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時間制限食の威力:有酸素運動との相乗効果は遺伝子発現にも響く

📖 文献情報 と 抄録和訳

時間制限食と有酸素運動トレーニングの組み合わせは、高脂肪食を与えたマウスの体重増加を防ぎ、代謝障害を改善することができる

Vieira RFL, Muñoz VR, Junqueira RL, de Oliveira F, Gaspar RC, Nakandakari SCBR, Costa SO, Torsoni MA, da Silva ASR, Cintra DE, de Moura LP, Ropelle ER, Zaghloul I, Mekary RA, Pauli JR. Time-restricted feeding combined with aerobic exercise training can prevent weight gain and improve metabolic disorders in mice fed a high-fat diet. J Physiol. 2022 Feb;600(4):797-813.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:時間制限食とは?
- 「時間制限食」は、断続的断食の一種であり、毎日の特定の時間枠内でのみ食事を摂取するという食事スタイル。
- なお、断続的断食としては、この時間制限食以外にも、食べる日と食べない日を交互に繰り返す「隔日絶食」があり、また、断食ではなく摂取エネルギーを制限する期間を設ける「断続的エネルギー制限」という方法もある。
🌍 参考サイト >>> site.
🔑 Key points
- 時間制限食(TRF、暗期にエネルギー摂取を8時間/日に制限)単独または有酸素運動(AE)トレーニングとの併用により、高脂肪食を与えたスイスマウスの体重増加および代謝障害を予防することが可能である。
- TRFとAEの組み合わせの利点は、肝代謝の改善と肝脂質蓄積の減少に関連
- TRFとAEトレーニングは、肝臓において、脂肪酸酸化を増加させ、脂質生成および糖質生成遺伝子の発現を減少させた
- TRFとAEトレーニングは、高脂肪食負荷による肝臓のインスリンシグナル伝達経路への有害な影響を減弱させた。

[背景・目的] 時間制限食(TRF)や運動は、代謝異常の予防や治療に有効であることが示されているが、TRFと有酸素運動(AE)トレーニングの肝代謝に対する相加効果については、あまり検討されていない。げっ歯類モデルにおいて、TRF単独とTRFと運動の併用による代謝結果の違いとそのメカニズム的背景を明らかにすることを目的とした。

[方法] 本研究では、高脂肪食を摂取させた雄のスイスマウスにおいて、TRF(活動期8時間)とTRFとAEを組み合わせたトレーニング(TRF+Exe)を比較した。10週間の介入終了後、インスリン感受性、エネルギー消費量、肝臓代謝のマーカーを測定し、各群間で比較した。さらに、それらに関わる肝細胞遺伝子の発現に対する影響を評価した。

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✅ 図. 食事と運動による4つのグループ分けと詳細
生後4週間の雄のスイスマウスを4つのグループに分けて、10週間の実験を行ったものである。
(1). C-Ad:標準的な自由食群
(2). HF-Ad:高脂肪食群
(3). TRF:高脂肪食群には暗期/活動期に8時間TRFを実施
(4). TRF+Exe:8時間TRFと摂食期間終了後の有酸素運動トレーニング(ベースライン疲労速度の60%で30〜60分間のトレッドミル運動、7日/週で点灯時間0と点灯時間1との間に実施)

[結果] TRF単独(ツァイトゲーバー時間16と0の間のみ食事)で、体重および脂肪率増加の抑制、脂肪酸酸化の増加、肝臓での脂肪生成遺伝子の減少が十分であることが示された。さらに、TRF+Exe群のマウスは、酸素消費量、二酸化炭素生成量、ケトン体(βヒドロキシブチレート)生成量の増加といった付加適応を示すことが示された。また、TRF+Exeは高脂肪食負荷によるインスリンシグナル伝達経路(インスリン受容体、インスリン受容体基質、Akt)への悪影響を減弱し、肝臓での脂肪酸酸化(Ppara、Cpt1a)の増加、糖新生(Fbp1、Pck1、Pgc1a)および脂肪生成(Srebp1c、Cd36)遺伝子発現低下を招来した。これらの分子的結果は、TRF+Exe群における糖代謝の増加、血清トリグリセリドの低下、肝脂質量の減少を伴うものであった。

