、はい。こんにちは、初めまして」

 代表っぽい、長箕女子の子が、八倉と話すと、それぞれが、軽く、会釈をした。

常盤「まず、座っちゃおう、実紅ちゃん、最初に入って」
実紅「あ、はい・・・」

 ああ、来た。一番奥に座っていた俺の対面に、当然のように、実紅が座ってきた。

 さっきまで、煩く喋っていた、こっちの奴らは、急におとなしくなった。 

八倉「仕切、俺がいいだろ?辻」
雅弥「あ、うん、頼む」

 喋りの上手い八倉。大臣の叔父さんに似てるのかもしれないな。

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 一頻り、名前と学年の自己紹介をし、そこで、それぞれが、飲み物を注文した。ここで、才覚を見せたのが、梶間だった。レストランでアルバイトしてるらしい。皆のオーダーを取り纏めて、店員に伝えていた。

露原「それ、見せてもらってもいい?さっきから、見たくて」
雅弥「ああ、はい、どうぞ」

 一番、俺と席が離れている。三年生で、天文部の部長だという露原だった。星の写真に、やはり、一番、興味を持ったらしい。

露原「うちの部だと、女子だから、遅い時間まで、撮れる人がいなくて。これ、どのくらい、時間かかってるの?」
雅弥「日が落ちてから、明ける直前まで」
常盤「えー、そんなに?凄いねえ」
松山「そういう時、何して、待ってるの?」
雅弥「天体望遠鏡、持ってたら、別で見てたり」

 中村と実紅が、こそこそ隣同志で話している。実紅は、首を横に振った。なんだか、わからないが。ここで、店員が、オーダーした品を運んできた。

露原「天文部の人は来てないんですか?」
八倉「ああ、今回はそうですね。うちは、特進クラスでの参加の形なんで」
露原「そうなんだ。でも、辻君は、天文部じゃないのに、凄いね、なんで、天文部に入らなかったの?」
坂城「辻君は、忙しいから」

 小津と梶間が笑った。坂城が、二人を見て、変な顔をした。
 なんか、坂城、地雷踏みそうだ。相変わらず、やらかしそうだな。
 余計なこと、言うなよ・・・。

露原「他の部なの?」
中村「なんかの大会に出てたよね、実紅」
実紅「あ、うん、陸上かな、ね?」
雅弥「・・・」

 アイコンタクトを求められた。どっちつかずにした。よく、実紅のやるやつだ。中村さんって子は、確か、商店街で一緒にいた子の一人だな。感じで、こっちのメンバーも、なんか、目配せしてるのが解った。

八倉「写真、皆さん、見ましたよね?どうですか?」
露原「正直、すごい、よく撮れてます。これなら、どこで展示しても、バッチリだと思います」
坂城「辻君は、星のことも、よく知ってますから」
常盤「ああ、それで、多分、会場が、商工会議所の展示スペースになるそうです。二校で、一つのテーマで計画書を出します。二校分なんで、少し、広めに場所は貸して頂けるそうです」

 何か、また、中村さんと実紅が、こそこそしてるが。

中村「実紅、あれ、」
実紅「うん・・・あの、これ、スライドにできないかなと思って。OHPに焼いて、大きく写して、星座とか、説明しながら、進めるの。OHPを動かす役の人が、説明する人の話を聞きながら、こう、指さしみたいにしたりして」
八倉「なるほど、とても、良い案ですね」
小津「うん、そうだね」

 ・・・なるほど。

松山「私は、飾りつけとか、会場設営の担当なんですけれども、暗幕で覆って、蛍光の素材の星とかを飾って、スライドの時は、暗くして、とかね」
中村「見てくれた方に、星型のクッキー、記念にって、考えてます。私は、その担当です」
常盤「なんか、皆、バラバラに役割、言ってるけど、ちょっと、紙に書きますね。あ、良かったら、ここに、中央さんのメンバーの名前と、役割、書いてもらっていいですか?」
八倉「わかりました」

 本当に、きちんと考えてきたんだな。先生の言ってた通りだ。

松山「議事録は、帰りにコピーすればいいかな?」
露原「まっちゃん、書いてくれてんだ」
松山「今日の分、纏めちゃうね」
梶間「しっかりしてるな、女子の方が。すいません、全部、やってもらって」
松山「大丈夫、気にしないで」
露原「後で、人数分、コピーして、渡しますね。今日、これだけ、メンバーの顔合わせできてれば、後は、決めることを上げて・・・」
小津「頭良さそうだな、彼女たち」
八倉「進学コースですよね?皆さん」
常盤「ああ、そうですね。三年生は。二年生はこれからかな、実紅ちゃんと、由紀ちゃんは」
実紅「でも、進学クラスに希望してます」

 なんか、とりあえず、順調に進んでるな。俺も、メモは取ってるんだが・・・これだけ、人数がいるんだから、こんな感じでやれるだろうから。

雅弥「ちょっと、いいですか?こちらは、全員が三年で、受験ってことで、申し訳ないんですけど、当日までに起こり得ること列挙したんで、今日から、当日までのイメージです。コピーは気づかなくて、すみません。見てもらって、いいですか?」
坂城「さすが、辻君」

