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“意思疎通困難者”のための観察に基づく2つの疼痛評価

📖 文献情報 と 抄録和訳

行動学に基づく疼痛尺度。一般病棟におけるBPS-NIとPAINAD-Gの妥当性と評価者間信頼性

📕Wandrey, Jan D., et al. "Behaviour‐based pain scales: Validity and interrater reliability of BPS‐NI and PAINAD‐G on general wards." European Journal of Pain (2022). https://doi.org/10.1002/ejp.2051
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🔑 Key points
🔹意義意思疎通ができない患者の痛みの強さを測定することは、一般病棟でよくある課題である。
🔹本研究では、一般病棟におけるBPS-NIとPAINAD-Gの信頼性と適用性を評価した。
🔹さらに、痛みの強さを推定し、鎮痛剤への反応をサポートするためのカットオフ値を提供するものである。

[背景・目的] 意思疎通ができない患者の痛みの強さを測定することは、一般病棟での課題である。認知症患者や重症の集中治療室(intensive care unit, ICU)患者に対しては、観察に基づく痛みのスコアリングツールが使用されてきた。しかし、認知症に関連した認知機能障害がなく、意思疎通ができないICU以外の患者に対する評価ツールは確立されておらず、有効性も確認されていない。このギャップを埋めるツールとして、「Behavioural Pain Scale Non-Intubated」(BPS-NI)「Pain Assessment In Advanced Dementia-German」(PAINAD-G)が期待されている。

[方法] 本研究は、Charité Berlinの一般病棟に入院しているICU以外の患者を対象に実施された。2人の評価者が独立してBPS-NIとPAINAD-Gを用いて痛みの強さを評価し、患者のNRS(Numeric Rating Scale)による自己評価も行った。BPS-NIとPAINAD-Gの相互信頼性を算出し、ROC解析を行い、各スコアにおける中程度の痛みと強い痛みのカットオフ値を特定した。有効性は一致率で算出した。

📗ミニレビュー:BPS-NI
「Behavioral pain scale non-intubated」(BSP-NI):ICUで最も使用されているツールの一つ(📕Chanques, 2009 >>> doi.)
・もともと、意識のない機械的人工呼吸患者の痛みを評価するために開発され、重症患者において広く検証されている(📕Aïssaoui et al., 2005 >>> doi.; Payen et al., 2001 >>> doi.) 
・痛みによって引き起こされる3つの行動範囲、(1)表情、(2)上肢の動き、(3)発声によってスコアリングされる。

📗ミニレビュー:PAINAD
「Pain Assessment in Advanced Dementia Scale」(PAINAD):認知症患者に対するスコアとして提唱(📕Warden , 2009 >>> doi.)
・PAINADスコアリングツールの信頼性は、長期治療(📕Schuler et al., 2007 >>> doi.)と急性期治療(DeWaters et al., 2008 >>> doi.)の両方の設定で評価されている。
・ PAINADは、呼吸、否定的な発声、顔の表情、ボディランゲージ、慰めへの反応という5つの行動指標をもとに、痛みの有無を判断する。

[結果] 合計で126名の患者が解析に含まれた。
■ 信頼性
・BPS-NIは相互信頼性においてかなりの一致を示し(Cohens-Kappa 0.71)
・PAINAD-Gは中程度の一致を示した(Kappa 0.48).
■ 妥当性
・Spearman-Rhoを用いた場合、BPS-NIはNRSスコアと強い相関(r = 0.53)を示し、決定度は27.6%(p < 0.001)であった。
・一方、NRS値とPAINAD-Gとの相関は、中程度の効果(r = 0.44)を示し、決定度は19.4%(p < 0.001)と評価された。
■ Cut-off
ROC分析によると、中程度の痛みレベルではカットオフ4(BPS-NI)または2(PAINAD-G)、重度の痛みレベルではカットオフ5(BPS-NI)および3(PAINAD-G)が、痛みの自己申告NRSと良い一致を示すと考えられる。

[結論] BPS-NIは一般病棟の患者の痛みの強さを測定するのに良好な妥当性を示し、意思疎通ができない患者にも使用できる可能性がある。BPS-NIとPAINAD-Gのカットオフ値を用いることで、患者の臨床的な痛みの強さを確実に検出することができる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

重症者とのリハビリテーション。
意識は、ない。
関節可動域練習、寝返り、…。
黙々と、淡々と、介入は進んでいく。

その中で、大事なこと。
声なき声を聴く。観察である。
表情、呼吸、発声。
(あっ、今痛いのかな)
(いま、興奮しているな、怒っているのかな)

無言の会話。
これまで、それを無意識に、無標準に、無採点に行っていた。
だから、他者との会話やカンファでは、どうしても主観的な共有にならざるを得ない。
今回の論文を読んで、求めていた評価指標を知ることができた。
雲のような主観的な意見だった、意識障害者、認知症者の疼痛評価が、具体的なスコアとして、手に触れる形で採点できる。
患者の声なき声を、他者に届けることができそうだ。

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