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進化的ミスマッチ。安全が慢性疼痛を生んだ?

📖 文献情報 と 抄録和訳

痛みの持続性と痛み調節システム:進化的ミスマッチの視点

📕Büchel, Christian. "Pain persistence and the pain modulatory system: an evolutionary mismatch perspective." Pain 163.7 (2022): 1274-1276. https://doi.org/10.1097/j.pain.0000000000002522
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, PMC (full+) 🌲MORE⤴>>> not applicable

[レビュー概要 + Super Human 追加情報]

■ レビュー内容のビジュアルアブストラクト

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✅ 図. 古代の疼痛緩和ルート、現代の慢性疼痛ルート、転てつ器となりうる運動・身体活動
- 古代の疼痛緩和ルート:傷害→生物的危険性あり→下降性疼痛抑制系の活性化→疼痛の軽快
- 現代の慢性疼痛ルート:傷害→安全→疼痛を抑制する必要がない→下降性疼痛抑制系の活性化なし→慢性疼痛化

■ いま、社会や文明の進展は加速し続けている
社会的加速度理論:近代化における社会の加速・スピードアップの概念
- 社会的加速度理論(📗 Rosa, 2016 >>> site.)や社会的「スピードアップ」の概念(📕 Sullivan & Gershuny, 2018 >>> doi.)は、近代化には社会のあらゆる側面に浸透する三つの加速度的プロセスが伴うことを示唆している。
1. 技術的な加速:生産、通信、輸送の速度の上昇を伴う。
2. 社会変化の加速:社会的に共有された知識、信念、習慣が変化するテンポの上昇を伴う。
3. 生活ペースの加速:日常的な取引の速度の客観的な加速と、時間の速度の知覚とタイムプレッシャー(すなわち、時間の不足の知覚)の主観的な増加である。
- これらのプロセスは相互にエスカレートし、ますます速くなる「加速の輪」を形成すると考えられている(🌍Rosa, 2016, p.193 >>> site.)。

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✅ 図. 今日の世界では、漸進型の変化だけではなくなっている。その証拠に、変化のペースが格段に速いのだ。たとえば図が示すように、携帯電話、インターネット、コンピューティングの技術浸透は、前世代の技術変化(電気、自動車、電話など)よりもはるかに速く進行してきた(📗両利きの経営 >>> Amazon.)。

■ 生物学的進化の速度は遅々としたものでギャップが広がり続けている
- 世代交代による淘汰のメカニズムによる進化は、世代数の長い生物ではかなり遅いプロセスであり、環境や社会の速い変化に対応することは困難であった。
- したがって,ヒトの多くの生物学的プロセスは,現在の環境の課題に十分に適応していないことが考えられ(📕Eaton, 1988 >>> doi.),このように十分に適応していない生物学的プロセスと現在の環境の課題との間の格差がミスマッチをもたらしている(📕Nesse, 2008 >>> doi.)。

■ 疼痛が生じた場合の古代と現代のギャップ(時期別)

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Wallによると、傷害後の時間は、即時、急性、慢性の各段階に分けることができる(📕Wall, 1979 >>> doi.)。
ヒトや動物の祖先の環境では、生存の必要性から、痛みがあっても回復期に活動に復帰することが望まれるが、現代の環境では、ヒトや家畜は負傷後に長期間にわたって活動しないことが許容されている。
古代では活動が強制され、現代では不活動が許容される。
このギャップが下降性疼痛抑制系(descending pain modulatory system: DPMS)の活性化に影響を与え、さらに慢性疼痛への移行のルートも変わってくる。

■ 痛みの動機づけ-意思決定モデル:下降性疼痛抑制系のスイッチ

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✅ 図. 痛みの動機づけ-意思決定モデル。痛み調節系は、侵害受容伝達ネットワークに対して双方向の制御を行う。OFF細胞は侵害受容の伝達を抑制し、ON細胞は促進する。侵害受容入力は、侵害刺激に対する反応を促進する「侵害受容反応促進回路」を活性化することにより、侵害刺激に対する反応を高める動機付けを行う。この回路はON細胞を活性化し、ON細胞は侵害受容の伝達を促進し、侵害受容応答プロモーターは2次的に増強される。この回路の活動は、侵害刺激に対する反応と相反する反応に対する動機付けを抑制する効果がある。この回路は、侵害受容反応プロモーターを抑制し、OFF細胞を活性化する。OFF細胞は痛みの伝達を抑制し、侵害受容反応プロモーター回路の活性化を抑制する。

- 継続的な痛みにもかかわらず、捕食者を回避するために必要な採餌や移動を含む活動の再開は、生存に関連する。生物にとって、これは生存にとって最も価値のある行動の「決定」と見なすことができる
- これは意識的な決定ではなく、フィールズによる動機決定モデルの基礎である(📕Fields, 2006 >>> pdf.)。
- このモデルの中心となるのは、生存に関連する活動の「決定」には、下行性疼痛調節システムの活性化が伴うということ。
- 極端な状況での急性の痛みを軽減し、重傷の存在下でも生物が生存に関連する活動を追求できるようにするのはこのシステム。

■ 傷害後の安全はDPMSの活性化を欠如させ、慢性疼痛の防御壁を壊す
- DPMSは痛みをダウンレギュレートして、採餌などの生存関連の活動を妨げないようにするが、現代の入院生活のように生物が回復的な不活動に従事することを「決定」した場合、DPMSのアクティブ化は必要ない。
- DPMSの活性化は痛みの持続を防ぐための効果的なメカニズムであるため、このDPMSの活性化の欠如または減少は悪影響をもたらす可能性がある(📕Denk, 2014 >>> doi.)。
- 損傷時にDPMSの活性化を示す齧歯動物は、神経因性疼痛が少ないことを示した(📕De Felice, 2011 >>> doi.)。

■ 急性期における運動・身体活動はDPMSを活性化させる可能性
- 大規模な研究では、中程度の余暇活動を示す個人では、慢性的な筋骨格痛を発症する可能性が大幅に低下することが示されてる(📕Fancourt, 2018 >>> doi.)。
- 主な仮説は、急性損傷期の身体活動が痛みの持続を防ぐのに役立つ可能性があるというもの。
- 運動の正確な性質はおそらくそれほど重要ではないが、運動の強度は高くなければならない。多くの研究は、DPMSを活性化するために一定レベルの強度が必要であることを示している(📕Nijs, 2012 >>> site.)。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

急速な進歩は、リスクを孕む。
屋久杉が、普通の杉と違って1000年以上を耐えうるのはどうしてか?
それは、屋久島は栄養が「不十分」だから。
成長が遅々として進むから、倒れない、のだという。
年輪を見ると、実にきめ細かく密度が高い。
それが、強度になるらしい。
真の進歩とは、屋久杉の成長のように、ゆっくりと、そして絶え間なく起こるものだ。
今後、人類社会の進歩はますます加速してゆく。
それと並行して、生物としての僕たち人間のシステムはますます混乱をきたすようになるだろう。
そのとき、大切になるのは、機序を知っていること。
機序を知ることは、手立てを知ることに近い。

急速に進む文明・環境の進歩。
遅々として進みにくい生物としての進化。
ますます開きつつある、両者のギャップが生み出す多様な問題。
よし、機序を知った。
手立てを打ち、現実を変えよう。

事をおこなうとき、
なによりも知るということが大事だ

河井継之助

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