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1日に○%の筋萎縮?固定化で生じる筋萎縮

📖 文献情報 と 抄録和訳

健康および疾病における下肢の廃用性筋萎縮の時間的経過について

📕Hardy, Edward JO, et al. "The time course of disuse muscle atrophy of the lower limb in health and disease." Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle (2022). https://doi.org/10.1002/jcsm.13067
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[背景・目的] 短時間の断続的な廃用性筋萎縮(disuse muscle atrophy, DMA)は、加齢に伴う筋力低下にマイナスの影響を与える可能性がある。DMAの速度は筋肉によって、また、固定されている期間によって異なるという証拠がある。しかし、その特徴はまだ十分に明らかにされていない。このレビューは、健常者と重症患者の両方において、固定したヒト下肢筋のDMAの時間経過を確立し、比較することを目的とし、DMAの急性期と筋群間の萎縮率の差に関するエビデンスを探る。

[方法] MEDLINE、Embase、CINHAL、CENTRALの各データベースで、固定後の複数のタイムポイントにおける筋量、断面積(cross-sectional area, CSA)、構造、除脂肪体重を報告するヒト下肢固定に関するあらゆる研究を開始時から2021年4月まで検索した。バイアスのリスクはROBINS-Iを用いて評価した。メタ分析が可能な場合は、DerSimonian and Lairdランダム効果モデルを用いてメタ分析を行い、効果量は様々なタイムポイントにおける平均差(mean differences, MD)と95%信頼区間(95%CI)として報告し、メタ分析が不可能な場合はナラティブレビューを実施した。

[結果] 健康なボランティア(合計n=140)を対象とした12件の研究、集中治療室(Intensive Therapy Unit, ITU)患者(合計n=516)18件の研究、足関節骨折患者(合計n=39)3件の研究、計29件の研究が含まれていた。収録された研究の大半は、バイアスのリスクが中程度である。

■ 疾病を罹患した患者 vs. 健常者における固定化による筋萎縮
・最初の14日間の大腿四頭筋の萎縮率は、ITU患者(MD -1.01 95% CI -1.32, -0.69)が健康なコホート(MD -0.12 95% CI -0.49, 0.24) より有意に大きかった(P < 0.001).
・萎縮の割合は、重篤な患者においてより大きかった

■ 健常者における固定化による筋萎縮(各筋の比較)
🔹下腿三頭筋で最大(-11.2%、28日目)
🔹大腿四頭筋(-9.2%、28日目)
🔹ハムストリングス(-6.5%、28日目)
🔹足背屈筋(-3.2%)
・筋萎縮の割合は、筋群によって異なるようである
・健常者の大腿四頭筋(-6.5%、-9.1%)、下腿三頭筋(-7.8%、-11.2%)、ITU大腿四頭筋(-13.2%、-28.2%)において萎縮率は時間とともに減少するようであった
・筋群によってDMAの速度にばらつきがあり、固定化の初期にはより急速な萎縮が見られることから、時期によって異なるメカニズムが支配的であることが示唆される

[結論] 全体的なエビデンスは限られており、既存のデータでは、報告された指標に大きなばらつきがあります。健康時と疾患時のDMAの時間経過を完全に特徴付けるには、さらなる研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「ベッドで寝ているだけで動かさないと、1日○%くらい筋力が低下してしまうらしいですよ」

これは、不活動に陥りやすい入院患者の心に火を灯すために、よく使われる常套句である。
さて、皆さんはこの『○』にどのような数字を当てはめていただろうか。
僕は、筋力低下/筋萎縮ともに『1-2%』と、言っていた。

✅ これまで根拠としてきたエビデンス
■ 経験豊富なリハビリテーション医師の言葉(「1日1%落ちるぞ」)
■ 14日間固定と臥床の筋量と筋力の減少率比較: 固定(15-30%筋量・25%筋力低下) vs. 臥床(15-17%筋量・9%筋力低下) (📕Clark, 2009 >>> doi.)
■ 高齢者(67±5歳) 10日間臥床: 膝伸展筋力14%, 筋蛋白合成能力30%低下 (📕Kortebein, 2007 >>> doi.)

だが、これまでの根拠としてきたエビデンスは、専門家の意見、網羅的(メタ解析)ではないレビュー、単一の報告であり、「らしい」レベルの知識に留まっていた。
さらに、これまでは主に大腿四頭筋に関する知識を、全般に汎化させて使用していたが、それは妥当なのか、そこも不明だった。
今回のレビュー論文によって、上記2つの課題が解決されたように思う。
そして、これは大事だと思うのだが、図が美しい、一生使い続けたいエビデンスと思わされた。
これからは、部位によって違うが、例えば大腿四頭筋なら、
「ベッドで寝ているだけで動かさないと、お怪我をされている方におかれましては、1日1%くらい筋力が低下してしまいます!一緒に頑張りましょう🔥」

今回の文献によって得た知見は、僕の『らしい』という、どこか他人行儀な態度を訂正してくれた。
言っていることは、今回の文献を読む前と、ほとんど変わらない。
でも、そこに宿る確らしさが違う、信念の強さが違う、語るときの眼が、違う。
そして、Nature誌によって報告されたことなのだが、「医師のその治療に対してもつ信念の強さが、説明するときの眼が、患者の感じる痛みに影響する」(📕Chen, 2019 >>> doi.)
つまり、僕が患者さんの心を動かせる確率が、少しレベルアップした、と信じている。

最も伝わるメッセージを発するためには、
その言葉に体温と体重をのせよ

小泉進次郎

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