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脳卒中後の肩痛。原因と治療の標準化

📖 文献情報 と 抄録和訳

統合医療パスウェイを用いた片麻痺性肩関節痛の層別管理:18年間の臨床コホート分析

📕Walsh, Michele, et al. "Stratified management of hemiplegic shoulder pain using an integrated care pathway: an 18-year clinical cohort analysis." Disability and Rehabilitation 44.20 (2022): 5909-5918. https://doi.org/10.1080/09638288.2021.1951851
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[背景・目的] 片麻痺性肩痛(hemiplegic shoulder pain, HSP)は、後天性脳損傷の合併症としてよく知られているが、その種類は様々である。統合ケアパス(integrated care pathways, ICP)は臨床的な意思決定を支援し、ケアの質を向上させるためのタイムリーな介入を促すことができる。この18年間の臨床データのコホート分析は、入院リハビリテーション病棟におけるHSPの管理に関するICPの成果を示すものである。

[方法] 2000~2018年の間に入院したすべての適格患者について連続データを抽出した(n=333)。早期管理の指針とするため、患者を提示パターン(「Floppy-subluxed」(59%)、「Painful-stiff」(21%)、Mixed/not categorized(20%))に従って分類した。痛みは、Shoulder-Qを用いて、安静時、夜間、動作時の3つの領域で10段階で評価した。いずれかの領域で痛みが3ポイント以上軽減した患者を「反応者」とした。

✅ 図. 片麻痺性肩痛の統合ケアパスの概要。このパスウェイは、評価、介入、レビューのための時間スケールを設定したものである。

[結果] ベースラインの平均疼痛スコアは4.7 (95%CI 4.5,5.0) であった。安静時(4.7(4.3、5.0))や夜間(5.7(5.2、5.9))よりも動作時(6.1(5.8、6.3))のほうが高かった。痛みは3領域すべてで有意に減少し(p<0.0001)、全疼痛反応率は65%、完全消失は21-41%であった。また,提示パターンのカテゴリーと使用した管理プロトコルの間に有意な関係が認められた(X2 = 31.2, p < 0.0001)。

[結論] この高い疼痛反応率は、文献(14-27%)と比較して良好であり、HSPに対する層別化および統合的アプローチは、この異質な臨床症状においてより効果的な管理を導くことが示唆された。

[臨床意義] 統合されたケア経路で管理された場合、患者の3分の2は臨床的に有意な痛みの減少を示した。この結果は、文献に記載されている3分の1以下の痛みの軽減率と比較し、統合医療が痛みの軽減と患者の転帰の改善につながることを示唆している。肩の片麻痺の痛みは、様々な臨床的問題から生じる可能性がある。この18年間のコホート分析で、その症状の多様性と必要とされる治療の幅が確認されました。HSPの病態の多様性は、管理と転帰の評価の両面で課題を提起している。本研究の結果は、層別化されたアプローチによる治療が有効であることを示唆している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

その料理のことを知っていても、その料理を作れるわけではない。
その料理をつくるためには、必要な材料と作り方を知る必要がある。
脳卒中後の肩痛を1つの料理とするなら、その原因と治し方がセットになってはじめて、効果的な介入となる。
今回の抄読研究は、まさにこれを実現させた。

上のことを言い換えれば、すなわち『症状の病態を評価し、その病態に応じた治療介入をする』ということ。
それは、さながら明らかにされたレシピのようだった。
そのレシピに従って治療をしたところ、先行報告と比べて随分効果的だった。
まさに『標準化』、質の底上げ、といったところだろう。

近年、今回の研究のような介入指向型の研究が増えてきている。
最近、研修会で発表させてもらったキーフォーム(Keyform)もそう。

評価を評価だけで終始させず、介入への呼び水となる仕組みをつくっておく。
今回の場合など、呼び水どころか評価と介入が固定されたリンクとなっている。

今後、このようにレシピ研究が増えていくことが予測されるが、その限界を考えておくことは重要なことのように思う。
さて、何だと思う・・・?
そこに『思考力が介在しない』こと。
どういうことか。
カーナビがあると、その土地に思いを馳せることがないように、
自動ブレーキが配備されると、人間がブレーキを踏む能力が落ちるように、
何かが自動化/マニュアル化された途端、そこに臨床思考や能力の駆動が不要になる。
そこで起きるのは、廃用的な機能低下、つまり思考力の低下だ。
こういうのを『ララバイエフェクト(子守唄効果)』というらしい。
つまり、治し方のレシピが示されるほど、治し方の新しいレシピがつくれなくなっちゃう
これを『創造のパラドックス』と呼ぼう。
レシピ研究は質の底上げという旗のもと、この創造のパラドックスを経由してバンバン治療者の自力を下げてゆくだろう。
どうしても、これは防がなきゃらなない。

じゃあ、どうやって?
2つ方法があると思った。
①固定的なレシピの中にレシピ発展の呼び水を入れておく
・レシピの中に自由度を組み込んでおく
・例えば「他の要因は?」「他の治療法は?」などそのレシピ以外に思いを馳せるような質問項目の設置
・これにより、そのレシピが思考力を駆動させるデザインとなる
②固定的な作り方を示すのではなく、思考のツールだけを示す
・例えば1つの症状に対して網羅的に病態の種類を明らかにするMECEなど
・臨床で用いられる「論理的な思考の型」を共有しておく
・その型を用いた臨床思考過程のパターンも共有しておく
・その上で、特定のレシピを固定せず、そこには自由度を持たせる

何にせよ、大事なことは僕たちが考えるのをやめないことだ。
標準化は、とても有意義である一方で、発展の除草剤になるリスクがある。
コンクリートで固められた地面ではなく、新たな萌芽が期待できる、豊かな土壌をつくりたい。

学習を妨げる最大の敵は、すでに持っている知識だ
―ジョン・マクスウェル
Maxwell, J. Beyond Talent: Become Someone Who Gets Extraordinary Results. Thomas Nelson, 2011. Print, pp.184.

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