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転倒の科学。危険な転倒方向, 負荷低減戦略

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢女性の大腿骨近位部骨折リスクの有限要素解析:軟部組織形状、転倒方向、介入の影響

📕Murakami, Sotaro, et al. "Finite element analysis of hip fracture risk in elderly female: The effects of soft tissue shape, fall direction, and interventions." Journal of Biomechanics (2024): 112199. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2024.112199
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[背景・目的] 本研究では、骨盤軟部組織の形状に着目し、転倒形態が大腿骨近位部骨折リスクに及ぼす影響を検討した。これは、全身有限要素(FE)モデルを用いて行った。立位CTシステムを用いて骨盤周囲の軟部組織の厚さを測定したところ、BMIが高く、年齢が若いほど転子軟部組織の厚さが増加する傾向が明らかになった。大転子より後方では、高齢女性の軟部組織は薄く、凹んだ形状をしていた。THUMS 5Fモデルをベースに、CTデータに基づいて骨盤周囲の軟部組織形状をモーフィングすることにより、BMIの低い高齢女性のFEモデルを開発した。

✅ 研究方法の概要
・CTデータと有限要素モデルから転倒シミュレーションを実施
・転倒条件❶:転倒シミュレーションは、3つの方向・部位条件で実施
・転倒条件❷:ヒッププロテクター有無、剛性床 vs. 柔軟床

[結果]
■ 大腿骨頚部への負荷が大きくなる転倒方向
・FEシミュレーションの結果、高齢女性モデルの場合、側方転倒に比べて後方転倒の方が大腿骨頚部力が大きくなることが示された。
・その理由のひとつは、骨盤の軟部組織が後方後方領域では薄いことに関連している可能性がある。

■ 大腿骨頚部への負荷の低減戦略の効果
①ヒッププロテクターの有無
・大腿部-股関節転倒においては、頸部力の低減率は0.8%と非常に低かった。
・股関節の転倒においては、15.4%の低減率が見られた。
②柔軟床 vs. 剛性床
・大腿部および股関節の転倒においては、19.9%の低減率を示した。
・股関節への転倒においては、29.1%と最も高い低減率を示した。

[結論] 本研究は、女性の骨盤の軟部組織形状、特に後方後方部における加齢に関連した変化を浮き彫りにし、後方後方転倒時の股関節の力軽減に影響を及ぼす可能性がある。

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「転倒予防」

この言葉は、理学療法士にとって非常に大きな存在感を示す言葉の1つだ。
筋力トレーニング、バランス練習、歩行練習・・・。
その目的は、この1つの言葉に収束すると言っても過言ではないだろう。

だが、転倒予防という1つの言葉から、いくつかの枝葉に降りていっているだろうか。
例えば、前方への転倒予防と、後方への転倒予防では、その方法が異なってくることは容易に想像できることだ。
前方への転倒予防では、フットクリアランスの向上や、膝折れを防ぐことなどが想定される。
後方への転倒予防では、後方への重心移動範囲の拡大、後歩きや方向転換練習で後方への反応性バランスの獲得、などが想定される。

そして、重要なことは、そのどの方向に対して最も感度を高くしておく必要があるか、を知ること。
もちろん、どの方向に対しても転倒することを防ぎたいのは前提。
だが、その中でもどの方向に対して最も警戒すべきか。
今回の抄読研究はその答えの1つを示してくれた。
大腿骨頚部に加わる負荷、という点においては『後側方』が注意すべき方向である、と。
さらに、柔軟床を用いることで、その負荷を低減することに有効であることも明らかになった。

転倒を防ぐための身体能力向上に向けた努力と、万が一転んでしまった際に負荷を最小化する環境最適化に向けた努力。
その両者に対して、一生懸命になりたい。

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