 一同が、それに見入った。

雅弥「あと、会計を決めるといいですね。坂城、やってもらえない?」
坂城「俺?」
小津「おー、お前んち、あんこ屋、商売人だから」
坂城「やめてよ、もう、」
中村「あんこ屋さんの子なの?やっぱり、坂城君って名前だから、そうかなって」
坂城「あ、はい」
常盤「美味しいよね、あんころ餅、うちも皆、ファンだよ」
松山「うちも、お婆ちゃんから、ずっと」
坂城「あ、そうですか。はい、ありかとうございます」

 坂城が、頭を掻いてみせている。何やかや言って、天然だが、弄られながらも、好かれるタイプだ。

中村「こっちの会計、私だから、お金のことが出たら、坂城君、打ち合わせしましょう。コピー取ったら、コピー代、領収書もらってください」
坂城「もらってください」

 梶間が、坂城の頭を小突きながら、笑った。

坂城「やめてよー、もう・・・」
松山「弄られキャラなんだね、坂城君は」
坂城「ほらあ、もう・・・」
梶間「こいつ、潤滑油だから」
常盤「そうなんだ、良いお役じゃん」
梶間「そうそう、良かったな、坂城」
坂城「もおー」

 一同が、笑った。

八倉「で?辻、その手前の話に戻して」
雅弥「ああ、そう、それで・・・」

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 当日までの日程で、作業の目途を決めて、分担を決めた。総合の取り纏めと、事務局と学校のやり取りが八倉になり、そのサブが常盤さん、星の説明は俺と露原さん、OHPは実紅と小津が動かすことになった。会計が、坂城と中村さん、お土産クッキーの件も、二人で兼務することになったらしい。松山さんと梶間で、会場設営のデザインと、当日の客の案内をすることになった。当日、他の人員が必要なら、それぞれの学校から、同人数位を補充することにした。

露原「なんか、皆、頭いい、って感じた」
常盤「すごい、早く終わったよね」
松山「はいっ、提案なんですけど!ご飯、このまま、食べませんか?お腹空いちゃって」
八倉「お茶だけだったからね、皆、どうかな?」

 あああ、始まった。皆が、そうするのは、別にいいけど。
 ・・・これは、抜けられるか?できるなら、抜けたいが・・・
 流石に、見ないようにしてる。実紅の顔は。

坂城「俺、あんこの件、親父にきいてみようかな?」
中村「本当?」
坂城「クッキーに入れられるかって」

小津「皆がいいなら、食べてこうかな」
梶間「俺も、なんか、グラタン食べたいんだけど、さっきから、あの、壁の写真と目があってさ」
松山「私も、そうだったの」
梶間「だよな、美味そうじゃん、これさ」

「いいよ、忙しいんだったら、無理しないで」

 一瞬、席の近い、坂城と中村さんが、会話を止めて、こちらを見た。

 気ぃ遣ってくれたのかもしれないが・・・でも、ごめん。
 やっぱり、実紅はあざとい、と思ってしまった。

雅弥「ちょっと、家の用事があるんで、これで帰らせてもらうけど」
松山「ああ、そうなの、コピー、えーと」
八倉「俺、もらっとくから、大丈夫」
松山「辻君の分、八倉君に・・・え?いいの?」
八倉「その方がいいでしょう」
松山「うん、わかった・・・けど・・・」

 松山さんの視線は、実紅に行っている。

「またね、雅弥君」

 こうやって、また、実紅は演じているんだ。真実と違うのに。俺とそういう感じなんだと、醸し出すような風にしている。

 俺は、自分の分の飲み物代を、八倉に渡した。突っ返してきたが、テーブルに置いてきた。露原さんが、その様子を、じっと見ている。まあ、どうでもいいことなんだが。

 役目を果したら、いるだけ、良くない気がした。皆の中で、実紅とのことを勘ぐられ続けて、晒されるのも、ごめんだからな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「後で、話そう、実紅」
「なんで?・・・大丈夫だよ」


みとぎやの小説・連載中「星の展示会に向けて」 守護の熱 第十五話

お読み頂き、ありがとうございます。
前回までとは、ガラリと変わった、学園ドラマ的な展開となりました。
ちょっと、漫画的ではありますが、多くの人物のやり取りは、やはり、セリフの頭に、名前を差し込ませて頂きました。10人が、会話していく形です。説明でやり取りを遮るより、流れていく感じの方が良かったので、解りづらいかもしれませんが、実験的にやってみました。
彼ら、クラスメートは、今後も、雅弥に、個人的に絡んできます。

余談ですが、このやりとりの件に出てくる、コピーで書類をシェアしたり、OHPも、古すぎて、ピンとこないかもしれません。昭和の学生の文化祭だと思ってください。このくらいに、学生生活を送った方には、懐かしい内容だと思います。この子たちは、スマホも持っていません。ファミレスが新しいトレンドの頃です。

この物語の前段は、こちらのマガジンから、読むことができます。
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