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牽引によるオーバースピード刺激は、ランニング速度を上げる

📖 文献情報 と 抄録和訳

牽引システムを用いたオーバースピード刺激が競技スプリントパフォーマンスに及ぼす急性効果。メタアナリシスを含むシステマティックレビュー

Cecilia-Gallego, Pau, et al. "Acute effects of overspeed stimuli with towing system on athletic sprint performance: A systematic review with meta-analysis." Journal of Sports Sciences (2022): 1-13.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

スライド2

✅ 図. ランニングにおける逆方向・順方向への刺激(📕Leyva et al. Journal of Physical Fitness, Medicine and Treatment in Sports 1.1 (2017): 555554 >>> site.)

[背景・目的] アスリートの最高走行速度を向上させるために、オーバースピードに基づくトレーニングが広く行われており、牽引システムはそのために最も頻繁に採用されている方法の一つである。しかし、このモダリティの有効性は十分に明らかにされていない。このレビューでは、スプリンターにおけるトウイングシステムを用いたオーバースピード状態の急性影響を分析する。

[方法] PubMed、SPORTDiscus、Google Scholarの各データベースにおいて、PRISMAの方法に従って論文を検索、分析、選択した。16の研究が含まれ、男性240名、女性56名(14~31歳、1.73~1.82m、66.2~77.0kg)がサンプルとして含まれている。

[結果] 見つかった主な急性反応は以下の通り。1)最大走行速度(ES = 1.54、大)、歩幅(ES = 0.92、中)、飛行時間(ES = 0.28、小)、歩幅(ES = 0.12、小)の増加、2)接触時間の減少(ES = 0.57、小)であった。しかし、報告された地面反力と筋電図のデータを分析しても、その変化がアスリートの筋肉反応の増大によるものか、牽引システムの効果によるものかを決定的に判断できるほどの一貫したエビデンスは得られなかった。

[結論] 今後の研究では、観察された急性期の効果の原因となるメカニズムの研究に重点を置く必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

“押してダメなら引いてみろ”
少なくも、ランニングにおいて順方向に引っ張られることは、その直後の走速度を上げる。
メタアナリシスで明らかにされた、真実に近い事実。
これを、望む方向に対して順方向にサポートが加わることから『追い風的介入』、と呼ぼう。

追い風的介入は、筋トレでは話にならない。
むしろ、逆風的介入 ≒ 筋トレだろう。
自重や重錘やマシンを用いて、閾値を超える負荷を加えなければ、最大筋力や筋肥大は望みにくい。
雑草が踏まれて強くなるようにして、筋力は強化される。

そもそもに立ち返って、よく考えてみよう。
走ることも「筋肉を用いた関節運動」だ。
だったら、筋トレと何が違うのか。
筋トレでは、追い風的介入は無能と思える。
なのに、走速度を上げるとなった途端、有能になる。
なぜだろう・・・。

仮説は立つ。
ひとつは、同一筋の働き方が変わる、というもの。
すなわち、stretch shortening cycle(SSC)が関わる比率が変わってくると思う。
SSCについて知らない方は、以下noteを参照されたい。

筋トレでは、随意的な筋収縮が直接的に関節を駆動させる、そこに腱の他動的張力の関与は少ない。
一方、走行では、筋収縮は等尺性に働いて、腱を使うようにして走る、SSCの関与は大きい。
つまり、鍛えている筋収縮様式や外力との兼ね合いが違っていて、追い風的介入の方が走行に必要な機能を鍛えやすいのかもしれない。

次に、働く筋自体が異なってくる、というもの。
筋トレと走行では、同じ足関節底屈筋でも、働く筋部位が変わってくる、ということがあるのではないか。
さらに走速度によっても、働く筋部位が変わってくるのであれば、追い風的介入は特定速度でしか鍛えられない部位を鍛える、良いトレーニングと思われる。
筋に加わる中枢からの指令頻度によって速筋線維と遅筋線維の動員が変わる(📕 De Luca, 1982 >>> doi.)ことからも、この仮説は有望な気がする。

そして、3つ目の仮説、『認識』が変わる
1マイル4分の壁、という話がある。

✅ 1マイル4分の壁
1マイルを4分以内で走ることは、物理学的に不可能と思われていた
事実、それまでの37年間、誰一人として破る事ができなかった
ロジャーバニスターは、トレーニングに科学的な知見を持ち込むことで、この常識を覆した
1954年4月6日、オックスフォード大学のトラックで、1マイルを3分59秒4で走ってゴールしたのだ。
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ここまででも、十分に面白い話。
が、本当に面白いのは、この後。
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一年も経たないうちに、なんとロジャー以外に23人もの選手が
次々と1マイル4分の壁を破るという結果を出した
🌍 参考サイト >>> site.

「実際にできたやつがいる」という事実が、何かを変えるらしい。
個人内でも、同じではないか?
「一旦、あの速度で走れた」という事実を、追い風的介入は強制的に作り出す。
それによって、その当事者の常識が変わる、ということがある気がする。

人生でもそういうことはある。
例えば、論文執筆。
指導者の手取り足取りであっても、IF付き国際誌の筆頭著者になったとする。
「IF付き国際誌の筆頭著者になった」、その事実に寄り添うようにして、その人物が変わる、勉強する、追いつく。
そういう成長もある。確かにある。
強制的に作られた事実であっても、そこに引っ張られてしまう、という仕組み。
面白い。

逆風は脚力を鍛える。
追い風は理想を経験させ常識を変える。
理学療法における動作介助って、この側面をもつのかな・・・。

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