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【光あつめ(一部分)】
例えばそれは、光に似た気持ちである。
かなり近く言えばぽかぽかとした気持ちで、からからと乾いた温もりに心洗われるような光だ。時にそれはガラガラと音を立てて、心を蟻穴として体まるごとなし崩しになるものでもある。その時というのはともかく真っ暗で、自分は木製の小舟であり、貴方もとい世界は時化の海原として自分を轟々と襲う。きっとそれは無自覚で、だからこそ残酷に。この勝手な破滅の時の”光”は、せいぜい稲光で
【日和見日和(2019)】
『日和見日和』
「僕はきっともうすぐ死ぬんだろうね」
「さあね、どうせ人間なんていつかは死ぬ物さ」
君は僕よりも、死を遠くに見ているようでずっと傍に置いているような気がした。河原の柳がさああっ、とそよ吹き病衣の隙間から浮いた肋が撫でられる。
「死んだら何があるんだろうね、地獄ってあるんだろうかね」
「さあね、まあ君は万引きも恐れるような小心者の小悪党だ、君みたいなやつを裁く時間なんて地獄にだって
【視線(Look!)】
『視線(Look!)』
人は覚えたことを思い出そうとするときに自然と両目をぐいっと持ち上げる。
人前でプレゼンする時も次のセリフをふと忘れて、原稿を思い出そうと上を見て「あの〜〜」なんて苦しい間ができたりする。思い出せない、思い出したい、う〜〜んとか言って、脳裏のカンペを見ようとしてるのだろうか。当然上を見ても脳は見えないし、そもそも脳は記憶を文面で書庫みたいに保管してるわけでもないハズだ。それ
【歌集副読本感想文】
出版者のまえがきにある通り、「歌集副読本」というジャンルは聞き馴染みの悪さに従って造語だった。「歌集を味わい尽くすための助けとなる読みもの」との事で、ふわふわと広がるとっつきづらい短歌という世界を、2人の歌人が互いの詩を読み咀嚼した始終を明文化するという形式で読者に与えるものだった。喩えればそれは、甘美に延びて拡がる生地である短歌の概念にクッキー型をはめ込んで提供されているようなものだ。しかしこれ
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