ネズミが教えてくれた“筋脳連関”の可能性
📖 文献情報 と 抄録和訳
身体と脳のパートナーシップからの認知: 記憶の適応
[背景・目的] 認知機能障害は急速に進行し、有効な治療法が限られているため、高齢者にとって大きな課題である。サルコペニア高齢者は認知症のリスクが高い。本スクーピングレビューは、前臨床エビデンスから筋肉が認知機能のメディエーターであるかどうかを明らかにすることを目的とする。
[方法] PubMed、Embase、Web of Scienceを2022年2月2日まで、(muscle) AND (cognition OR dementia OR Alzheimer) AND (mouse OR rat OR animal)のキーワードで検索した。本研究ではPRISMAガイドラインを使用した。
[結果] 7638件の研究から合計17件の前臨床研究が選択された。
■ 筋萎縮・筋損傷→記憶などに影響
・4件の研究では、アルツハイマー病( Alzheimer's disease, AD)の有無にかかわらず、ネズミの筋萎縮や筋損傷が記憶、機能的因子、脳内ニューロンに害を及ぼすことが報告された。
■ 運動→代謝物質→BDNFレベル上昇に貢献
・3つの研究では、運動によって筋肉が乳酸、フィブロネクチンタイプIIIドメイン含有タンパク質5(FNDC5)、カテプシンBなどの因子を分泌することが観察され、これらは認知機能や脳由来神経栄養因子(BDNF)レベルの上昇に重要な役割を果たしている。
■ 電気刺激・筋肉内注射→ニューロン新生効果+α
・電気刺激や筋肉内注射を含む筋標的治療は、海馬に対して効果的な遠隔効果を示した。
・6件の研究では、筋肉特異的なscFv59とネプリライシンの過剰発現、あるいはミオスタチンのノックダウンがAD症状を緩和することが示された。
■ 成長因子操作→海馬のニューロン新生の欠損
・1件の研究では、筋肉インスリン抵抗性がMKRマウスにおける海馬神経新生の欠損にもつながることが示された。
[結論] 骨格筋は認知機能の介在に関与している。その証拠は、筋萎縮や損傷、筋分泌因子、筋を標的とした治療による脳での反応(ニューロン数の変化、機能的因子、その他のAD病理学的特徴)によって確立された。本論文のトランスレーショナルな可能性本研究は、筋肉が認知機能に分子レベルでどのように影響するかについての現在のエビデンスをまとめたものであり、認知機能障害を予防する臨床戦略としての筋肉特異的治療の可能性を支持するものである。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
運動は、認知機能を維持・改善させる。
『Exercise is Medicine』の代表的な効果の1つだ。
これまで、関連するいくつもの文献抄読をしてきた。
だが、ヒトを対象とした研究では、包括的な効果しか検証できない。
どういうことか?
これらを知るためには、注射や切除、電気刺激などといった極端な侵襲的介入が必要になる。
ヒトを対象としては、これらの方法を適応することはできないだろう。
それを叶えてくれるのがネズミ、だ。
動物実験はエビデンスレベルからすると非常に低い階層に位置する。
が、やはりそれぞれの至適領域がある、ということなのだろうと思う。
今回のような細部のメカニズムを知ることについて、ネズミによる実験は強力だ。
ネズミ氏に、心からの感謝を伝えたい。
そして、その結果を生かしきることが僕たち人間の責務だろう。
○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓
‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び