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運動療法後のKAM変化


📖 文献情報 と 抄録和訳

変形性膝関節症患者における運動療法の生体力学的負荷に対する修正因子の探索:系統的レビューとメタアナリシス

📕Yokoyama, Moeka, et al. "Exploring the modification factors of exercise therapy on biomechanical load in patients with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis." Clinical Rheumatology 42.7 (2023): 1737-1752. https://doi.org/10.1007/s10067-023-06553-4
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[背景・目的] このシステマティックレビューとメタアナリシスの目的は、変形性膝関節症(OA)患者において、膝関節内転モーメント(KAM)の最初のピーク値とその他の生体力学的負荷に対する運動療法の効果を明らかにし、運動療法後の生体力学的負荷の違いに影響を及ぼす身体的特徴を明らかにすることである。

✅ 前提知識:KAMとは何か?
・歩行時の外部膝関節内反モーメント(Knee Adduction Moment:KAM)は、変形性膝関節症(Osteoarthritis:OA)の定量的なパラメータであり、膝OAの進行や予後を予測する因子である

[方法] データソースは、研究開始から2021年5月までのPubMed、PEDro、CINAHL。適格基準には、膝OA患者における運動療法前後の歩行時のファーストピーク(KAM)、膝屈曲ピークモーメント(KFM)、最大膝関節圧迫力(KCF)、または共収縮を評価する研究を含む。バイアスのリスクは、PEDroとNIHの尺度を用いて2人のレビュアーが独立に評価した。

[結果] 11のRCTと9の非RCTのうち、1119名の膝OA患者が対象となった(平均年齢:63.7歳)。メタ解析の結果、運動療法は最初のピークKAM(SMD 0.11;95%CI:-0.03-0.24)、ピークKFM(SMD 0.13;95%CI:-0.03-0.29)、最大KCF(SMD 0.09;95%CI:-0.05-0.22)を増加させる傾向があった。生体力学的負荷に関するエビデンスの質は、GRADEアプローチによると低~中等度であった。

■ 運動療法後のKAMの変化と筋力, 疼痛の変化
膝伸展筋力の改善と第一ピークKAMの増加との間には正の相関がある(β=0.35, p=0.010)。
膝屈筋力の改善と第一ピークKAMの増加との間にも正の相関がある(β=0.57, p=0.035)。
WOMAC疼痛スコアの改善と第一ピークKAMの増加との間には正の相関がある(β=0.26, p=0.041)。

■ KAMに対する運動療法の効果:調整要因と媒介要因
● 調整要因(Potential Moderator Candidates)
<関節変形およびOA重症度(Joint deformity and OA severity)>
・膝関節の変形やOAの重症度が、運動療法の効果に影響を与える可能性がある。
・これらの要因が、治療の効果を左右するポピュレーションを示唆している。
● 媒介要因(Potential Mediator Candidates)
身体的特性(Body Properties)
<筋力(Muscle strength)>
・膝および股関節周辺の筋力(伸展筋、屈筋、外転筋、内転筋、内旋筋、外旋筋)が、運動療法の効果に関連している。
<その他(Others)>
・痛み(Pain)や歩行速度(Walking speed)が運動療法の効果を仲介する可能性がある。

図は、変形性膝関節症(OA)の患者における運動療法の効果に影響を与える可能性のある調整要因(ポテンシャルモデレーター)および媒介要因(ポテンシャルメディエーター)を示している。

[結論] 疼痛と膝筋力の改善は、最初のピークKAMの増加を媒介する可能性があり、症状の緩和と生体力学的負荷の軽減を両立させることの難しさを示唆している。したがって、運動療法は、外反膝装具やインソールなどの生体力学的介入と組み合わせることで、両方の側面を同時に満たす可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これまで、KAMに影響を与える因子や、KAMを減少させる歩行戦略について文献抄読をしてきた(関連note参照)。
その大前提には、いつも “ある概念” があった。
その概念とは、『KAMは小さい方が良い』、である。

今回の抄読研究は、その大前提に対して、「それって本当ですか?」という疑問を投げかけていると思う。
この研究の結果によれば、運動療法によって、下肢筋力は増大し、疼痛は改善し、KAMは『増大』する。
確かに、よく考えてみれば、これは当然のことかもしれない。
例えば、左膝が痛くて、歩くときにはなるべく膝に負担がかからないように歩いているとする。
そのとき、荷重量の多くは、対側下肢や杖、あるいは同側の足関節、股関節で負担していることだろう。
それに対して、運動療法を行なって、左膝の疼痛が軽減したため、安心して体重を「かけられる」ようになった。
さて、このとき、KAMは上がるか、下がるか。
体重がかけられるようになったのだから、それはKAMも増大するだろう、と思う。

では、僕たちがこれまで繰り広げてきたKAM論争は、果たして何だったのだろうか。
僕は、『負担割合』の話だと思っている。
左下肢全体に加わる荷重量が『1』だったとして、KAMがどのくらいの割合を負担しているか。
その割合がKAMに偏重しているとすれば、それは問題と捉えられるかもしれない。
だが、荷重量全体が増えていて、KAMも増えているなら、それは「身長が大きいから体重も大きい」のように自然なことである。
何にせよ、KAMの絶対値が大きい、小さいことに『善悪』をつけることは得策ではないかもしれない。
新たな視点を与えてくれた一論文であった。

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