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パフォーマンス直前ウォームアップの威力。なぜネクストバッターズサークルで重りをつけて素振りをするのか?

📖 文献情報 と 抄録和訳

アスリートパフォーマンスのための上半身動作後パフォーマンス向上。メタ分析を含むシステマティックレビューと今後の研究への提言

Finlay, Mitchell James, et al. "Upper-Body Post-activation Performance Enhancement for Athletic Performance: A Systematic Review with Meta-analysis and Recommendations for Future Research." Sports Medicine (2021): 1-25.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
- 80%1RM以上のベンチプレスは、その後のバリスティックベンチスローにおいて中程度の活動後のパフォーマンス向上効果を誘発する。
- 過重な器具投げや軽量・等尺性バットスイングなど、スポーツに特化した活動後のパフォーマンス向上コンディショニング活動は、その後の投球距離とバットスイング速度をそれぞれ向上させた。
- パフォーマンステストとバイオメカニクス的特異性を共有する上半身のコンディショニング活動は、活動後のパフォーマンス向上効果を誘発しやすいと考えられる。

[背景・目的] 活動後のパフォーマンス向上(post-activation performance enhancement:PAPE)に関する研究は、下半身のコンディショニング活動やパフォーマンステスト複合体が中心となっている。上半身は多くのスポーツ動作に寄与しているにもかかわらず、上半身のPAPEに関する研究は現在のところ存在しない。このメタ分析を伴う系統的レビューの目的は、競技パフォーマンスを向上させるために上半身のPAPEコンディショニング活動を取り入れることに関する利用可能な研究の統合を提供することであった。

[方法] EBSCOhost、SPORTDiscus、PubMed、Google Scholarデータベースの文献検索を含む、Preferred Reporting Items for Systematic Review and Meta-analysesガイドラインに従って文献のレビューを実施した。データベース検索により合計127件の研究が同定され、以下の基準で評価された。(1)無作為化対照試験または前後比較試験のデザイン (2)電気的収縮ではなく、事前の随意筋活動の効果を調査した研究 (3)PAPEの証拠または欠如は、一般的に適用されるフィジカルテストまたはスポーツ特有のタスクに対する個人のパフォーマンスのモニタリングによって定量化 (4)条件付け活動およびパフォーマンステストは主に上体 (5)標準的ウォームアップについて詳細に記述 (6)研究の全文は英語のピアレビュー済み雑誌で閲覧可能 とした。研究は、PEDroスケールで方法論の質を評価し、それに応じてランク付けした。

[結果] 31の研究が包含基準を満たした。研究は、ベンチプレスのバリエーション、スポーツ特化型(修正器具投げ、スイング特化型、ケーブルプーリー、弾性抵抗、コンビネーション)、自重活動という異なるコンディショニング活動様式に分類された。いくつかの運動特異的な組み合わせにおいて、急性期のパフォーマンス向上が見出された。

✅ メタ分析の結果示されたPAPEの例
(1). 80%以上の1反復最大値でのベンチプレスは、8~12分の回復後、30~40%の1反復最大値でのバリスティック・ベンチ・スローのその後のパワー出力を有意(p = 0.03; ES = 0.31)に向上
(2). スポーツに特化した過重な器具投(砲丸投げ?)は、その後の競技での投擲距離を、3分間の回復後に、1.7〜8.5%(ES = 0.14〜0.33)向上
(3). スポーツに特化した軽量バットスイングとスイングに特化したアイソメトリックスにより、その後の競技体重でのバットスイング速度が、~1.3~4.9%、ES = 0.16~0.57 の範囲で向上

[結論] このレビューでは、コーチや実践者が複合的または対照的なトレーニングの一部として考慮したり、競技前のウォームアップでパフォーマンスを急性的に向上させるために使用できる、上半身の動きに特化したコンディショニング活動をいくつか紹介した。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

野球のネクストバッターズサークルでバットリングを装着して過重量をつくり、何回かスイングし、いよいよバッターボックスに入る選手の姿は目にしたことがあるだろう。
このように、競技直前に過重量(もしくは過少重量)の器具を用いてウォーミングアップし、その後の実パフォーマンスに好影響を及ぼすことは『活動後のパフォーマンス向上(post-activation performance enhancement:PAPE)』と呼ばれている。

暖簾に腕押し。
いくら強靭な肉体を持った人間でも、暖簾に最大筋出力を加えることはできない。
同じように、大谷翔平でも、ピンポン球に最大筋出力を加えることはできない。
なぜだろう?スカッと捉えどころのない感じになる。
それは、『反力』を得ることができないから。
力は、F=ma(F:力、m:質量、a:加速度)で表現される。
すなわち、力を加えるべき対象物の質量が軽ければ軽いほど、大きな力を加えるためには、はちゃめちゃな加速が必要になる。
極端な例だが、動かぬ壁は質量が限りなく大きいから、加速度が限りなく小さくても大きな力を返してくれる。だから、こちらも大きな力を出せる。
そして、対象物が力を返してくれない場合(すぐ加速してしまう)、こちらは力を加えることはできない(作用-反作用)。

さて、そこでPAPEである。
例えば過重量のもの(物体A)を使用すると、いつもよりも対象物に大きな力を発揮することができるようになる。
ちなみに、野球の投球動作において、ボール重量が35g増すと、9Nm大きな力がボールに対して発揮されることがわかっている(📕Kaizu, 2020 >>> doi.)。
その直後、通常重量のもの(物体B)を使用すると、運動制御系は物体Aに対して発揮する筋出力をそのまま発揮するのだろう。
物体Aに発揮されるはずの大きな力が、物体Bに加わるため、結果、投擲距離が伸びるわけだ。
過少重量の物体では、筋パワーに対して類似の現象が起生じていることが推察される。
すなわち、脳を騙しているのだ。
脳は、実パフォーマンスの際、「あれ、思ったより重い(or 軽い)」と思っていることだろう。

このPAPE、良いことばかりではないと思われる。
脳を騙しているのだから、何らかの弊害は起こりそうだ。
脳としては、想定したことと、実際起こっていることにLagが生じているわけだから。
そのような場面では、肉離れをはじめ、傷害が発生しやすい。
安全面の検証は、今後、必なされる必要がある。

鍵は、安全面の検証と運動課題別のTime window(どのくらい効果が維持され、最大効果はいつ訪れるのか)の明確化、だ。
それが明らかになれば、スポーツ現場にとってかなり使える武器になるだろう。

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