[結論] 本研究で示されたデータは、TRF単独でも有益であるが、TRF+Exeは相加的に有益であり、高脂肪食摂取による体脂肪率、肝代謝および血糖恒常性への有害な影響を、若い雄のスイスマウスにおいて緩和できることを示している。

📕+1 文献抄読:時間制限食は、糖尿病も防ぐ、そしてその機構は・・・
- TRE は、食事摂取を 4-10 時間/日に制限すると、軽度の体重減少(ベースラインから 1%-4%)とエネルギー制限をもたらすことが明らかになった。
- また、TREは、糖尿病予備軍や肥満の人において、空腹時インスリンを減少させ、インスリン感受性を改善する。
- さらに、TRE は耐糖能を改善し、血清グルコース上昇を減少させた。
● Cienfuegos, Sofia, et al. The Journal of Physiology (2022). >>> doi.

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、言わせていただきたい。
「どうした!、The Journal of physiology!!!」
昨日抄読した論文「食事-習慣連関:高脂肪食がサーカディアンリズムを乱す >>> note.」をはじめ、上記「📕+1」など、2022年のVolume 4 & 5は、理学療法士にとって神回になっていることは間違いない。
今後、このような分野で、そんな感じでやっていくなら、僕にとってエクスカリバー雑誌になるだろう!
処理にめっちゃ時間かかる。今回もかなり想定外だった。だが、それも嬉しい悲鳴だ。

では本題。以下の図をご覧いただきたい。

スライド2

どちらが、偉大だと思う?
もちろん、図左の『ガンジー』と答えるべき問題だ。飽食例はイラストで失敬。
『粗食と飽食』、これは古来より人間が格闘してきた重大な議題の1つだ。
So What?では、科学的にではなく、心に迫る文学的な側面からこの議題に向き合ってみる。

飽食は毒だ、これが人類の出した答えの1つだと思う。
勝手に心の師にしているトルストイの作品の中に、「小さい悪魔がパンのつぐないをした話」というものがある。

✅ 小さい悪魔がパンのつぐないをした話、概要
ある貧乏な百姓がいて、ある日、パン切れ1つをお弁当に持っていった。
人間の悪感情を引き出すことを喜び・仕事とする小悪魔がいた。
小悪魔は、パン切れを盗んで、「百姓がどんなにか怒って悪態をつくか」楽しみにしたが、百姓は「まあええわい、まさか飢えて死ぬこともあるめえ!」と取り付く島もなかった。
小悪魔は思案して、うまい案を思いついた。
それは、『百姓の畑をめっちゃ豊作にする』ことだった。
小悪魔によって、百姓の畑はたいそうな豊作になった。
百姓の手元には、まだどっさりよぶんの穀物が残った。
百姓は、それを持て余してしまうくらいだった。
さらに小悪魔は、百姓に余った穀物を使って酒を作る方法を教えた。
・・・
しばらくすると、その百姓は金持ちの百姓たちを招いて酒を振る舞ったり、少しの失敗をした妻を罵ったり、今もっている財産をそれがほんのわずかなものでも惜しむようになっり、した。
そして小悪魔は、こういった。
「わたしはただあの男に、余分な穀物を実らせてやっただけですよ。」

軽度であれば、飢餓は善かもしれない。
世界的には、ガンジーを見よ。
邦人なら、吉田松陰を見よ。
最近なら、イチローを見よ。
彼らは、張り詰めた弓のように引き締まっているだろう。

今回の論文は、時間制限食という粗食方法の威力を証明した。
すなわち、古来より人類が思い、描き、もがきながら出した1つの答えが、正解であることをサポートする論文の1つと言えるだろう。
サポートに留まらず、有酸素運動との相乗効果が遺伝子発現にまで影響を及ぼす、という次の領域にじわりとはみ出した。
その道を知ることより、その道を歩くことが大切、それを忘れてはいけない。
僕はたった今、習慣管理アプリ「Habitify」に、新たな習慣『時間制限食を徹底する』を組み入れた

ハングリーであり続けろ。馬鹿であり続けろ。
“Stay Hungry. Stay Foolish.”

スティーブ・ジョブズ

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