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ベッドレストは、筋量より『筋力』を先に落とす

📖 文献情報 と 抄録和訳

実験的疾患における神経筋機能-第一容疑者?

📕Soendenbroe, Casper. "Neuromuscular function in experimental disuse‐a prime suspect?." The Journal of Physiology (2022). https://doi.org/10.1113/JP283800
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[レビュー概要]

■ ベッドレストと廃用に関する背景
・ベッドレストは、1970年代の終わりには多くの疾患の医療処置の不可欠な部分であり(📕Burch & McDonald, 1971 >>> doi.)、今日でさえ、患者は大部分の時間を座っているか横になって過ごしている(📕Baldwin et al., 2017 >>> doi.)
・実験的な廃用(ベッドレスト、乾燥浸漬、四肢固定または四肢懸垂)の顕著な特徴の1つは、図に示されるように、筋肉量に対する筋力のより大きなな低下(📕Marusic et al., 2021 >>> doi.)で、これは運動皮質で発生する信号から結果として生じる筋収縮までの経路のどこかに不具合があることを示している。
・この観察結果をもとに、どのようなメカニズムが関与しているのかを考えることができる。
・The Journal of Physiology誌に掲載された2つの新しい論文では、廃用による神経筋システムの変化が第一の容疑者であるとされている。
・これらの研究では、若い男性が、四肢固定または四肢懸垂により引き起こされた廃用前後に、筋機能(筋力とパワー)および筋肉量の評価で調査されている。
・両研究において、質量に対する筋力(比推力)は15%以上低下し、廃用による機能への衰弱が質量に対して不釣り合いに大きいことが確認された。
・両研究において、最大下等尺性収縮時の筋内EMGを使用して、廃用後の神経筋の変化を評価した。

■ 論文①:10名の男性に対するエアブーツを用いた15日間の片側肢体不自由実験
・運動単位電位面積(MUP)と振幅は、単一の運動単位に属するすべての筋線維の合計を表す指標であるが、固定によって減少し、線維の萎縮や部分的な脱神経が示唆された。
・さらに、固定によって運動単位(MU)の発火率が低下し、MUPの複雑さが増大する一方、神経筋接合部の不安定さの指標であるジグルは変化しないことも分かった。
・筋肉量の減少よりも筋肉機能の低下が顕著である理由を説明する要因として、神経筋の機能不全を強く支持するものであった

📕Inns et al. (2022), Motor unit dysregulation following 15 days of unilateral lower limb immobilisation. J Physiol, 600: 4753-4769. >>> doi.

■ 論文②:11人の男性に対する10日間の片側下肢懸垂を用いた無負荷実験
・10日間の片側下肢懸垂→その後21日間、週3回の片側抵抗運動が行われた。
・除荷後はMU発火率(平均放電間間隔が大きい)が減少し、MUP複雑性が増加した
・血液サンプルと外側広筋の生検を分析し、シナプス伝達の障害マーカーを調べた
・その結果、神経筋接合部の不安定性のバイオマーカーであるC末端アグリン断片と、軸索損傷のバイオマーカーであるニューロフィラメント軽鎖は、いずれも除荷後に循環血中で増加した
・脱神経のマーカーであるNCAM+筋線維の数も、除荷後に増加した
・これらの知見をさらに裏付けるために、筋生検の標的RNA配列解析を実施
・その結果、神経筋の神経支配や筋のイオンチャンネルに関連する遺伝子の発現が変化していることがわかった
・重要なことは、廃用によって引き起こされた変化が、21日間のレジスタンス運動によって改善されたこと

📕Sarto et al. (2022), Effects of short-term unloading and active recovery on human motor unit properties, neuromuscular junction transmission and transcriptomic profile. J Physiol, 600: 4731-4751. >>> doi.

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

『カスケード』という概念がある。

✅ カスケード(カスケーディング)
・カスケードとは、何段も連なった小さな滝のこと。
・転じて、同じものがいくつも数珠つなぎに連結された構造や、連鎖的あるいは段階的に物事が生じる様子を表す。

🌍 参考サイト >>> site.

そして、筋力トレーニングによる正の筋の構造的/機能的適応は、短期的に神経ドライブ(機能的)→長期的に筋肥大(構造的)というカスケード構造を持つことが知られている(📕Asgaard, 2002 >>> doi. ; 📕Hakkinen, 2000 >>> doi.)。
今回の研究は、この逆、ベッドレストによる負の筋適応においても、短期的に神経ドライブ→長期的に筋萎縮というカスケード構造を持つ可能性を示唆した。
ある程度、エビデンス蓄積されてきたので『カスケード筋適応』と名づけてみる。

以前より、環境の変化によって人間に生じる変化には順番がある(『変化の順番』)ことを述べてきた。

✅ 変化の順番
- Phase0. 望む環境を選択する:例. スポーツジムに行く
- Phase1. 機能需要が変化する:例. 筋トレをして筋に対して機械的負荷が加わる
- Phase2. 可逆的な変化が生じる:例. その筋の神経ドライブが強化され筋力が向上する
- Phase3. 不可逆的な変化が生じる:例. その筋が構造的に肥大し筋力が向上する

今回の研究によって、変化の順番が正にも負にも生じうることを、改めて実感した。
理学療法士は、上記のPhase0-3の中ですべきことが変化していくだろう。
その筋力低下が、その関節可動域低下が、どのような病態に基づいたものであるか、どのPhaseにいるのかを見定め、適切な鍵で扉を開けたい。

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